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第五百六十七話 スプレー [日常譚]

「あなた、困ったわ。どうしたらいいのかしら?」

 妻がいうのは、ウチで勝っている猫が、ベッドの上で粗相をするようになっ

たというのだ。飼い猫のミィは、生まれて間もない頃、近所の公園でみゃーみ

ゃー鳴いていたのをぼくが拾って帰った雄の野良猫なのだが、まだ子猫なのに

すぐにトイレの場所を覚えてくれた賢い猫だ。それが二年も経ったいまになっ

て急にそんなことをするなんてどうしたのかしら。妻はそう言いながら、イン

ターネットで調べはじめた。

「あら? スプレーと言って雄猫特有の臭い付け行動ってやつかしらね?」

妻が調べたところによると、スプレー行動というのは、いわゆる自分の縄張り

が何かの要因で不安になったときとか、情緒が不安定になったときにはじjめる

ことがあるという。しかしウチは一頭飼いなので、他の猫もいないのだから、

縄張りを誇示する必要もないはずなのにね。毎日留守しているから、寂しくて

情緒不安定になってるのかも。

 妻はミィのことばかり心配して、寂しいの? 寂しかったの? とミィを抱

き上げて頬ずりする。縄張りが不安になるとは、多くは対雌に対してのアピール

だったりすると思うのだが、すでに去勢しているミィにもまだ性欲があるのだろ

うか。妻はそんなこともぼくに聞いてくる。

 そんなこと、ぼくにだってわからないさ。それに、ほんとうにミィの仕業なの

かい? だってウチにはミィしかいないんだから、他には考えられないじゃない

の。

 妻は今日も帰りが遅い。最近、同僚との集まりだとか、同窓会の打ち合せだと

か、何かと遅くまで飲んで帰って来ることが多い。その間ぼくはミィと二人で家

に居て食事を摂るのだが、ベッドの上でスプレー行為をするようになったのも、

妻の帰りが遅くなりだしてからだ。ぴったりと符合するのがなんだか可笑しかっ

た。

 ねぇ、ミィちゃん、ごめんね。あいつは完全にお前の仕業だと思ってる。でも

そうしといた方がいいかもね。ミィのことが心配になって、誰かとの浮気なんて

やめて早く帰ってくるようになるに違いないし。

 ベッドの上でミィちゃんを抱きしめながら、ぼくはついまた粗相をしてしまの

だった。

                       了

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