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第四百七十一話 Sweet&LittleTales1-いちばん古い記憶 [文学譚]

 いったい人は、どのくらい旧い記憶を覚えているものだろうか。まさか母親

のお腹の中にいた記憶があるなんて人は居ないと思うけれども、もしかしたら、

一歳くらいの時分を覚えている人はいるのかもしれない。実際、古い写真を見

て、それが自分の記憶として再メモリーされているケースもあるのかも知れな

いけれど。私が最古の記憶と思っているのは、たぶん三歳になる前くらいの事。

 当時岡山市内に住んでいた私たちは、父の会社が家族用の社宅として借り入

れていたアパートに住んでいたのだが、子供が大きくなってきたために手狭に

感じはじめたのだろう、あるとき両親が、一軒家に引越しすることを決めた。

 引っ越しの日の全体についてはほとんど覚えていないが、家財を積み込んだ

トラックの助手席に私と母が乗っているシーンだけがくっきりと記憶の底に張

り付いている。初めて見る引越屋のおじさんが運転するトラック。その隣に私、

そしてその隣に母。足下には他の荷物とは別にされた金魚鉢が置かれている。

金魚鉢がひっくり返らないように、どのように固定されていたのかは覚えてい

ないが、金魚鉢の中の水がぴちゃぴちゃと揺れ動き、揺れる度に水の中の金魚

が不安そうな貌で今にも飛び出しそうになっていたのだけは記憶の中だ。

 車が走る。ぶぉー。水が揺れる。ぴちゃんぴちゃん。ぶぉー、ぴちゃんぴち

ゃん。金魚が踊っている。水と一緒に踊っている。いつまでこれが続くのだろ

うかと身を固くしている私は、金魚と同化して、泣きそうになっていた。


                          了

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