第四百七十二話 Sweet&LittleTales2-妖星ゴラス。 [文学譚]
大きなスクリーンで見るのは初めてだった。何しろ、テレビもまだ白黒だっ
た時代。母に手を引かれて、私と兄ははじめての映画館を訪れた。真っ暗に消
灯された広い空間に据えられた椅子の上で、期待と不安を天秤に掛けながら、
私は母の顔を覗き込む。ニッコリと笑い返してくる母。目の前の大きなスクリ
ーンでテレビがはじまった。なんて大きな人なんだ。なんて大きな車なんだ。
よくはわからなかったけれども、そのうち、「3,2,1、0・・・」と宇宙
船が発射されて、スクリーンは真っ暗な宇宙空間。そこに主人公たちが乗った
宇宙船が浮かんでいる。宇宙船の前に星が現れる。そうだ、この星が地球に近
づきつつあるんだった。この遊星の軌道を変えるために、宇宙船は宇宙に放た
れた。遊星の軌道を変更する装置を取り付けるために着陸した宇宙船の前に、
突然セイウチ型の巨大怪獣が現れて襲ってくる! ぎゃぁ~私は恐ろしくなっ
て座席から逃げようと立ち上がる。慌てて私を捕まえる母。恐怖で泣きそうに
なっている私を、母は小声でなだめすかして落ち着かせた。
直ぐ後ろでスクリーンを見ていた男の人が、うるさい子供を黙らせようと思
ったのか、自分が食べていたチョコレートのかけらを銀紙に包んで母に預ける。
母は男に頭を下げさげ、私と兄にチョコレートを渡す。
これ以来、私は大のSF好きとなった。この映画のお陰なのか、チョコレート
のお蔭なのか、それは不明なのだが。
了
※実際にあった妖星ゴラスとは違うストーリーを語っています。これは飽くまでも筆者の記憶に残って
いたものを再現しており、飽くまでもフィクションです。妖星ゴラスWikipedia