第五百二十一話 悪を倒せ [怪奇譚]
「ワッハッハッハ! どうだ、やはり、現実でも正義は必ず悪に勝つのだ!」
悪の限りを尽くしてきた統手賀雲谷斎(すべてがうんこくさい)はいま、地
面に打ち付けられて息も絶えだえになりながら、たったいま、自分を打ち負か
して目の前に立ち聳えている結構仮面を見上げた。
「く、くそう。正義は勝つ……確かにそうかもしれないが、貴様、世界の善悪
バランスというものを知っているか?」
「何をほざいている。そんなものは知らない」
「世の中は、善が明るい側を支配するためには、必ず、その反対側にある
存在が必要なのだ」
「つまり、ダークサイドには悪と言いたいのだな」
「そ、そうだ。俺たち悪は、善を善たる存在でいさせるために存在するという
ことなのだ」
「何を馬鹿な。そんなふざけた話があるものか。世の中すべからく善であって
何が悪い」
「と、ところが、そうはならぬのだ。善が君臨するためには悪が必要なのだ。
そして、もし、悪が存在を止めてしまった時には、必ず次の悪が生まれるのだ」
「馬鹿な。仮にそうだとしても、そいつもまた、私がやっつけてやる!」
「ふっふっふ。残念だな。次の悪は、いまの悪を打ち負かした者が成り代わる。
世の中の暗黙のルールは、そうなっておるのだ」
「この期に及んで、なんという嘘をつきやがる。お前など、さっさと逝け!」
結構仮面に止めを刺された雲谷斎は、ぐぇ! と言って息絶えた。その姿を
見ていた結構仮面は、再び空に向かって高笑いした。
「ワッハッハッハ! ギャーッハッハッハ! おれで、ついにこの世は、俺様の
ものだ!うわーっはっは! これからは、この結構仮面様が、ダークサイドも、
ライトサイドも、すべての世の中を試合してやるのだ! ワーッハッハ!」
かくして、新たな悪のキャラクター、結構仮面雲谷斎が立ち上がったのだった。
了