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第五百六十五話 隣の侵略 [日常譚]

「あれ? またこんなところに」

 私は祖父母の時代から引き継がれている土地に住んでいるのだが、最近、

庭の隅っこに何か知らないモノが置かれていることがある。最初はスコップ

だの箒だの、庭の手入れをした後の道具だった。それらのモノは、最近隣に

引っ越してきた一家のモノであることは明らかだった。庭掃除をした後、置

き忘れたんだろうな、最初はそう思っていた、ところが近頃では、古い自転

車が停められていたり、車から取り出したバッテリーや、壊れたプリンター

なんかが、粗大ゴミ置き場みたいにして置かれている。

「まぁ、しかたないか、隣家もまだ家の中が片付いていないのだろう。置か

せておいてやれ」

 家の者にもそう言って見過ごしていた。友人にその話をすると、まじめな顔

になって、それは注意した方がいいぞ、と言うのだが、そんな目くじらたてる

ほどのことではないではないか。

 このあたりは五年ほど前に市の区画整理があって、うちもそのときに建て替

えたのだが、そのときに敷地の一部が市に召し抱えられ、土地の区割りも若干

変化した。隣家が荷物を置いてある場所は、元々は隣家の敷地だったのだが、

区画整理の時に少しずつ区割りが変わって、ウチの庭の一部になった場所だ。

 そのうち、もはやその場所が隣家のゴミ置き場として定着し始めた。由々し

きことである。

「いままで黙認してきたけれども、我が土地にお宅の品々が置き放たれている

ことに、私は遺憾に思っている」

 という内容の手紙を書いて、隣家のポストに投函した。すると、翌日返事が

来た。

「調べてみたら、あの場所は元々我が敷地の一部であったとわかった。従って

今後もあそこは我が敷地として使う」

 この返事に驚いたが、そこはそれ、隣家と争うなどという大人げないことは

是が非でも避けたい。隣家の子供たちは、ウチの子供と同じ学校に通っていて

PTAのつながりもある。子供同士でCDの貸し借りなんかもしているようだし。

こんなことでいがみ合いたくはないのだ。

 ことを起こしたくないと黙っていたら、隣家がモノを置いている我が庭のス

ペースが少しずつ広がりだした。つまり、モノがあふれ出したのだ。いまでは

小さなウチの庭の半分ばかしが隣家の物置になっている。今更どうしたものか

とは思うのだが、一度隣家にひとこと言おうとドアをノックしたら、出てきた

のは初めて出会う隣のご主人。体格もよく、ちょっと見はその筋の人かしらん

と思わせるような強面な顔に鋭い眼光。噂では警察関係に勤めているらしいの

だが。こんな人間に楯突くと、とんでもないことになるなと予感して、私は文

句を引っ込めてご挨拶だけして帰ってきた。

 家族で協議した結果、これは簡易裁判所に申請しようということになってい

るのだが、今近所付き合いのことを裁判になんてかけたら、もはやご近所づき

あいができなくなるなぁと、実は二の足を踏んでいるのである。先祖代々この

土地に住んできた我が家・・・・・・野田家のピンチといえばピンチなのだが、でも

私さえ、黙って見過ごしておけば、何も問題は起こらず平和が永続するのだし

と思ってやまない今日この頃なのだ。

 あれ? 庭の方でごそごそと音がする。あっ! なんだあいつら。人の庭で

何している? 見れば、隣家の連中が我が家の庭にレジャーシートなぞを持ち

出して悠々と日光浴をしているでは亡いか。奴らの話し声が聞こえる。なんだ

って? ここに、隣家の記念館を建てようかだって? とんでもない奴らで。

しかし、そんなこと、できるはずないよな。ここはウチの敷地なんだから。

私は半分ベソをかきながらそう思った。

                         了

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