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第五百八十三話 アレルギー体質 [可笑譚]

 今年に入ってから、どうも身体の具合がよろしくない。何がよろしくないっ

て、いたるところが痒い。一ヶ所痒みが出ると、つい掻いてしまう。すると、

かゆみはさらに大きく膨れ上がって、皮膚のその部分が大きく赤く晴れ上

がっていく。それだけではない。他の部分まで痒いと感じだし、気がつけば、

体中を掻きむしっているのだ。薬局でかゆみ止めを手に入れて塗ると、少

し治まって、忘れることができれば、いつの間にかひいている。要は、痒い

からといって掻くと、いっそう悪化するのだ。

 さらに別の症状もある。鼻炎だ。これは昔から持病のように持っていて、

まだ花粉症は発症していないものの、気温の変化やちょっと埃っぽかった

りすると、鼻がむずむずしだして、くしゃみや鼻水が止まらなくなるのだ。こ

れもマスクをしてみたり、体温調整を上手くできれば回避できる。

 もっと困るのが、体調全体が思わしくなくなること。どんよりしてやる気が

失せ、ちょっとしたうつ状態になってしまう。こればかりはいかんともしがた

く回避する方法がわからない。楽しいことを考えたり、面白いテレビを見よ

うとするが、意識が集中しないのだ。このままではよろしくない、そう考え

た私は、とりあえず内科診療所の扉を開けてみた。

 一通りの内診を行なった老医師は、アレルギーテストをしてみようといっ

た。少なくとも、痒みや鼻炎はアレルギーに間違いないというのだ。であれ

ば、何が原因なのかを特定するテストがあるというのだ。

 看護師に促されて、左腕を台の上に乗せる。看護師は八本もの細い注射

器を並べてニタニタしている。

「ちゅ、注射を打つんですか?」

「そうですよー」

「そ、そんなに?」

「ええ、八本です。それぞれにアレルゲンサンプルが含まれていますから」

 覚悟を決めてただひたすら左腕を突き出していると、看護師は一本ずつ

私の腕に突き刺しはじめた。左下腕の内側に細い針が突き立てられ、注

射器の内容物が注入される。小さく開いた穴からは赤い血が染み出して

る。縦に一つずつ小さな穴は増えていき、五つ目からは列を変えて刺さ

れていく。私の腕に、まるで犬の乳房のように、縦に4つずつ二列の穴が

並んだ。

「これでしばらく、触らずにお待ちください」

 待合で五分ほど待っていると、再び呼ばれて、老医師の前に座る。老医

師は私の腕を眺めながら、メモ紙に何かを書き付ける。

「ははーん、幾つかでてますねー。このいちばん上のがハウスダスト、その

次のがスギです」

「え? 私は花粉症はでてないですけど・・・」

「うーむ、それでもスギ花粉には反応してますねー」

 その次のふたつと、隣の列の上ふたつにも反応はないようだ。二行目の三つ

目は赤く膨らみ、さらに四つ目はかなり大きく晴れ上がっている。

「先生、それでこちらのは?」

「うん、この三つ目のは黴ですね。ほら、エアコンだとかそういうところに発生し

た黴があるでしょ? その胞子とかですね」

「で、このいちばん大きいのは?」

「おお! これはひどい。これがいちばん反応していますな。これはいかん、

どげんかせんといかん」

「どげんかって・・・・・・先生、宮崎の方ですか?」

「そげなことはどうでもよろしい。これは・・・・・・知りたいかね?」

「ええ、ぜひ教えてください」

「これはな・・・・・・」

「これは・・・・・?」

「これはな、シトじゃ」

「は? シト?」

「そう、シト」

「ああ、ヒト、ですか」

「そうじゃ、シトじゃ」

「ヒトって、人間ですか?」

「そうじゃ、シトじゃ」

「で?」

「シトはシトでもな、これはあなたの奥さんの細胞じゃ」

「え? いつのまに?」

「いや、まぁ、それはまぁ、いいとして・・・・・・」

「で? つまり?」

「あなたがいちばん強く反応してしまっているアレルゲンは、シト、奥方、っ

ちゅうわけじゃな」

「うちの奥さん・・・じゃぁ、私は、私はどうすれば・・・・・・?」

「そうじゃなぁ、そりゃぁ、アレルゲンは遠ざけるか、薬でごまかすかじゃが、

お主、どうするか?」

「お主って・・・・・・どうするかっていわれても・・・・・・」

                               了

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読んだよ!オモロー(^o^)(3)  感想(0)  トラックバック(0) 
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