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第四百九十二話 降り注ぐ贖罪の雨~実験奇譚・なんか妖怪ー9 [文学譚]

 俄かにどんよりと曇った天から降り注いでいた大粒の雨は、やがて、濃厚な

密度を持つ赤い液体の雨に変わっていた。ビルディングは赤く染まり、道行く

人々も、アスファルトの路面も、車も土も、何もかもが鮮血の色に塗り替えられ

ていった。

 これはいったいなんだ? 何が起きているのだ? 返り血を浴びたようになっ

た人々は互いの姿を確認し合いながら、怖れ慄いた。黄砂か? 何か生物の肉

が竜巻で吸い上げられてそれが降ってきたのか? それとも何かの呪いなのか。

研究機関がすぐさま赤い雨の成分を確かめたが、何もわからなかった。水質も、

イオン値も、化学成分も、すべてが通常の雨となんら変わらなかったのだ。

 古代の人々が大自然の脅威にひれ伏したように、現代人も恐怖を感じ、これ

は神の怒りではないかという噂が流布しはじめた。だが、その噂は、真実では

なかったが、遠からず当たっていた。

「けっけっけ、これは面白いじゃないか」

 根津という男はどこまでも商魂逞しい。赤い雨に濡れながら出先から会社に

戻った彼は、ニュースで赤い雨が危険な成分のものではないと知るやいなや、

全社員を集めて、赤い雨の収集を命じた。ありとあらゆる器が屋外に運び出さ

れ、血の色の水をその中に蓄え始めた。

「社長、こんなもの集めて、どうするつもりなんですか?」

「さぁなあ。どうするかなぁ。しかし、これは何の毒性もないと、ニュースで言って

たのを、聞いただろう?」

「社長、気持ち悪いっすよ。こんなことしていたら、なんかバチが当たるので

はないでしょうか?」

「あほ!そんなことだからお前は役立たずと言われるんだ! これをどうやっ

て金に変えるか、お前らそれを考えろ」

 無茶な話もあったものだが、根津というやつはそういう男なのだ。まずは金。

その次に金。最後に金。金さえあればなんでも出来ると思っている。だから、

金のためならなんだってする。ときには人殺しさえも。だが、根津の本質は、

決して悪い人間ではない。人がよくて、それなりにひょうきんで、ときには他

人に施しをすることさえある。ただ、少しだけずる賢くて、欲深く、間が抜けて

いる。それだけのことだ。だからいつも、とんでもない金儲けを考えては、親

友である鬼太郎に邪魔をされてしまうのだ。

「けけけ、今回だけは邪魔はさせねえぞ。こんなもん、悪いことでもなんでも

ないからな。」

 根津は集めるだけ集めた赤い液体を、大量に仕入れた小瓶に詰めていっ

た。もちろん、根津の会社はなんでも扱うレンタル会社であるから、瓶詰め機

械を手に入れることなんてなんでもない。社内の大会議室に瓶詰め機を搬入

して、赤い水が入った小瓶を大量に生産していった。そしてその瓶にラベルを

つけて、自社で立ち上げているインターネットのeコマースに載せた。ラベルに

は「すべての罪を洗い流せる贖罪の水:RedWater。人畜無害。飲んで汝の

罪を洗い流そう」と書かれてあった。

 レッド・ウォーターは、主にキリスト教圏である海外の人々が注目した。すで

に国際ニュースで、日本で起きた珍事のことは報道されていたし、その水には

危険性がないこともわかっていたので、このような不思議な現象によって降り

注いだ雨は、間違いなくメシアから人類への聖なる贈り物に違いないと考える

人が多かったのだ。日本という国民は不思議なもので、海外で人気となれば、

日本でも流行する。少し遅れて国内でも申し込みが殺到しはじめた。

 赤い雨は、あの後しばらく降り注いだが、その後ぴたりと止み、もう二度と降

ることはなかった。赤い雨に続いて降ってきた通常の雨が、赤く染まった街を

すべて洗い流し、数時間後には何もかもが元通りに復旧した。

「おい、根津! ねづみ男! お前、またなんか企んだそうじゃないか。いった

い何をしたんだ?」

そう言って根津に電話をかけてきたのは、鬼木太郎。根津の中学からの同級

生で、橋桁でポーラという妻を拾った男だ。

「なんだ? お前、また俺のやることにケチをつける気なのか? 今度は何も

悪さはしちゃぁいねえよ。」

「でも、大儲けしてるって、もっぱら世間の噂だぞ」

「けっ。儲け損ねた奴が僻み根性で悪い噂を立てているんじゃねえか?」

「で、何をした?」

 根津は、仕方なく赤い水の話をした。

「おい、それって、大丈夫なのか? なんかやばくないか?」

「大丈夫だって! お前もニュースは見たんだろ? あれは普通の水! ただ赤

いだけだって」

「見たけどさ、しかし、逆に言えば、そんなただの水を高い金で売りつけるなん

て、どうかしてるぜ!」

「そんなもの、買うほうが馬鹿なんじゃぁねえか。今は水道の水だって買う奴が

いる時代だぜ!こういうもので商売しないで、何がビジネスマンだ?ってことさ」

 とにかく根津という男は、性懲りもなく、何かをしでかしてくれる。これが何かの

騒ぎに繋がらなければいいが。鬼木太郎はそう願うのだった。

                                  了

続く:第四百九十三話 七つの大罪   前回:第四百九十一話 脱皮する男

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第四百九十一話 脱皮する男~実験奇譚・なんか妖怪ー8 [文学譚]

 昨日買ったばかりの靴が、いささか窮屈で、今朝おろしたてで会社に履いて

きたら、もう靴擦れが出来て痛い。もうワンサイズ大きいのにしとけばよかった

かなとも思うが、靴というものは大き過ぎると、それはそれで踵が擦れてしまっ

て痛くなる。ぴったりのサイズを見つけて、少し履き慣らして使うというのがベ

ストなのだ。

 しかし、今日はもう、履き慣らさずにいきなり履いてしまったのだから仕方が

ない。しばらく痛むが我慢しよう。そう思って、事務所のデスクに居る時は、と

きどき靴を脱いで足を休ませていた。ところが、靴の中で窮屈に縮こまってい

た足紗季は、靴を脱いでもまだおかしい。痺れているのかな? そう思ったが

そんな感じでもない。靴を脱いでるのにまだ窮屈な皮の中に押し込められて

いるような感じなのだ。おかしいなと思いながら足先を持ち上げて手で揉んで

やると、掌の中で何かが破れた。

「ぐしゃ。」

 新聞紙でくるんだ生卵が割れた感じ。いや、もう少し華奢な手応えだな。玉ねぎ

の茶色くなった外皮が剥けた感じ。あれぇ?なんだこれは?慌てて靴下を脱いで

確かめると、踵とつま先の皮が大きく外れている。

「え?」

水虫というには、皮の取れ方が尋常ではない。こわごわ指で外れた皮を引っ張っ

てみると、ズルリと取れてしまった。皮がめくれたその下には、これが俺の足か?

