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第四百八十二話 ノロイのビデオ再び [可笑譚]

 貞子が飛び出してくる映画が上映されて人気だそうだ。私はまだそれを観

いないのでなんとも言えないが、その話はちょっと前にホラーブームを巻き起

こした三部作の続きらしいから、おおよそのことは判る。

 シリーズ一作目は、呪われたビデオを見た者が次々と命を失っていくという

話だった。原作そのものが良く出来ており、ページをめくるのも悍ましく、指先

で紙をつまむようにしてページをめくり、そのたびにまたおぞましいエピソード

に出会うのだ。まるでその本を読んだ者まで命を奪われてしまうのではないか、

そんな気までしたものだ。

 しかし、本当にノロイのビデオなんてあるのだろうか。私は本当にありそうな

気がして、何人もの友人に聞いて回ったことがある。そして、ついに本物のノロ

イのビデオに出くわしてしまった。今でこそハードディスクだブルーレイだとい

うことになっているが、ほんの七年前くらいまでは、まだまだVTRテープが映像

保存の中心だった。もし、同じ話が今書かれたなら、ノロイのHDDとか、ノロイ

のBlueRayとかいうことになって、ちっとも怖くない。実際、今度の貞子の映画

も、もはやビデオではないらしいし。

 話は戻って、本物のノロイのビデオの話だが、私はついにそれを手に入れた。

まだVTR機器が健在の頃だ。ウチのVTR機器は既に何年も使ってきたものでずい

ぶんくたびれていたが、まもなく新しいメカであるDVDの時代になると言われ始

めていたから、買い換えるのを我慢していた。

 手に入れたVTRは一見なんでもない普通のビデオに見えた。タイトルシールも

貼られていないから、いったい何が録画されているのか、機械に入れて再生して

みないと分からない。もっと昔のフィルムなら、光にかざせば何が写っているの

かが事前にわかっただろうに。

 そして私はゆっくりとビデオテープを古びた再生機のスロットに入れた。ギギ

ーっと怪しい嫌な音がしてビデオテープが機械の中に吸い込まれていく。テレビ

モニターはまだ真っ黒だ。躊躇いながら、再生機の再生ボタンを押す。

 がちゃ、ぶぶーん。

 再生機が鈍い音を立てて動き始める。TVモニターの画面が真っ黒ではなくな

った。白い光を放って何かを映し出そうとする。シャーッ!砂嵐、また砂嵐。市

販の映像ソフトなら、こんなことはない。最初は黒みが入っていてすぐにブルー

か何かをバックに社名ロゴ等が映し出されるものだ。だが、誰か素人が適当に録

画したようなテープは、たいていこのような砂嵐ではじまり、いきなり本編が始

まる。きちんと編集処理がされていないからだ。

 私は我慢してしばらく様子を見た。二秒、三秒、四秒。砂嵐を眺めながらの十

秒はかなり長く感じられる。人間の時間感覚など、その状況によってずいぶん変

わるものだ。鈍い・・・・・・鈍すぎる。ビデオはついに映像を映し出さないまま、ぎ

ぃいいいと不気味な音を発した。TVモニターの砂嵐が再び真っ黒に戻り、VTR

機器の中から異音が発せられている。

 くそぉ! これがノロイのビデオか! 確かに鈍い、ノロイわ。こんなに待た

せるなんて。しかも結局かからない。どうなってるんだ。画面から貞子が飛び出

して来るかと思って身構えていたのに! やがてVTR機器の異音が止まってス

ロットから飛び出してきた! VTRのテープがぐじゃぐじゃになって!

                               了

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