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第四百八十話 Sweet&LittleTales10-下着で散歩 [文学譚]

 父の妹である叔母は、若い頃からさばさばした性格で、家の中では夫の前

あっても、当時で言うシュミーズのままでくつろいでいるような人だった。そ

の夫である叔父は父と同じ会社の役職者だった。そして叔母夫婦には子供がな

く、同じ社宅に住んでいた私たち兄妹をとても可愛がってくれた。

 ところが、叔父が博多の支店長として転勤することが急に決まって、夫婦は

急ごしらえで九州に引越しして行った。転勤してしばらくは、引越しの後片付

けや、新しいご近所さんとの交流やらで忙しくしていたのだと思う。一年ほど

過ぎた頃、そろそろ新しい地での暮らしにも慣れてきたのだろう、叔母が母に

電話をして来て、遊びに来るようにと促したのだそうだ。叔母とは仲良くして

いた母は、ひとつ返事で「行く行く」と答えたのだった。

 その年の夏休み。私たち兄妹は、母に連れられて初めての新幹線に乗った。

博多で暮らす叔母の家に遊びに行くことになったのだ。叔母の家は博多の中心

地からは少し離れた春日という町にあった。会社が社宅として用意した家族向

け団地に、叔母夫婦は住んでいた。叔父はだいたいにおいて無口で、いつも難

しい顔をしているような人だったので、叔父が在宅している間は、私たちは小

さくなっていた。母にしても義理の弟とはいえ、仕事の上では父よりも上の人

でもあり、何かと気を遣っているようだった。

 日曜日の夕方、早々と風呂から上がった私は、アイス菓子を食べたいと言っ

たのだと思う。叔父は座卓でビールを飲んでいたが、叔母に向かって「買いに

行ってやれ」と言った。じゃあ買いに行ってくると支度を始めた叔母に、私は

「一緒に行く」と告げた。叔母のいない家で、叔父といるのが居心地悪かった

のだ。

 じゃあ一緒に行きましょうということになって、風呂上りでまだ裸にタオル

を巻いただけの私が服を着ようとすると、「いいのよ、服なんか着なくても」

叔母がそう言った。「この辺りは田舎だから、子供なんか下着で表をウロウロ

しているわ。大丈夫よ」叔母はそういうのだ。

 外へ行くのに下着のままだなんて、私はそんなことしたこともない。本当に

小さな赤ん坊だった時なら、そんなこともあったのかも知れないが、もう小学

生だ。いくら子供だからって、下着で外に出るなんて私には信じられなかった。

だが、叔母は強引だった。大丈夫大丈夫と言いながら、パンツ一丁という姿の

私は、叔母に手を引かれてアイスを買いに行った。まだ風呂には入っていない

兄と母も、裸の私の後ろでニコニコ笑いながらついてきた。

 もう、エレベーターで下まで降りてしまったので、今更引き返すわけにもい

かないのだが、団地から通りに出る際には、本当に素っ裸で広場に放り出され

る猿のような気分で、私はとても恥ずかしい気がした。

 菓子店でアイスを買ってもらいながら、きょろきょろと周りを見渡すが、私

のように裸同然で歩いている子供など、一人もいない。叔母さん、裸の子なん

て誰もいないやんか! 私は騙されたような気持ちにはなったが、夏の夜の風

が風呂上りの肌に心地よく、もう、そんなことはどうでもよくなっていた。

                            了

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