と思えるほどえぐい紫の皮膚が見えている。しかも、指で触れた感じでは結構硬

いのだ。大変だ。何かエラいことが、俺の身体に起きている。

 マサオは第三セクター系の電力会社に勤めるエリートだ。まだ入社して数年しか

経たないが、こういう仕事は世の中のためになると信じて入社した。だが、数年前

に起きた天災で、関東の発電所で大事故が起きて以来、自分の仕事に疑問を持

ち始めていた。それで、エネルギー会社に勤めていながら、国が行うエネルギー

政策に対するデモに参加したり、原子力反対者の集会に出たりしていた。

 ある日、上司から呼ばれて大叱責を受けた。

「円くん、どういうことかね。君が原熱電反対デモに参加しているのをたくさんの人

が目撃してるんだよ。ウチの社員でありながら、国のエネルギー制作に反対する

集会に出るというのは、困るんだよ。」

 マサオは反論することが出来なかった。部長の言うとおりだからだ。自分たちが

行なっている事業に反対するなら、会社を辞めるべきだ。だが、辞めてしまっては

外から非力に闘うしかないではないか。内部にいるからこそ、裏で行われている

こともわかるし、国民が何をするべきかが見えるんだ。だが、マサオが言っている

とは、ほとんどスパイみたいなものだ。

 天災で事故が引き起こされた発電所は、原子力発電によって電力供給をしてい

た。そのときはじめて原子力発電の危険性がクローズアップされ、国民の多くが猛

反対したために、全国の原子力発電所では、継続した運転が困難になった。しかし、

原子力発電に代わる強力なエネルギーが存在せず、国内の経済活動への影響が

問題視された。そのときにある研究者から技術提供がなされて、それに国が乗った

んが、原子熱発電だった。

 原始力発電では、核融合によって排出されたエネルギーで蒸気を発生させ、蒸気

が生み出す圧力によってタービンを動かして電気に変換するのだが、原子熱発電

では、核融合で生まれた熱を直接エネルギーに変換するというものだった。この方

法だと、仕掛けがシンプルで大きな設備は必要なく、そのためにリスクが少ない、

しかも効率良く電力を発電出来るのだと政府は発表した。だが、ほんとうのところは、

直接エネルギーに置き換えるという手法は危険極まりないやり方だったのだ。一部

の研究者は反対したが、切迫するエネルギー問題を目前にした政府高官は、提案

してきた科学者の論理に気圧されて、安全であると信じ込んでしまった。また一度

そのような安全イメージが構築されてしまった以上、周囲の関係者の多くも、右へ

習えをしてしまった。

 こうしたことの成り行きを知った良識派の学者とその取り巻きが、反対運動を行

なっていたのだが、マサオもこの運動に参加していたのであった。

「そろそろ君も、大人のビジネスマンとして脱皮したらどうだ」

 大声で叱責する部長は、脱却という言葉の代わりに”脱皮”と言った。そしてこの

言葉がマサオの体内に眠る何者かを発動させてしまったのだ。

 マサオは、身体の異変に驚いて、すぐに病院へ向かった。事務所のあるビルを

出て、大通りを歩き、街の中央を流れる大きな川に差し掛かったとき、一気に異変

がマサオに押し寄せた。マサオは人目を忍ぶために橋桁の下に駆け込み、身に

付けている衣服を破いた。衣服の下から現れたマサオの身体は黒紫の光りを放

ち、天空にどす黒い雲を集めた。俄かに周囲は薄暗くなり、激しく降り始めた雨粒

に、人々は軒下を求めて右往左往した。

「うぉおー」

 橋の下で、人知れず唸り声をあげるモノがいる。それはもはや人とは言えない

者か。マサオの意識は残されていたが、それ以上に、世の中の悪意を憎む想

に満ち満ちている。

「ぐぉおおおお! 頭の悪い部長め。馬鹿な人間どもめ。今に大変なことが起きる

と思い知らせてやるわ」

 黒紫の獣は、もともとはマドカマサオだった。正義の人間であってほしいと願って

父親が名づけた円正王という名前は、皮肉にも、エンマオウ、閻魔王とも読めてし

まう。そして今、彼はその名の通り、地獄の神、閻魔王と姿を変えて、背中から伸

び開いた黒い翼で何処かへ飛び去っていった。

                                  了

続く:第四百九十二話 降り注ぐ贖罪の雨   前回:第四百九十話 予知する男

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第四百九十話 予知する男~実験奇譚・なんか妖怪ー7 [文学譚]

 ノリコのベーカリーには、カフェスペースがある。焼きたてのパンをその場

で楽しんでもらうためだ。パン職人だった爺さんが亡くなったあと、五年の

ブランクを経て、爺さんの孫であるノリコが店を改装してオープンした。ノ

リコのベーカリーは、もともと爺さんの店を愛していた町内の住民の支持を

得て、その後順調に営んでいる。大盛況とまではいかないが、ほそぼそとや

っていける程度には繁盛し、開店後一年過ぎた今は、むしろカフェコーナー

の方が人気だったりもするようになった。夜はワインも飲める店になり、昼

夜を問わず、客が焼きたてのパンと優雅な時間を楽しんでいる。

 そのカフェスペースの片隅には、いつも一人の男が陣取っている。近隣に

住む濡良優介という寡黙な男だ。いつこの店にやって来たのか、いつ帰って

いったのか、そんなことも気づかないような不思議な男である。実はこの男、

ずいぶん昔からこの町に住んでいるような気もするのだが、彼がいつこの町

にやって来たのか、何をしている男なのか、そう言うことも謎な男である。

しかし、町内の住民から疎まれているかといえば、そういうことでもなく、

話しかけると笑顔が帰ってくるし、暗い影があるわけでもなく、何よりもそ

の風貌はきりりとしてなおかつ優しさを湛えているので、むしろ好ましく思

われているくらいだ。そこまでいい男ぶりなのに、何故かいつ店に来たのか、

いついなくなったのか、誰も気がつかないというのが不思議な存在だった。

 ノリコは最初、コーヒー一杯で店の一角を占領してしまう濡良をちょっと

迷惑な存在だと思ったが、男が座る姿がカフェスペースの雰囲気に案外マッ

チしていて絵になるので、店のインテリアだと思うようになってからは、気

にならなくなっていた。

 ある日、濡良のテーブルの空になったグラスに水を注ぎに行ったところ、

濡良が珍しく口を開いた。

「明日の朝、揺れる」

「え?」

 この人何を言ってるのかしらと思って、ノリコは思わず聞き返した。

「大きく揺れるから、気をつけた方がいい」

濡良はそう言って、また黙ってしまった。それまで読みふけっていた本の世界

に戻ってしまった濡良は、もうノリコが呆然として突っ立っていることなど、

気にもとめていないようだった。

 なあに、この男。揺れる? 地震が起きるということ? まさか。地震なん

て科学者でも予知出来ないというのに。だが、ノリコはその日、閉店後に、店

中の食器を箱にしまい込み、倒れそうな食器棚を紐で括り付けたり、もしかの

地震に備えて就寝した。

 朝方、ノリコは異変を感じて目を覚ました。地震だった。いつにない大きな

揺れで、しばらく横揺れした後、何事もなかったかのように日常が戻った。

 ノリコは濡良の言葉を思い出した。「大きく揺れる」あの男が言ったことが

本当になった。いったいあの人は何ものなのだろう? 偶然? それとも予知?

