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第四百六十五話 擬態科学。 [日常譚]

 「先進の技術を駆使してというが、実は、最先端のテクノロジーは大自然の

中にあるのだ。」

ドクター若松が言った。さまざまな技術を追い求めてきた人類は今、動植物が

持っている骨格や動きに注目し、そこにヒントをえることによってより先進の技

術が手に入ると考えている。それらを総称してバイオミミクリーという。

 例えば最近よく聞くのがロボット。ムカデを模した多足ロボットは安定がよく、

凹凸のある地面でも倒れることなく貨物を運ぶ。蟹のように八本の足を持つ

ロボットも砂浜等で威力を発揮する。また、蛇のような動きをするロボットも

また沼地や砂浜を進んでいくのに適している。

「博士、ロボットばかりですね。」

「いや、そうとは限らんよ。これを見なさい。」

若松博士が手にしているのはモップのような毛が生えたような布。

「これは、バイオファイバーだ。ヤモリの吸盤足を真似して作られている。ほ

れっ。」

博士がバイオファイバーを壁に投げると、その毛の生えた布は壁にぴたりと

張り付いた。そのほかにも、ハコフグのフォルムを真似てデザインされた車

、カワセミの嘴を真似た流線型の列車、蓮を真似て雨水をはじく壁材、蝶々

の鱗粉のような光を放つ塗料、海藻が水中でなびく様子を模した波動感知

システム等など。本当に、枚挙に暇がないほどバイオミミクリーはあるようだ。

「素晴らしいですね博士。で、これからどんなのが考えられますか?」

「そうじゃなぁ、ヨツメウオの目を真似して水中にいながら水上が見えるっていう

のはどうかな。」 

「それって・・・潜望鏡ですよね。」

「そうか。うーむ、では、キリンの首を模した、樹木の剪定鋏みはどうじゃ。」

「それも、すでにありますよね。」

「クジラみたいな~」

「潜水艦!」

「鳥みたいに空を~」

「飛行機でしょ!」

「モグラみたいに土を掘って~」

「掘削機!」

「ええーっと・・・。」

「それも、もうある!」

「わしゃ、まだなぁんも言うとらんぞぃ。」

「博士が生み出したのは、いったいどういうのなんですか?」

「うぉっほん、それはじゃなぁ、それは、ソレは、ソレハ・・・ソレハ、ソ、ソ、

ソレハ、実ハ、ワシ自身ガソウナノジャ。」

博士は突然ロボットみたいな口調で喋り出した。

「ワシハ、ヒト型ロボットジャ。結局ノトコロ、人間ノ動キヲ模シタばいおみ

みくりガ一番素晴ラシイ・・・。」

そう言いながらロボットの動きで立ち去っていく博士の後ろ姿を見つめな

がら雑誌の記者たちは顔を見合わせて言った。

「流石っちゅうか、やっぱりっちゅうか・・・やっぱ、バカ末博士と呼ばれる

ワケだ。

                             了


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