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第五百七十五話 フェイスノート [日常譚]

「あなたの知り合いじゃないですか?」

 ブラウザを開くと画面上にそのようなメッセージが現れ、知らない人たちの

名前がズラズラっと表示された。数年前から話題になっていたフェイスノート

というソーシャルネットワークシステムだ。衣子はそんなもの関係ないし、必

要ないわと思っていたが、周囲の友人たちは揃って登録しており、衣子にも

しきりに勧めてくるので、まぁ、一応登録だけでもしておくかと、フェイスノート

のサイトと向かい合ったのがひと月ほど前だ。案の定、登録したからといって

何をすることもなかったが、勧めてくれた友人たちだけには友達リクエストを

してつながっておいた。

 すると、タイムラインとかいう表示画面には、友人が書き込んだ記事や、知

らない人の記事が現れるようになって、時々はそういうのを眺めていたのだ

が。すると、さきほどのような「知り合いじゃないですか?」というメッセージが

来るようになり、多くは知らない人の名前だったが、その中に、知っている名

前を見つけてぞっとした。桑畑花子。名前を聞いただけでも嫌になる。同じ会

社のお局様的存在なのだが、この人は気が強くて、意地悪で、周りの人間か

らも煙たがられていることに全く気がついていない女史。間違って、こんな人

とつながったりしたらたいへんだわ。フェイスノートを使って、毎日監視されて

しまいそう。衣子は背筋がゾクゾクっとした。

 なんとか「知り合いじゃないですか?」という表示を消したいのだが、その方

法がわからないまま放置していた。しばらくすると、今度は不可解なメールが

届くようになった。知らない人からのメールで、友達リクエストを承諾しました、

という内容のものだった。え? 何? そんな知らない人に、なんで私がリクエ

ストなんてしたことになってるの? また、別の友人からも「承諾」のメールが

届いた。この友人にもリクエストは送っていない。ネットで調べてみたら、ある

設定を外さないと、フェイスノートが勝手にそういう動作をするというのだ。い

やぁ、気持ち悪い。困る。だが、設定解除の方法もわからないまま数日が過

ぎた。だが、事態はどんどんおかしな方に向かっているようだった。

 「あなたに相応しい結婚相手はこの人じゃないですか?」

 見ると、中年男性の顔写真入りリストが表示されている。知らない男たちだ。

「あなたが嫌いなのは、この人じゃないですか?」

 今度は男女入り乱れたリストで、その中にはあの桑畑花子の顔写真も入っ

ている。どうやって、何故、どのようにして、フェイスノートはこんなリストを作

成してくるのだろう。気持ち悪いどころか、恐ろしくなってきた。

「今日は、映画を観に行きたいのではないですか?」「今夜はお酒を飲みに

いくのではないですか?」「エッチの相手はこの人ではないですか?」「今日

腹が立つのはこの人ではないですか?」いつの間にか、どんどん提案メッセ

ージの種類が増えている。もう、登録解除した方がいいのかな、と思い始め

たとき、さらにメッセージがやって来た。 

「あなたは、フェイスノートが怖くなって辞めようとしているのではないですか?

辞めないでください。今辞めると大変なことになるかもしれませんよ」

 な、なんなのだ、この脅しは。辞めたらいったい何がどうなるというのだ?PC

からピロリン! という音が鳴って、フェイスノート画面に、新たなメッセージが

現れた。

「あなたが殺したいのは、フェイスノートを辞めようとしているこの人たちで

はないですか?」

                     了

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