すべては謎だが、濡良の奇妙な存在感に、一層不思議さが加わった。

 濡良優介、そういえばあの人は帰化した人だと聞いたことがあるけど、どこ

から来た人なのかしら。中国? それとも韓国? それ以上のことをノリコは

知っちゃあいないのだが、濡良優介の帰化前の名前は、利玄、リヒョンと言っ

た。ヌラ・リヒョン。実に不可思議な男である。

                     了

続く:第四百九十一話 脱皮する男   前回:第四百八十九話 ノリコのベーカリー

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第四百八十九話 ノリコのベーカリー~実験奇譚・なんか妖怪ー6 [文学譚]

 街のはずれに人気のベーカリーショップがある。もともとはフランスでパン

修行をしてきたノリコの祖父がはじめた小さなパン屋さんだったが、祖父が

六十八歳で亡くなり、ノリコの父は後を継がずに勤め人になってしまってい

たので、店舗は長いあいだ放置されていた。

 祖父がパンを焼いている頃、ノリコの口は焼きたてのパンで満たされた。

クロワッサン、シャンピニオン、チーズバンズ、エピ、形も大きさもそれぞれ

に違う、香ばしく焼きあがったパンは、ノリコには欠かせないものだった。

 どうして父は後を継がなかったのか。そう聞くと、食べ物を作る仕事なん

てしたくなかった、という単純な答え。そこには葛藤も悩みもなかった。だが

父は、どうやら米粒の方が好きだというのも理由のようだ。

 反対にノリコは食べ物が大好きだし、その中でもパンは大好物だ。だから

いつも祖父のお店で祖父の仕事を眺めたり、手伝ったりするのが好きだった。

いつか自分もパン焼き職人になる!そう信じていたのに、ノリコが大人になる

前に祖父はいなくなってしまったから、ノリコの夢は実現できなくなった。

 短大を卒業した後、ノリコは普通に中小企業のOLになった。だが、心のどこ

かでパンを作りたいという気持ちがくすぶっていたのだと思う。二十五歳の時

に父が癌になって急逝したのを期に、ノリコはOLを辞めた。それから専門学

校に半年通って、パン焼きを覚えた。そして遂に母親の助けを借りながら、パ

ン屋になるという夢を実現させた。祖父の店を再開させたのだ。

 こうして出来たお店がノリコのパン屋。名前は「ノリコベーカリー」。広めに改

装した店内にはちょっとしたティーラウンジもこしらえた。焼きたてのパンを食

べながらお茶してもらうためだ。ここはもともとノリコの地元なので、祖父の店

も知っている幼馴染や、小中学生の頃の同級生なども、ノリコがパン屋を再

開させたことを祝福してくれている。

 ノリコは、店の再会を町中で祝って欲しいと考え、ささやかながら、オープニ

ングパーティーを開いた。手作りのチラシをつくり、近所中にばら撒き、友達

みんなにメールで配信した。その全員が、というわけにはもちろんいかなかっ

たが、多くの友人が駆けつけてくれた。

「ノリコ、おめでとう!」

「ノリコ、とうとう夢が叶ったね!」

「ノリコ、おじいさんの味に負けちゃダメだぞ、買ってやらないぞ」

口々にノリコに激を飛ばす友人たち。そしてOL時代にはほとんど顔を合わせる

機会もなかった近所のおじちゃんやおばちゃんたちも、お祝いを持って覗きに来

てくれた。実は、みんな祖父のパンが大好きだったのだ。

「ノリコは昔からパン好きだったものねぇ」

そう言ったのはポーラだ。彼女とは小学校以来の友達だ。ポーラだなんて、外人

みたいな名前だが、ほんとうは歩羅とかいて”あゆら”という名前だ。これでも奇

妙な名前だが、私たちはみんな子供の頃から彼女をポーラと呼んでいた。

「ポーラもよくおじいちゃんのパン、食べてたじゃない」

「そうそ、あの餡子の入ったフランスパンとか、大好きだった!あれ、ノリコも作る

んでしょ?」

「もちろん!あれは私も大好き!」

「ノリコは食いしん坊だったから、どんどん成長しちゃったのよねぇ」

「もう!ポーラったら、一言多い!」

 ポーラは、ノリコの体格のことを言っているわけなのだ。ノリコはそれほど

背は高くない。だが、横幅が少しあるのだ。デブというのは言い過ぎだが、

いわゆるポッチャリ系、いやがっしり系かな? まぁ、そんな感じ。ノリコが

もう少し歳を重ねれば、肝っ玉母さんとかいわれそうな、そんな体型である。

このノリコの体型が醸し出す雰囲気は、とても人に安心感を与える。名は体

を表すということわざがあるが、ノリコの場合は、体は心を表すというものだ。

イメージとして安心感を感じさせるだけでなく、ノリコはほんとうにあたたかい

心の持ち主だし、さらに正義感に溢れている。だから、誰かがひどい目にあ

っていたりなどすると、その人の前に壁のように立ちはだかり、いじめている

相手から守ろうとする。場合によっては、その相手に立ち向かって行きさえす

るのだ。こんなノリコの性格を知っている友人たちは、ノリコベーカリーが出

来て依頼、ノリコのことを、ノリコべーカリーの店名をもじってこう呼ぶように

なった。「塗り壁~かりー」。ノリコベーカリーは、今日も美味しいパンにあり

つこうと集まってくる常連客で溢れている。

                                了

続く:第四百九十話 予知する男   前回:第四百八十八話 ゲイ歴0年、木綿一太

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第四百八十八話 ゲイ歴0年、木綿一太~実験奇譚・なんか妖怪ー5 [文学譚]

