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第五百七十四話 アザーズ [空想譚]

 ますます激しい紛争を呈しているシリアにおいて、アレッポのアザーズは反

政府勢力が拠点としている町だ。トルコ国境に近いこの町は、物資の輸送な

どに有利であるために、政府軍は奪還しようと必死だ。街頭では常に反政府

勢力軍と政府軍の間で銃撃戦が行われ、また空からは政府軍の戦闘機によ

る爆撃も頻繁で、普通ならごく平和な住宅地であるはずの町は瓦礫と化し、

多くの市民が紛争に巻き込まれて命を落とし続けている。

   ◆    ◆    ◆

「おい、隠れろ! こっちだ!」

 雄輔は先輩の誘導に従って、発電所入口ゲートの影に隠れた。ゲート外に

続く道路の先に政府軍らしき人影が見えたのだ。道路のさらに先は川で分断

されており、川に架かる橋向こうまで政府軍が来ていることはわかっている。

だが、奴らをそれ以上こちらに侵攻させないために、我々反政府軍はゲート

のところに車両や土嚢でバリケードを作って見張っているのだ。この大原原

発はどんなことがあっても奴らの手にわけにはいかない。これは、我国の未

来のために必要な闘いなのだ。

 大原町は、そもそも農業と発電所だけで成り立っている静かで平和な町だ

った。東北エリアの、あの忌まわしい原発事故が起きるまでは。国が提唱し

ていた原発の安全神話が崩れ去り、国民の大半が原発の再稼働に反発し

た。だが、国内の経済情勢と、原発にまつわる様々なしがらみを考慮する

政府は、口先では民意を優先するようなことを伝えながらも、依然各地の

原発を稼働させようとしていた。

 確かに、すぐにすべての原発を停止させることは、経済の発展上に不利

であるかのように思えたが、実際のところ、学者の間でも意見は分かれて

おり、どうやら原発抜きでも十分に国内エネルギーをまかなっていくことが

できるというのが国民の多くの見方になってきた。だが、そうした思いとは

裏腹な何か・・・・・・例えば利権者の意思が政府の裏で動いているようで

あり、結局、脱原発依存というよくわからない物言いを掲げる政府は、

近いうちに脱原発」と言葉を濁しながら大原原発を再稼働させようとして

いた。

 反原発団体は、飽くまでも話し合いで政府の動きを止めようとしていたが

中には急進的な考え方をする若い集団が現れ、彼らは実力行使で大原原

発の再稼働を阻止しようとした。つまり、現場を押さえて動かさないようにす

ればいいのだと。急進派のリーダ格である山本は、かつてこの原発で働い

ていたこともあり、大原原発の内部には山本と通じる人間が何人もいたこ

が大きなきっかけともなった。山本を中心とした五十名余りの草の根集団が

内部の人間に手引きによって大原原発に入って内部を制圧。もともと闘争

の意思などない原発の職員たちを外に解放した。さらに山本に共鳴した数

千の人々が全国から集まり、原発だけでなく、大原町全体を占拠した。もち

ろん、原発再稼働に怯える大原町の住民の八割が、既に草の根集団に参

加しており、町全体が反政府勢力として活気づいていた。これがこの数週

間に大原町で起きたことなのだ。政府は、反政府勢力の台頭に対して遺

憾であるという声明をだし、すぐさま自衛隊を大原町に差し向けたのだ。

 最初は警察部隊と自衛隊による圧倒的な力で事態は収まるであろう

と思われていたが、当初千人あまりであった反政府勢力は、大原町に

留まらず、かつての百姓一揆のように全国各地で蜂起しはじめ、すべ

ての人々が大原町に向かったり、食料を差し向けたり、支援の手を伸

ばすことによって、大原町を五万人の集団が守っているという事態に

まで発展するに至り、慌てた政府は武力行使で制圧しようとするも、

民間人の人海戦術と技術力と拮抗して苦戦を強いられた。自衛隊

にいた狂信的な若造が遂に発泡するに至って、ついに大原町にも

血が流され、シリアに劣らぬ悲劇の戦場と化したのだった。

「おい、俺たちの仲間も随分と殺された。だが、レたちも奴らに多く

のダメージを与えているんだ。このままこの原発を守り抜いて、な

んとしても再稼働を阻止するんだ!」

 山本リーダー直近の仲間である先輩は、ことあるごとに戦友た

地を鼓舞し、士気を高める。ぼくらも原発再稼働阻止という極め

て明確かつ正義に満ちた大儀があるだけに、決してくじけない。

問題は、いつ政府が折れるかだけだ。こうしているうちに、もし

かしたら、他の原発が再稼働してしまうかもしれない。だが、そ

れでも、この大原を守りぬくことには大きな意義がある。世界が

見ているはずなのだ。奴らの思うがままにはさせない。

 奴ら・・・・・・いつしか反政府勢力の中では、政府の奴らのこと

をアザーズと呼ぶようになっていた。国の中心であるはずの民

意を無視して国を捌こうとしている奴ら。アザーズを打倒できる

のはいつの日かわからないが、この国を守るためには国民が

団結することこそ大切なのだ。

                        了


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