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第四百七十四話 Sweet&LittleTales4-プレゼント [文学譚]

 ある冬の夜、母が夕食を作っている間、僕たち兄弟は茶の間の畳いっぱいに

玩具を広げて遊んでいた。「そろそろご飯だから、片付けなさい。」母にそう

言われて、ようやく食事の時間であることに気がついた。父はまだ帰らない。

仕事熱心な父の帰りはいつも遅かった。だから僕たちは三人で夕食を摂ること

が多かったのだ。だが、その日は、まもなく玄関を開ける音がして、父が帰宅

した。

 茶の間の引き戸を開けながら、父は両手いっぱいに下げた紙袋を差し出して

言った。

「今な、そこでサンタさんと会ったんや。」

 そう、その夜はXmasイブだった。そういえば、今夜の夕食はどことなく華

やかだ。鳥の唐揚げ、赤い人参で飾られた野菜サラダの真ん中に雪花菜のサラ

ダ、スープとご飯。貧しいながらも母は出来る限りのごちそうを用意していた

のだ。

「ええー? 嘘やぁ。」

 兄が先に叫んだ。僕も真似をして言った。

「嘘やろー!」

「本当や。本当にサンタさんと遭って・・・・・・ほら、これお前らにくれたで。」

 父が僕たちに渡した茶色いクラフト紙の袋の中には、色の付いた包装紙にリ

ボンがかけられた包が幾つか入っていた。いつもは、朝起きたら枕元に何かし

ら贈り物が置かれていて、母親から、サンタさんが夜中にやってきたのだと教

えられたものだ。それが今回は父が預かってきたとは。

 こうなったら子供にとってはご飯などそっちのけだ。父親が隣の部屋で着替

えている間に、兄弟二人はゴソゴソと袋を開き始めた。母は、困ったな、でも

仕方ないかという顔でご飯を注ぐのを止めて子供たちを見守た。

 兄が袋から最初に取り出したのは、四角い重い包み。兄が開けてみると、本

だった。僕も真似をして同じような包みを開いた。やっぱりこれも本だった。

「のぐちひでよいじんでん」そう書かれていた。僕たちは兄弟揃って本は好き

だった。だが、クリスマスに本の贈り物はつまらないな、そう思った。次の包

はきっと、もっと楽しいものだ。兄は次の包みを手にした。開けてみると、色

鉛筆セットだった。僕も次の小さな包みを開けてみるた。それはアニメキャラ

クターのトランプだった。この外国製のアニメのキャラクターの本は、毎月送

られてくる雑誌のと同じだ。今考えると、トランプだの色鉛筆だの、なんと面

白くもなんともない贈り物だろうと思うのだが、子供にとっては嬉しいものだ

った。

 紙袋の一番底に、大きな箱が入っている。これは何? なんとなく油っぽい

匂いがする。持ち上げると重い。何だろう。兄が袋から取り出して、包を開け

にかかった。僕はドキドキしながらそれを見ていた。紙包の中から出てきたの

は茶色いダンボールの箱。兄がその箱を開けると水色の塊が見えた。

「わぁ電車や!」

「電車や!」

 それはいつかお土産でもらったことのあるカステラくらいの大きさの電車模

型だった。本物の電車のように金属の上に水色の塗装がされていて、サイドの

下半分はグリーンに色が変わっている。天井にはパンタグラフが付けられ、サ

イドには窓や扉の四角い穴が開けられていた。車両が取り出された箱のさらに

下にはたくさんのレールが重ねて詰められている。

「すごい、レールまである。」

 なにしろ、小学生と幼稚園児だ。僕らはまるで本物の電車をもらったくらい

に喜んだと思う。それから母に窘められて、しぶしぶ夕食になったのか、夕食

はそっちのけでレールをつないで遊んだのか、そこまでは覚えていない。だが、

それからしばらくは、いつもその電車で遊んでいたと思う。円形にレールを敷

いて、脱線しないように上手に電車を乗せる。コンセントを差し込んで、スイ

ッチを入れると、「ブーン」と軽い電気音がして、電車がゆっくりと動き始め

る。スイッチの手元には可変式ダイヤルが付いていて、そのメモリによっては

速度が変わる。その当時にしてみれば、きっと高価な模型だったに違いない。

 両親からは、毎年素敵なクリスマスの贈り物をもらっていたに違いない。だ

が、記憶に残っているのは、この時の贈り物なのだ。

「僕らが子供の頃、どんなクリスマス・プレゼントもらったっけ?」

 そう父に尋ねてみたい衝動に駆られる。だが、僕らはもう、あの頃の父より

もずっと年上になってしまった。そしてその父はもう十三年も前に他界した。

                             了

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