 木綿一太はひょろりと背が高く、グレンチェックのツータックパンツに黒の

タイトシルエットのジャケットを合わせている。客のところに行くときだけ、白

い綿シャツの胸元に濃い緑のレジメンタルタイを締める。ネクタイはあまり

好きではないのだが、ビジネスシーンではそれが礼儀ということになってい

るので仕方なく締めている。だいたい、ロンドンのように霧深くもない日本で

どうしてこんなものをつけなければならないのだと、思っている。

 一太は、ほんとうはファッション界で働きたかった。ファッション界というより、

高校の頃に、服飾デザイナーになりたいなと思っていたのだ。

 一太の父親はサラリーマンだし、母親も普通の専業主婦。家の中のどこにも

ファッション的な環境などないのだが、どういうわけか一太は子供の頃から服

が大好きで、少ない小遣いでどうやってお洒落をしようかということばかり考

えていた。

 世の中はブランド流行りで、雑誌の中でモデルが着ているアイテムは、どう

転んでも一太が手を出せるような価格のものではなかった。もちろん、母親に

買ってもらうとか、小遣いを貯め込んで買うとか、そうやって手に入れたブラン

ド品もなくはないが、たいていは商店街の中によくあるコピー品を扱う路面店

やフリーマーケットで気になる服を探し出すのだ。

 そうやって苦労して手に入れた服は、組み合わせによって二倍にも三倍にも

使いまわせる。白いTシャツひとつとっても、綿シャツの上に重ねるのと、色違い

のタンクトップを重ねるのとでは、まったく違うものに見える。だがコーディネイト

にも飽きてきた一太は、古くなったジーンズに鋏みを入れたり、ジャケットの袖

を外してしまったり、服飾デザイナーの真似事まではじめるようになった。

 一太が高校三年生になっていよいよ大学の選択を迫られたとき、服飾専門

学校に行きたいのだと言って、両親から猛反対された。

「手に職をつけるというのも悪くはないがな、今は、やっぱり大学は出たほうが

いいぞ、一太。学歴社会とも言われなくなったように見えるけど、社会はやっぱ

りその人間をブランドで判断するからな」

 父親がいうこともよくわかる。専門学校に行ったからといって、デザイナーにな

るとも限らないしなぁ、そう自らに言い聞かせて、結局普通の大学に進学し、

いつしかファッションデザイナーになるという気持ちも薄れて、一太は資格取っ

て会計士になった。

 このような経緯で、今の一太は、普段は会社員としてスーツかジャケットを着

用し、休日にだけ自由なお洒落を楽しんでいる。むしろファッションを仕事にし

なくて正解だったとすら思う。仕事にしてしまったら、もはやファッションは楽し

ものではなくて、疲れるものになったかもしれないからだ。今は金勘定の仕

事をこなしながら、ファッションを自由に楽しんでいる。衣服って、本来はこう

あるべきだったのだ。

 三年後には三十路に到達してしまう一太だが、休日の見た目はえらく若い。

はじめて出会う人からは、大学生と間違われることも度々ある。そりゃぁそう

だろう。今どきの若者が着るようなスタイルばかりを好んで身につけるのだ

から。特にストリート系だとか、クラブ系だとか、自分のジャンルを決めてる

わけではなく、その日の気分で、ダボっとしたカーゴパンツを腰履きし、トレ

ーナーをルーズにかぶることもあり、スパッツの上にショートパンツを重ね

て、チェックのシャツを羽織ることもある。

 最近では、ちょっと綺麗系のファッションが気になり始めている。綺麗系

というのは、まぁ、ちょっと女子寄りのスタイルっていうか、レースが入った

シャツだとか、背中が透けているジャケットだとか、そういう感じ。そう、ビ

ジュアル系のバンドのミュージシャンみたいな、といえばわかりやすいか

もしれない。ちょっと前からメンズスカートというのも現れていて、一太は

そこまでの根性はなかったのだけど、一度試してみたいと思っている。

「ねぇ、俺さ、スカートって似合うと思う?」

「お! いいんじゃない?似合うと思うよ。着こなし次第だけどね」

友人ののばらは賛同してくれる。だが、彼女自身、結構エキセントリックな

だから、どこまで信じていいのかっていう疑問は残るが。

 砂蔭のばらは、これまでに何度も会社を辞め続けている問題女子だ。何

気に入らないのか一太にはよくわからないが、就職しては、相手に砂を掛け

るような言葉を置き土産にして辞職する、ということを繰り返しているので、砂

かけのばら、砂かけバーバラと呼ぶようになった。のばらが五つ目に入社し

半年で辞職したのが、今一太が勤めている会計事務所だ。そこで二人は意

投合して、彼女が去った後でもときどき会って遊ぶ。変わったもの同士でなんと

なく気が合うのだ。

 一太はとうとうスカートを手に入れた。濃紺のテロンとした生地のロングスカ

ート。買ってはみたものの、着こなしに迷った。下手をすれば女装者みたいに

なるのではないかと思えたからだ。だが、スパッツの上にこれを重ね、トップス

は普通にシャツとカットソーとベストを重ねる。これで結構いけそうだ。歩いて

みると、下半身がフリーな感じでとても心地いい。のばらを呼び出して、街歩

きを楽しむことにした。

 翌週、仕事で訪れた客の一人が、一太の顔を見てニマニマしながら言った。

「木綿さん、こないだ駅前で見かけたぞ。なんかすごくおしゃれして、ほら、スカ

ートがよく似合ってて。ぼくさ、声を掛けそびれちゃったよ」

 仕事でしか会ってないと思っていても、案外知らない所で見られいるものだ。

彼の言葉を褒め言葉と思った一太は、その後も違うスカートを手に入れたり、

自分で作ってみたりして、お洒落を楽しんだ。ところが、半年ほど過ぎた頃、

事務所の社長に呼ばれて部屋を訪ねた。

「木綿くん、ちょっと妙な噂が耳に入ったのだが、何か困っていないかな?」

社長がいうには、ある得意先の人から、一太がゲイではないのかと聞かれた

という。だからといって、何も仕事に支障はないのだけれども、客によっては、

そういうことに敏感な人もいるので、経営者としては気をつけとかねば、とそ

う言った。

「冗談じゃない。ぼくは、そういうのにはちっとも興味ないですけど。」

そう言い切ったものの、実はちょっとだけそうかもしれないなとも思った。一

太は同性が好きだと思ったことは一度もないが、逆に女性に恋焦がれた

経験もない。そのことを今まで疑問にも思わなかったが、ゲイなのかと問わ

れれば、そういうのもゲイっていうのかしら? と思った。

 ひょろりとスリムで背が高く、色白で目鼻立ちもくっきりしている一太は、お

化粧したらきっと綺麗になるわよ、などとのばらにからかわれたことがある。

だけど、ぼくにはそんな願望はないなぁ、一太はそう思う。だが、スカート姿を

誰かに見られたから、そんな噂が立ってしまったのかな、ファッションって案外

怖いものだな、そうも思った。

 ファッションが、布めのモノが大好きな一太のあだ名は”一反もめん”。苗字

は木綿と書いて”きわた”と読むのだが、みんな”もめん”と読む。”もめんいった”

と呼ぶと、「何? 言ってないよ」と会話がちぐはぐになるので、前後逆転して

”いったもめん”、”いったんもめん”と呼ばれるようになった。のばらは”イっちゃん”

とか”イッタン”と呼ぶ。

「イッタン、それ、おもしろいじゃない。この際、ゲイってことにしとけば?そうすれば

女の子のおしゃれもどんどん取り入れて、もっと楽しめるかもよ」

 相変わらずのばらは無責任だ。

                                  了

続く:第四百八十九話 ノリコのベーカリー   前回:第四百八十七話 砂掛け野ばら


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第四百八十七話 砂掛け野ばら~実験奇譚・なんか妖怪ー4 [文学譚]

