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第四百六十二話 休憩時間。 [空想譚]

「おい、休憩だぞ。」
隣の木村に声をかけられて、ようやく俺はのそのそと起き上がった。回りの同
僚はすでに休憩室に戻ったようで、俺と木村だけが部屋に取り残されていた。
ここは、俺がいるチームの仕事部屋だ。だだっ広く愛想のない白い空間に、ゆ
ったりした寝台が人数分並べられている。部屋の造りはシンプルだが、寝台は
質の高い仕事が出来るように、ゆったりとした幅と快適なクッションがしつら
えられている。俺たちは、毎日ここに横たわって働いているのだ。
「なぁ、調子はどうだい。」
「そうだな、相変わらずさ。」
「相変わらずか、便利な言葉だな。でも確かにその通りだ。」
「俺たちの担当エリアは平和だからな。」
「それに引き換え、アメリカ辺りは、やっぱり大変なんだろうな。」
「そうだな、連中の担当エリアはきな臭い国ばかりだからな。」
 俺と木村は世間話をしながらゆっくりと休憩室に向かっていた。休憩室へ繋
がる廊下の途中には、喫煙室とコーヒーの自動販売機が設置されている。だが、
俺も木村も煙草はやらないし、コーヒーなんてもってのほかだ。休憩明けの仕
事に差し支える。
 休憩室に入ると、もうチーム員はそれぞれの時間を楽しんでいた。仕事場よ
り少し小振りなこの部屋は、居心地のいいアイボリー系の色彩でまとめられて
いて、人数分のデスクが並んでいる。休憩時間は別にデスクにいなくてもいい
のだが、結局みんな、それぞれのデスクに陣取って銘々に好きな事に時間を費
やしている。パソコンの画面をにらんでいる者、誰かに電話をかけている者、
何の計算だか知らないが電卓のキーを叩きまくっている者、まるでこっちが仕
事場みたいだ。
 俺と木村はデスクも隣同士なので、椅子に座って尚放し続けた。
「しかし、世間のみんなは俺たちの仕事なんて誰ひとり知りやしないものな。」
「そりゃぁそうさ。逆に知られたら大変だぜ。」
「そうだな、誰だって自分の夢をいじられた利したくないものな。」
「だが、人々の夢を野放しにしておくと、これまた原始時代に逆戻りだしな。」
「いったい誰が考え出したんだか、夢を管理するなんて事を。」
「自分が見た夢にコントロールされちまって、犯罪に走ったり、自殺をしたり
しちゃうんだものな。」
「夢に影響されるのは、いい事だけにして欲しいものだ。」
「何言ってんだ。だから俺たちがそうしてるわけじゃぁないか。」
「まったく。」
「だが、夢を管理するためには、こっちまで眠らなきゃぁいけないってのはさ、
何とか出来んものなのかな。」
「まぁ、理に適っているとは思うんだが、目覚めている人間に出来る事は、所
詮脳波を見たり、目の前にいる人間に対して外側から刺激を与えるくらいのも
んだ。」
「そこへいくと、眠ってしまえば、同じ眠っている大勢の人間の意識の中へ、
思うがままに入り込めるんだから。」
「あのデカプリオの映画なんて、国連は巧妙だよな。万が一世間が気づいたと
きを見越して、架空の話としてプロバガンダしちまう訳だからなぁ。」
「だが、あれはやり過ぎだ。実際あそこまでは出来ないし、やりたくもない。」
「あんなに格好よくないし。」
「それにしても、こっちの稼働時間に眠ってる国・・・地球の裏側の国をお互
いに担当するって言うのは、なかなか考えたね。」
「でなきゃ、俺たちゃ夜勤になっちまう。」
Bbbbbbbiiiiiii!
「おっと、休憩時間は終わりだ。」
「さぁて、じゃぁもう一眠りして、あちらさんの夢を管理させていただきまし
ょうかね。」
                        了

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