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第四百九十九話 大魔王覚醒~実験奇譚・なんか妖怪ー16 [文学譚]

 円マサオは、ただ一人ぽつねんと事務所にいた。ひとり、またひとりとど

こかへ姿をくらませてしまい、ついにはマサオ一人だけが取り残されてしま

たのだ。ビルの外は、なんか戦時中のような騒ぎになっており、マサオは恐

ろしくて部屋を出ることが出来ない。あの恐ろしげな化け物が、今にもこの

事務所にもなだれ込んでくるのではないかと、恐怖に怯えていた。

 いったい何が起きているんだろう? マサオにはよくわからない。みんな

は赤い雨のせいだなどと言っているが、その赤い雨という話がわからない

のだ。ただ、妙なことがおき始めたのは、部長のせいではないかとマサオ

は考えていた。

「あの部長が一番最初に居なくなったなぁ。あいつ、俺になんか言ったっけ。

お前もそろそろ、大人のビジネスマンとして脱却……いや、脱……脱皮、そう

そう、脱皮と言った」

 ん? 脱皮? そういえば、あの日も、部長のあの言葉を聞いてから、なん

だか気分が悪くなったっけ。そう、そうだ。靴が合わなくて、足が痛くて。水虫

でもないのに足の皮が剥けてきて。はて? だけど、その後のことを覚えて

ないんだよな。みんながあの日赤い雨のことを話してたんだが、俺にはさっ

ぱりなんのことやら。マサオの頭の中を記憶が巡る。

「脱皮……」

 マサオは脱皮という言葉を独り言で口に出したとたん、違和感を感じた。ぴり

ぴり。身体のどこかが裂けるような音。ビリィ!マサオの顔が左右真っ二つに

裂け、なかから紫黒の鈍い輝きを見せる鋼のような身体が出現した。閻魔王だ。

円正王は再び閻魔王に変身した。

「うぉおおおおお!」

 雄叫びを上げながら、閻魔王は十三階のビルの窓を割って外に飛び出した。

「ぐぉおおお! 悪い人間どもをすべて邪鬼にしてしまえ! この世には正しき

人間しかいらぬわ」 

 閻魔王は天空に浮かんだまま地上を睨み据え、人間に体液を吐きかけて次

々と邪鬼に変えていく様子を満足そうに眺めていた。鬼木太郎たちが妖獣と呼

んだ同じ化け物を、閻魔王は邪鬼と言った。邪鬼とは、地獄で閻魔大王に使え

る鬼や悪魔の中でも最下級の鬼なのだ。 

「わっはっはっは。みんなもっとやれ、わっはっはっは」

「待て!」

 そのとき、何者かがビルの屋上から、空中に浮かぶ閻魔王に向かって叫んだ。

「待て!お前が閻魔王だな!お前がこんなことをしているのか?」

 ビルの屋上で叫んでいるその影は、鬼木太郎だ。

「なんだ、お前は? 閻魔の邪魔をするのか?」

 閻魔王は怒りの声を上げた。

                             了

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