 のばらは、これまで十社の会社を転々としてきた。大学を卒業して社会に出

たのは十五年前だから、この十五年間に十社を渡り歩いたということになる。

単純計算すると、一年半毎に会社を辞めたということになるが、実際には三年

間勤めた会社もあれば、たった一日で行かなくなった会社もある。

 何故そんなにポロポロと辞めちゃうの? 友人からはそう尋ねられるが、本人

自身もよくわからない。気がついたらそうなってしまってる、というのが常なのだ。

 のばらは、決して気が短い女というわけではない。軽はずみなところはなくも

ないが、自尊心の強さが徒になっていると思われる。

 たとえば、新卒で入社した会社は小さな出版社だったが、のばらは編集要員

として採用された。だが、実際の仕事は、編集どころか毎日毎日くだらない風俗

雑誌の校正ばかりさせられた。風俗と書いたが、それは正確ではない。風俗要

素をそれなりに含む男性向け情報誌というのが正しいところだ。名称を「プレイ

メイト」といい、口説き上手への道とか、その気にさせる都内のホテルランキン

とか、イケメンの気取り方、ちょいワル若造になろう、毎号そんな特集が組ま

るような雑誌だ。巻頭ではグラドルのセミヌードが媚を売り、真ん中あたりの

エローページでは風俗店レポートなどが連載されている。

 はじめのうちは、こういうのも勉強のうちだからと我慢して、朝から晩まで目

がチラチラするほど人の文章を読み続けた。社長兼編集長の望月からは、一

年は辛抱しろ、次の新人が入ったら、君には編集の仕事をしてもらえるように

なるから、そう言われた。零細企業ならそうあるべきだが、望月も経営者とし

て人材育成には心を砕き、公私にわたって面倒見がよかった。「校正作業は

キツいだろうが、ちゃんとした本作りには欠かせない重要な仕事なんだ」と、

モチベーションをあげるような事も再々言った。

 しかし三ヶ月もすると、のばらは、この校正作業にも飽きてしまって、どう

して私がこんなくだらない雑誌の校正をしなきゃぁらないのだと思うように

なった。いったんそんな考えにとりつかれると、もうのばらは止まれない。翌

月には望月に辞表を渡していた。

「のばらくん、もう少し辛抱したらどうだ? この仕事は経験を積めば積むほ

ど、面白くなっていく仕事だぞ」

編集長は引き止めるための最初の台詞を言ったが、どうせ校正員がいなく

なると困ると思ってるだけだろう、のばらはそう思った。

「編集長。私はこんな経験を積み上げたくありません。編集長も、こんな何

の役にも立たないような雑誌を世間にばら蒔くのは、お辞めになったほう

がよくないですか?」

 まさに、可愛がってくれた人に砂を掛けるような言葉だ。思ったことをまっ

すぐに口に出してしまうのばらならではの辞職の言葉だった。

 次に席を置いたのは大手の書店だった。バイトのつもりで応募したら、正

社員でということになり、市内の店舗に配属された。だが、初日に店長から

皆に紹介された後、店頭であのプレイメイトという名の雑誌を発見した。本

屋なのだから、そういう本があって当然なのだが、のばらはその日のうちに

辞職願いを申し出た。結局、バイトにすらならなかったわけだ。

 その後、ファストフード企業、アパレル会社、広告会社、百貨店、食品会社、

よく分からない金融会社など、ジャンルを問わず就職したが、いずれも半年

から三年の間に辞めてしまった。共通して言えることは、与えられた業務が

自分の能力にそぐわないと思えたことと、辞める理由として素直な気持ちを

言い残したということだ。

「この会社が売ってる商品を、私は友人に勧めたいとは思いません」

「女性向けの製品を扱っているのなら、もっと女性の気持ちを考えられるよ

うな社員を雇うべきです」

「あんな頭の悪い管理職がいる限り、この会社には未来がないと思います」

 のばらを雇うことになった面接官には、こういうはっきりした意見を臆す

ことなく言える女性は面白いと思わせたのだが、辞職の言葉としてはきつい

ものがある。のばらは「飛ぶ鳥後を濁さず」のことわざに縛られることなく、

会社を辞める度に後ろ足で砂を掛け続けたと言える。

 こんなのばらの会社遍歴を知る友人は、いつしか彼女を本名の「砂蔭のばら」

ではなく、砂かけバーバラと呼ぶようになった。婆あというような歳でもないので

なんとなく、のばら転じてバーバラになったのだ。

 砂かけバーバラは、そろそろ会社を転々としてしまう自分には問題があるので

はと気づきはじめたかと言えば、そうでもない。先週には十社目の会社を辞めた

ばかりだ。「私はこんな会社で無駄な人生を送りたくありません」と言い捨てて。

                              了

続く:第四百八十八話 ゲイ歴0年、木綿一太   前回:第四百八十六話 女泣かせのジョージ


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第四百八十六話 女泣かせのジョージ~実験奇譚・なんか妖怪ー3 [文学譚]

