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第四百九十三話 七つの大罪~実験奇譚・なんか妖怪ー10 [文学譚]

 リビングのテレビがついている。まだデジタル化されていないこのうちのテレ

ビは奥行きのあるブラウン管のもので、大家族で見るにはサイズも小さめだ。だ

がこのうちは大家族ではないので、この大きさで充分なのだった。ブラウン管の

中では女性キャスターが、中年の学者と向かい合っていた。国営放送が得意な教

養番組かと思われる構成だが、時々賑やかなCMが入るところをみると、そうでは

ないらしい。

「七つの大罪とは、そもそも4世紀のエジプトで修道士エヴァグリオス・ポンテ

ィコスという人が著した八つの枢要罪として書かれているんです」

 学者が落ち着いた口調で語っている。

「七つではなく、八つ、ですか?」

「そうです。それが後に、六世紀の後半になってから、グレゴリウス一世の手に

よって、このうちの虚飾が傲慢のひとつとされ、 怠惰と憂鬱はひとつにまとめら

れて六つになったところへ、嫉妬が加えられました」

 男女が映っていた画面はタイトル画面に変わっており、八つの単語がアニメー

ションして、最終的には、「暴食、色欲、強欲、憤怒、怠惰、傲慢、嫉妬」とい

う七つの言葉が並んでいる。続いて、それぞれの言葉の後ろに、カタカナの記号

が付け足されていった。

暴食ベルゼブブ

色欲:アスモデウス

強欲:マンモン

憤怒:サタン

怠惰:ヴァルフェゴール

傲慢:ルシファー

嫉妬:レヴィアタン

「 面白いことに、それぞれの罪には悪魔が対応しています。たとえば傲慢はルシ

ファーという悪魔が担当し、憤怒にはみなさんご存知のサタンが担当しているん

ですね」

「これ、全部悪魔なんですか?」

「そうです。この言葉の中で傲慢とか、憤怒とか、最もイメージとリンクしやす

い言葉を担当していたルシファーとかサタンとかが、よく物語の中に出てくるの

で有名になっちゃったんですね。」

「ほう。それで?」

「……いえ、それだけですけどね……大罪っていうのは、飽くまでも宗教的に人を

悪に導く可能性がある感情や欲望をさすのであって、現実の罪のことではありま

せんよ。あ、それからついでに紹介しておきますが、最近になってバチカンのロ

ーマ法王が、新装版七つの大罪っていうものを発表しています。これがなかなか

現在に則しているので面白い。」

 再び画面にテロップ文字が現れた。

1.遺伝子の改造

 2.人体実験

3.環境汚染

4.社会的不公平

5.貧困の強要

6.猥褻な富

「さらに、マホトマ・ガンジーも現在の資本主義における……」

 学者がそこまで話したときに、洗い物をおえたポーラがお茶を運んで来た。

「あなた、いつから宗教家になったんですか?はい、お茶いれましたよ」

 ソファでいつの間にか居眠りをしていた鬼木太郎は寝ぼけて言った。

「ふぁぁ〜七つのたいやきは?」

「ばぁかねえ、何寝ぼけてるのよ。たいやきなんて買ってきてないわよ」

 鬼木太郎は身体の一部が敏感で、眠っていても外の声や音が勝手に記憶され

ていることがよくあるのだが、それらはたいてい少し間違って記憶されている。

「はい、お父さんも、どうぞ」

「ああ、サンキュ」

 いままでどこにいたのかわからないほど小柄な親父が、ソファの間の床上か

らむくっと起き上がった。頭はつるっ禿で、大きなまんまる目玉に特徴がある

小さなおじさんは、鬼木太郎の実の親、ポーラの義理父だ。大学で文化人類学

の教鞭をとっているだけに実に知識が豊富で強要豊かな親父なのだ。彼はその

風貌のイメージから、学生からは目玉オヤジというあだ名が付けれれている。

「おい、太郎。わしはいま、テレビを見ておったんじゃが、なかなか面白い話

じゃったぞ。七つの大罪のはなしだったが、この前の赤い雨となんか関係があ

理想な気がするのじゃ」

「へー、そうなんですか?どう関係するんですか、お父さん」

「それは、まだわしにもわからん」

 目玉オヤジは、考え込みながら、お茶にふーっと行きを吐きかけた。

「ところで、鬼太郎さん、今度ね、ノリカの店で一周年パーティがあるの、一

緒に行ってくれるでしょ?」

「ポーラ、お前まで鬼太郎と呼ぶな。うーん、俺はそういうパーティとか苦手

なんだけどな。」

「そう言わずにねーねー」

「ワシは行くぞ。パーティというからには、美味いものがあるんじゃろ?」

「まぁ、お義父さまったら、相変わらず食い意地が張ってますこと。それは美

味しい、ものがいっぱいありますわよ」

 さぁ、これで役者がそろったわけで、物語はいよいよ佳境にはいっていくの

です。

                      了

続き:第四百九十四話 悪夢の予感  前話:第四百九十二話 降り注ぐ贖罪の雨

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