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第四百六十一話 現地特産蛙漁。 [妖精譚]

 青葉が目に眩しく、山から降りてくる風が生ぬるくなる頃、内陸部に位置す

るこの地に暮らす漁師たちは俄かにに忙しくなる。内陸なのに漁師とは不思

議に思うのだが、猟師ではなく、漁師なのである。

 田植え前の波波と水が張られた水田に、何人もの漁師たちが釣り糸を垂ら

しては引き上げ、引き上げてはまた釣り糸を垂らす。いったい何を釣っている

のだろう。初めてこの地を訪れた私は、訝しく思って忙しそうな漁師の一人を

捕まえて尋ねた。

「いったい、こんな田んぼで何が釣れるのです?」

「・・・あんた、誰かね?」

漁師は一旦手を止めてそう尋ねた。

「ああ、お忙しいのにすみません。私は資源開発局の仕事で出張して来た、た

だの通りすがりなのですが、みなさんのお姿を拝見してちょっと不思議な光景

だなぁと思いまして・・・」

一旦は止めた手をまた動かし、釣り糸を田んぼに投げ込みながら漁師が答える。

「はぁん?あんた、知りなさらんのか、この土地の名産品を。」

「はぁ・・・初めてきたもので。」

「おらたちはの、蛙を採っとるんじゃ。」

「カエル・・・ですか?」

「そんじゃ。カエルじゃ。ここいらでは、蛙がどぉんとのう採れるんじゃに。」

「で、それをどうするんですか?飼育するのですか?」

「ばっかぁけ?!こんなもん、飼うてどうする。売るんじゃねか。ここいらの

は大けい割には身が締まっとるで、ええ値で売れるきに。」

「ほぉ。で、それを買った人が飼育するんで?」

「ほんに、お前さまはばっかじゃの。こんなもん、飼うてどするんじゃ?こん

もん、食べるほかなかろうがな。おんし、知らんのか?この辺で採れる

四六のガマっちゅうやつを。」

「はぁ・・・・・・四六のガマと言ったら、あれですか?あのガマの油売りの?」

「おお、知っとるじゃねけ?そうじゃがな。そうじゃがな。あんれはなぁ、な

かなか質のええのが採れなんだ。それが近頃不思議に採れるようにな

ってな。」

「四六のガマって言ったら・・・前足の指が四本で、後ろ足のが六本で・・・。」

「違う違う!この辺のはそんなチンケなもんじゃね。この辺の四六のガマは

の、前足が四本、後ろ足が六本じゃがな。」

「ええ?じゃぁ、前後合わせて十本足の蛙?」

「んだがね。こいつがええんじゃ。一匹で脚が十本じゃろ?蛙の足っちゅう

は鶏肉とよぉ似た味でな、タンパク質もたんと含んでるでの。」

「昔っから、そんな蛙がと、採れるんですか?」

「うんにゃ。昔は採れなんだ。去年くらいからかの。こんな四六のガマが

出始めたんは。」

「それって・・・もしや、あの・・・去年あの山の向こうで起きた事故に関係

しているのでは・・・?」

「ばっかいうでね。おらたちはそんなもん、採んねえべ。これは、進化した

新種の四六のガマじゃで。」

「でも・・・」

「こらこら、仕事の邪魔すんでね。」

 これは・・・・・・どう考えても奇形の蛙ではないのだろうか。私は少し心配になっ

たが、そんなことを口に出したら、この漁師たちを怒らせてしまいそうで黙ってい

た。私たちの会話を、仕事をしながら聞いていた隣の漁師が口を挟んできた。

「おまいさんは、食うたことはないのかの?こいつら、東京さ出荷されんだで。

東京では売っとらんのかね。こんな美味いもん、きっとお前さまも食っとるに

違いねけどな。」

「んだんだ。食っとる食っとる。」

「あのぉ、蛙の特徴は手足だけなんですか・・・・・・?多いのは?」

「・・・・・・うだなやぁ。実はな、おらたちもちょっと気味が悪いと思うとるんじゃ

がな、目は六つあるど。」

「め、目が六つ?」

「んだがね。じゃがな、おらたちは、前の二つが目で、残りの四つはな、模様

と言うとる。したらの、引き取り業者も、んだんだ言うて持って行きよるわ、

あっはっは!」

 今日もまた、四六のガマが大漁の様子だ。この村ではこの時期、これで

生計を立てているのだ。大漁の蛙をトラクターにつないだリアカーに乗せて、

漁師たちはホクホク顔で帰っていく。美しい夕焼け空の下で、漁師たちの

族が夫であり父親である彼らの帰りを待っているのだ。

                       了

※四六のガマ(しろくのガマ)とは、前が4本指、後足が6本指のニホンヒキガエル(ガマ)のことである。

[ニホンヒキガエル]体色は褐色、黄褐色、赤褐色などで、白や黒、褐色の帯模様が入る個体もいる[5]

体側面に赤い斑点が入る個体が多く、背にも斑点が入る個体もいる

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