 丈二は名前がイメージさせるようなバタ臭い顔立ちではない。むしろ逆で、

目尻の切れ上がった一重瞼で、鼻は高く、面長。昔の公家のような容貌をし

ている。世間がいうところのしょうゆ顔のイケメンだ。だからといって嫌味な感

じがしないのは、彼の人懐っこさだと思う。自己顕示欲の強いタイプでもない

ので、誰彼なく自分をアピールするようなことはない。なのに、とりわけ女子

の間で評判がいいのだ。

「ねぇ、ジョージ、これお願い」

「あ、ジョージ、私のもね」

「ジョージ、帰りにちょっとだけ付き合って」

 モテているわけではない。何かと頼まれてしまうのだ。丈二もまた、それを

断らないし、断らないからまた頼まれる。丈二の人懐っこい性格がそうさせて

いるのはもちろんだが、それ以上に”丈二”という名前にも原因がある。そう、

呼びやすいのだ。生粋の日本人でありながらジョージなんて外人みたいな名

前。それは素敵であると同時に、呼んでみたくなる語韻だといえる。

「ジョージ、そんなに何でもかんでも女子に優しくしてたら、彼女が出来たとき

に困るよ」

 事務所の女子社員の中でも最もしっかり者の優実からそう警告されたことが

あった。だが、時すでに遅し。丈二にはすでに美唯という彼女がいて、怒らせ

てしまったことがあった。

「ジョージ、今日、仕事帰りにちょっと付き合ってくれない?」

「いいけど、何に?」

「あのね、彼のお誕生プレゼント探したいんだけど、どんなものがいいのかなっ

て、一緒に探して欲しいんだ」

 その日丈二は美来とデートの約束があった。しかし、待ち合わせ時間は少し遅

めだし、間に合うようにすれば大丈夫だろう。

「わかった。その、彼の好きなものとか、趣味とか教えて?」

 一緒にプレゼントを探してと言った彼女、藤原沙織は、丈次より五歳下の後

輩。沙織の彼が好きなのはパソコンで、昔はゴルフもしてたけど、今はしてい

ない。服には無頓着で、いつもジーンズ姿。ウェブデザイナーなので、スーツ

は着ないらしい。

 なぁんだ、そこまでわかってるのなら、自分で探せるじゃない、と言うと、いや

いや、そこまで分かってても、男の人が欲しがるモノって難しいの。それに、出

来れば彼のダサダサな格好をなんとかできるモノをあげたい、沙織はそう言っ

た。

「じゃ、とりあえず、駅前のファッションビルで、何か探すか」

 丈二はそう言って沙織と共に駅前のHEDSというファッションビルに向かっ

た。ここなら、お洒落関係もあるし、家電系の雑貨店も入っているから、きっ

と何かいいものが探せる。丈二はまず、彼女を雑貨店に連れて行って、男

が欲しがりそうなPC周りのガジェットを、いろいろ見繕ってみた。USB接続

で動くゴジラや、PC周りの小物整理が出来るカート型の収納ケース、モバ

イル端末の面白カバーなど、次々と目の前に現れる変わったものに、沙織

は目を見張ったが、どれにも手を伸ばそうとはしない。

「うーん、やっぱり、こういうのって、なんだか子供っぽくて。男の人って、こ

んな馬鹿みたいな玩具が好きなのよねぇ。でも、私、やっぱりこういうのは

買いたくないな」

丈二が提示するグッズに「うわぁ」とか「へぇー」とか、結構面白がっていた

に、結局、ファッション系がいいみたい。丈二と沙織は、階下のメンズフロ

アーに急いだ。最終的に沙織が気に入って購入したのは、ポールスミスの

ハンチング。たかが帽子と言うなかれ。こういうのって案外値が張るのだ。

 丈二がようやくお役目を完了した時にはすでに七時半過ぎ。約束の時間を回

っている。しまったと思うと同時に携帯が鳴った。美唯からだった。

 待ち合わせ場所で三十分近く待たせてしまった美唯に、事情を説明した。丈二

の正直な説明に、一応美唯は納得して許したものの、だからね、とまだ話は終わ

らない。

「だいたい、丈二は女の子に優しすぎるのよ。もちろん、私は丈二のそこが好き

なんだけど。でも、私よりも別の女の子を優先させるなんて、許したくないわ」

「いや、別に、優先させたわけじゃ……いつの間にか時間が過ぎてしまっていた

わけで……」

「だから、そこの詰めが甘いっていうの! 私を大事に考えてくれるのなら……

いや、仮にそうじゃないとしても、先に約束してるんだから、もうちょっと注意をし

てきっちりと時間を守りなさいよ、そうよ」

 その通りであるから、何も返す言葉はない。丈二は一旦は許してもらえたと思

った美唯に、さらにひたすら謝り続けた。

 しかし、こんなことがあっても、美唯はやっぱり丈二のことが好きだ。文句は

言うけれども、だからといって嫌いになんてならない。こんなに優しい、人柄

のいい、しかもルックスもいい男、ほかにはなかなかいないんだもん。そう

自分に言い聞かせる。何しろ、こんなこと、今回が初めてではないのだから。

 これが浮気とかだったら、絶対に許さない。絶対に別れる。だけど、そうじゃ

ない。丈二も美唯のことが好きなんだし、美唯を怒らそうと思ってしてるわけで

なんでもない。だけど、元来の人のよさが故に女性たちから頼られ、頼まれ、

そのしわ寄せが美唯にやって来る。いっそ、「もうそんな優しい男を続けるのは

やめて!」ってそう言ってやりたい。だけど、それを言ってはいけないような気

がする。丈二のいちばんいいところを壊してはいけないって気がする。

 丈二は丈二で考えている。俺って、美唯が言うように女性に優しくし過ぎ? 

でもさ、俺に出来ることだったら、女性に限らず、誰にだってしてやるさ。そうで

なければ、なんか人間やってる意味がないような気がしてさ。彼女たちが、頼

んでくるんだもの。何も頼まれなかったら、わざわざ俺の方からおせっかいは

しないんだけどなぁ。一度、ポーラ姉さんに相談してみようかなぁ。

 だけど、きっと姉さんはこう言うだろうな。女性に優しくするのはいいことよ。

だけど、それ以上に美唯ちゃんにも優しくしてあげればいいんじゃないのって。

うん、きっとそんなことを言う。分かりきってるから、姉さんに相談する必要も

ないな。俺、美唯への優しさ、足りないのかなぁ。みんなに優しくする。美唯

にはそれ以上に優しくする。また女性たちが俺に頼み事をする。俺は断らな

い。そして美唯にもっと優しくする。なんだかなぁ。だんだん重たくなってきた

なぁ。

 美唯は思う。丈二は理想の彼氏だと思う。だけど、優しすぎるのがたまに傷。

でも、そこがいちばんいいところ。そのうち私たち、結婚するのかしら。そうなっ

ても、丈二は会社の女子たちに、いやいや、そうなったらご近所の奥様たちに

も、いろいろ頼みごとされて、丈二も安請負して、また私がイラっとする。そんな

ことになるのなら……なんだかなぁ。丈二の優しさが、美唯にとっては次第に

重たくのしかかってくるのだった。

 それにもし、結婚することにでもなったら、私の苗字は、丈二と同じ粉木かぁ。

粉木、変な名前。粉木ジョージと粉木美唯って……なんだかなぁ。

                         了       

続き:第四百八十七話 砂掛け野ばら。 前回:第四百八十五話 最低で最悪の親友  


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第四百八十五話 最低で最悪の親友~実験奇譚・なんか妖怪ー2 [文学譚]

 根津は中学からの同級生だ。ローティーンという人間にとって最も大事な時

期に出くわさなかったのが、せめてもの幸いだ。金目のもの欲しさに悪事を働

くというほど貧しい家庭で育ったわけでもないはずなのだが、奴の中には生ま

れつき悪しき何かが巣食っているのではないかと、ぼくは思っていた。 

 中学の時は仲がいいどころか、ほとんど話したこともなかった。奴は成績は

悪くないらしく、むしろ実力テストはいつも上位のグループに入っていた。な

のにどういうわけだか、出来の悪い連中とばかり付き合っていて、彼らのボス

のように振舞っていた。きっと、奴は賢いやり方で落ちこぼれたちを操ってい

たのではないかと思う。徒党を組んで何か警察ごとになるようなことをしでか

した、ということは一度もなかったのだが、学校の中では教師に見つからない

ところでこっそり悪戯ばかりしていたように思う。ぼくはその様子を監視して

いたわけではないし、どちらかというと近寄らないようにしていたので、詳し

いことは何も知らない。

 高校は公立の進学校だった。その中でも成績上位者ばかりが集められた特A

クラスにぼくはいたのだが、同じそこに奴もいた。最初はいやな奴と一緒にな

ったものだと敬遠していたが、僕と奴は出席番号が近く、並ぶときは常に隣同

士だったために、自然と友達になっていった。

 人間というものは歳と共に変化するからなのか、あるいは奴ではなくてぼく

の見方が変わったからなのか、話してみるとずいぶんと普通な奴で、嫌なとこ

ろは何一つなかった。妙に大人びていて、ぼくが知らない大人の事情なんてい

うものを実に色々と知っていた。学生服の下に着ているパーカーのフードを、

いつも表に出しているという、いささか変わった服装の根津は、煙草の吸い方

とか、女の扱いはとか、金はどんなところに集まるのかとか、政治家は腐った

奴らがなるものだだとか、そんなことを熟知しているかのように話すのだった。

 中学の時には、不良に違いないと思っていた根津は、決して不良などではな

く、品行良性とはお互いに言いがたいけれども、ぼくらはともに普通に学校に

行き、落ちこぼれない程度に勉強をして、週末くらいは喫茶店で煙草を吸い、

ときどきは下宿している同級生の部屋で酒を飲んでみる。そんな普通の高校生

活を送った。そしてぼくらは都内にある別々の大学に進学した。

 大学は学びの舎だなんて考えている友人は、ぼくの周りには一人もいず、ぼ

くは落第しない程度に教室に通い、残りの時間はほとんどバイトとサークルに

費やした。ぼくは面倒くさいことは嫌いだったので、大学公認の部活ではなく、

有志が集まって勝手にやっている音楽バンドのサークルで歌を歌った。大学時

代には、根津とはもう会うこともなかったが、時おり風の便りで良くない噂が

流れてきた。

 根津は高校時代からギターを弾いており、ロックに関してはぼくよりもうん

とよく知っていた。はっきり言って、クラシックにしか興味を持っていなかっ

たぼくをロックに引き入れたのは奴だ。そんなわけだから、奴もぼくと同じよ

うにバンドサークルに入っていることは不思議でもなんでもなかった。

 当時のロックはハードロック全盛の時分で、ビートルズはとっくに解散して

いた。ロックファンの多くはイギリスに魅せられていて、ストーンズはすごい

だとかツェッペリンがどうしたとかディープ・パープルのリフがだとか、そん

な話ばかりしていた。こういうロック好きは、およそカタチから入りたがる。

破れたジーンズに皮ジャンを着てみたり、ロンドンブーツに手を出したり、ベ

ローンと舌を出したイラスト入りのTシャツを着ていたり、つまり、まともな

人間から見れば、ロックをやっている奴など、ろくな者ではなかったというこ

とだ。反対に、ぼくらロッカーを気取った若者たちも、いきってミュージシャ

ンみたいな格好をし、ショートホープだのロングピースだの慣れない辛い煙草

を吸ってみたりしたものだった。

 根津の場合は、ロックにはまったから悪ぶるようになったのではなく、元々

小悪党な性分だったところにロックがはまったということなのだと思う。アマ

チュアバンドとしてときどき出演するライブハウスに入り浸るようになってか

らは、一人前な顔をして客の女性にちょっかいを出したり、金持ちな大人の常

連客に取り入って金をせびろうとしたり、悪い評判ばかりが聞こえて来た。

 最後に聞いた悪い噂は、警察に捕まったという話だった。根津がいつも通っ

ている店の裏手にビールの空き瓶がケースごと置かれているのだが、実は中味

の入ったケースが置かれていることもあると知り、ある深夜に連れを一人伴っ

て乗用車で乗り込んできて、そのビールケースをごっそり持ち去うとしたら

しい。運悪く、その日はライブ明けで、深夜というのにオーナーはまだ店に残

っており、裏手の犯行に気がつて通報した。間抜けな根津とその友達は警官が

駆けつけたのにも気づかず、せっせと積み込みをしていたそうだ。この大泥棒

事件に、根津のことをよく知る店のオーナーは、学生ということもあるしと、

今回切りだぞと念を押したうえで罪に問わなかったそうだが、この事件はそれ

だけでは済まなかった。乗り付けた車は盗難車だったし、根津は少し酔っ払っ

てそんな馬鹿なことをしでかしたのだった。根津は車の持ち主である同級生に

も許しも乞い、結局酒気帯び運転という道路交通法違反の罪だけが残りまだ

当時は緩かった交通法規のお蔭で、免許停止と罰金という反則でカタがついた。

 後に出会った根津が、笑いながらその事件のことを話してくれた。

「裏さ。なんだって裏に行けば儲かる話なんて山程あるものだ」

そして最後にそんなことを言って嘯いた。

 あれから二十数年。ぼくはロックとはかけ離れたごく普通の会社の勤め人だ

が、根津は卒業後、まだTATSUYAも何も無かった時代にレンタルレコード店

を始め、それが成功。みるみるうちに資金を増やして会社組織にし、今では

さまざまな物をレンタルする中堅企業の経営者になっている。年に一度くらい

は酒を交わして昔話をするのだが、社長になった今でも根津の本質は変わっ

ていないようだ。

「あのなぁ、世の中には裏というものがあってな。この裏を知っておきさえす

れば、どんなことだって思いのままになれるんだぜ。」

 果たして根津が、社会の裏を操って成功したのかどうかまでは聞かされてい

ないが、多かれ少なかれそのようなことはあるのだろう。ぼくはその、裏とい

うものにあまり縁がなかったようだ。言い忘れたが、根津の名前はちょっと変

わっていて、実男と書いて、「みお」と言う。

「なんで俺の親がこんな名前をつけやがったのか知らねえけどよ、俺のこと、

絶対にミオなんて呼んでくれるな。呼ぶんだったら、”ミオトコ”にしてくれや」

ぼくはめんどくさいから”ネヅ”もしくは奴とかあいつとか言うんだが、そう、

根津の名前は根津実男。人は”鼠オトコ”と呼んでいる。

                               了 

続き:第四百八十六話 女泣かせのジョージ。   前回まで→第442話のっぺらポーラ 

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第四百八十四話 地下組織 [妖精譚]

 地下組織とは、表からは分からない隠れた地下に潜って活動をする組織のこ

と。戦争や闘争中なら敵の組織に見つからないように、そう、対立する組織に

抵抗するためのレジスタンス分子などが、よく地下に潜って戦う準備をしてい

たりする。

 現代において、いわゆるアンダーグラウンドという言い方がある。アンダー

グラウンド、略してアングラ。アングラ劇団とか、アングラ映画とか、アング

ラバンドとか、主には水面下で文化活動している者を表している。これらも、

一種の地下組織とみなすことが出来るのではないかな。尤も、最近の音楽業界

では、メジャーに対してインディーズと呼ばれるが。

 さて、かくいう私も、このアンダーグラウンドというか、地下組織で活動し

ている。なんの活動かと聞かれると、非常に説明しにくいのだが。いやいや、

地下鉄職員でーすとか、百貨店の地下食品売り場で働いてまーす、なんていうオ

チにするつもりはさらさらない。もっとアカデミックなものだ。アングラ舞台芸

術とか、アングラ映画製作とか、アングラミュージックとか、そういう具体的な

単一の文化活動を行っているわけではなく、そうしたヒューマンな創作活動全般

にかかわっているといえる。

 音楽にしても演劇にしても、最近のアーティストというものは、すぐにメジャー

シーンに出ようとする。何のためかというと、お金のためだ。少しでも早く人前

に露出して、有名になって、ひと稼ぎしたいと考えている連中ばかりだ。マスコ

ミの側もよくない。常に新しい情報を求め、いち早く新たな人材を商業ベースへ

投入することによってひと稼ぎさせてもらおうと考えている。そして、そうした

アーティストたちは、一発だけ当てて、そしてメジャーシーンから消えていく。

つまり、ほとんどのアートが、ただの金儲けの道具になり下がり、芸術という崇

高な世界から逸脱してしまっているのだ。

 アンダーグラウンドという考え方が芸術の主流であった頃、芸術家たちは、

られたものにだけ理解できる芸術の発散に、誇りを持っていた。アングラがマイ

ナーで厭だということではなく、むしろ自分の作品をメジャーに晒すことを拒否

すらしていたといえる。それほど、自分が創りあげた作品に命を注いでいたし、

そういう作品を生み出したいという気概を持っているのが芸術家というものだっ

た。

 私自身は、芸術家でも音楽家でもない。何かを生み出す能力など持ち合わせて

いない。だが、芸術を生み出す能力を増やし守りたいという強い想いだけは誰に

も負けない。だから、この地下組織を立ち上げたのだ。

 私が密かに運営している組織の名は、アンダーグラウンド地下組織。なんだか

二重にダブった名称のように思われるだろうが、そうではない。活動内容は名称

通り、アンダーグラウンドの地下組織だ。少し分かりにくいかもしれないので、

いささか説明しておこう。先ほども書いたとおり、アーティストを気取る者たち

はすべからくメジャーに行こうとする。だが、それは芸術の死を意味する。そこ

で、私は芸術をアンダーグラウンドに留めておくことによって、そのアート性を

高い位置にキープ出来ると考えた。メジャーにいかなくても、アンダーグラウン

ドで素晴らしい創作活動が出来る、こちらで暗躍していた方が、アートの高みに

行けるし、むしろ有名になれる!こんな概念を世の中に定着させたいのだ。だが、

こうしたことを大々的に広げてしまっては、私の主張そのものがアンダーグラウ

ンドの価値を失ってしまう。だから、私自身も水面下で、こうしたアングラフィ

ロソフィーを拡散する。

 リンカーン元アメリカ大統領の言葉を借りれば、「アンダーグラウンドによる、

アンダーグラウンドのための、アンダーグラウンド活動」なのだ。

 私、根暗自見男が主催するアンダーグラウンド地下組織。さあ、芸術の深淵を

目指すアーティストのあなた、私と一緒に頑張ろうではありませんか!

                               了  

 

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第四百八十三話 小さな妄想。 [文学譚]

 私は穴を掘っている。気が付けば、狭い穴の中で掘っている。

 ここはどこ?

 私はどうなっているの?

 昨夜は結構飲んだ。仕事仲間と別れたあと、いつもの飲み屋で焼酎を飲んだ。

常連客となら仕事の愚痴もいらない。家のごたごたを考える必要もない。ただ

ただ飲んで酔って笑って食って、飲んだくれてしまえばそれでいい。だが、焼

酎だけにしておけばよかった。調子に乗って日本酒にも手を出してしまった。

「日本酒!」

 店の大将が、「大丈夫ですかい?」という顔をしながら、グラスになみなみと

冷酒を注ぐ。私は大丈夫さ加減を示そうと、よせばいいのにグビッと一気に流し

込む。三口くらいで飲み干して、また一杯。これがいけなかった。三杯目を注文

したのかしなかったのか、全く記憶にない。気が付けば、ここにいた。

 自由が効かない。二日酔いか?いや、確かに頭は重いしぼんやりしているが、

それだけではなさそうだ。第一、このくらいジメジメした空間はなんなのだ? 

布団の中とは思えない。これは、土だ。私は土の中にいる。 自分の身体に尋ねて

みる。いったいどうなっている? 縛られているのか?  私は夕べ何かしでかし

たのか? どこか情婦のところにでもしけこんだというのか? 身体が答える。

いいや、そうではない。これは普通ではない、異常事態だ。

 私は身体の一つ一つを調べようとする。だが、どうやらそれは無理な相談のよう

だ。なぜなら、私には目がない。見ようとしても真っ暗で何も見え ない。見えない

というよりも、やはりどうにも目が無くなったとしか思えない。

 仕方なく、腕を動かそうとするが、動かない。動かないというよりも、動かすもの

がない。腕がないのだ。脚は? 脚はどうなってる? 細長いトンネルの 中に身を横

たえたまま、キックしようとするが、腕と同じように動かない。動かないというより

も、脚そのものが存在しない。

 これは、縛られてるのではない。かと言って、手足をもぎ取られたのでもなさそうだ。

痛みもなければ、疲弊感もない。元々腕も脚もなかったかのよ うに。

 冗談じゃない。これは夢か? 夢じゃなければ、まるでカフカの小説ではないか。腕

も、脚も、頭もない身体。虫なのか?私はトンネルを進んでみた。

 ぐにょり、ぐにょり。

 前進するためには、芋虫か何かのように、身体の表面を波打たせ皮を蠕動させなければ

ならない。身体を蠕動させながら動いていく。どうやら、身体全体に刻み込まれたいくつ

もの節を前後に動かして前進しているらしい。しかも、行き場のないトンネルの先に道を

作るために、私は土を身体の中に取り込んでいる。

 ミミズだ。私はミミズになっている。咄嗟にそう気がついた。何故。どうして。 私は何

か罰を受けるような事をしたのか? 神様が私をこんな風に変えたのか? 空出張で会社の

経費を少しくすねたからか? 妻に内緒で若い女と遊んだからか? そしてそれを嗅ぎつけ

た妻を殴ってしまったからか?  私が神に懺悔しなければならないようなことは山のように

ある。だが、どれもこれも小さなことで、ミミズにされなければならないようなことは何一

つしていない。

 なんでだ。どうしてこんな目に会うのだ。私は胸が苦しくなって身悶えした。すると身体が

蠕動して、伸びて、縮んで、また伸びて、少しづつ前に進んだ。目を凝らそうとしても目がな

いから何も見えない。音が聞こえないのは、ミミズには耳がないからだろう。私は大声で叫ん

だ。いや、叫ぼうとした。だが、私には声帯 どころか、口そのものがない。 私に出来ること

は、土を食いながら前に出ることだけだ。だから私は土を食った。死に物狂いで土を食った。

そしてトンネルを掘って、また進んだ。夕べの酔いからはとっくに覚めている。二日酔いも消

えている。土を掘って、食って、進んで、 また土を掘る。

 私はまるでミミズだ。ミミズそのものだ。所詮、人間だってそんなもんじゃないのか。食っ

て、働いて、働いて、金を儲 けて、その金で酒を飲んで、憂さを晴らして、食って飲んで、寝て、

また働いて。 それでどうなる。やがて朽ち果てるだけじゃないか。それなら、ミミズだって同じ

じゃないのか。彼女? 結婚? 家族? 子供? そんなものなくったって、ミミズなら 自分一

人で生きていける。ミミズに仲間などいらない。一人の方が気楽でいい。

「あなたはいつもそうなのよ!」

 怒り出した妻の形相が一瞬脳裏に浮かんですぐに消えた。妻など最初からいなかったのだ。全て

は妄想だ。全ては夢だ。

 土を掘り進みながら、小さな小さな脳を持った生き物の身体の中で、前世では人間だったかも知れ

ないなぁという、粟粒のような妄想がはじけて消えた。

                              了

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