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第四百五十一話 虫。 [空想譚]

 「なぁ、本当にUFOっているのかなぁ。」

「おいおい、翔太お前何言ってんだ。そんならなんでこのサークルに入ったん

だよぉ。」

なんでって北村、お前が無理やり入部させたんじゃないかよぉ。翔太は心の

中で呟いた。山中翔太と北村久次郎は小学校からの友人だ。北村はいつの

ころからか不思議な事象に興味を持つようになり、とりわけ未確認飛行物体

UFOにはこの上なく傾倒していた。大学に入って勝手にUFO研究会というサ

ークルを立ち上げ軌道に乗ってきた頃、翔太を勧誘したのだった。

 二人が通う大学は比較的新設校であり、北村が二年前に立ち上げたこの

変わったサークルにも寛容だった。だから北村のサークルにも小さいながら

部室が貸与された。部室の中は奇妙な形の物体やUFOのミニチュアで溢れ

かえっている。棚の上にはアニメや映画に登場したさまざまな宇宙人やキャ

ラクターのフィギュア、映画に出てくる宇宙船の模型が並び、天井からは北

村たちが手作りした葉巻型やアダムスキー型のUFOがテグスで吊り下げら

れている。いかにもオタクたちの部室といった面持ちだ。だが、北村は真剣

なのだ。入学してすぐに立ち上げたこのサークルに興味を持った学生は思

いのほか多く、二年過ぎた今では18名の部員が所属している。だが、毎日

部室に顔を出すのは、北村と山中くらいだろう。

 この部室にやってきて、二人が何をするかといえば、もっぱら菓子でお腹

を満たしながらのUFO談義だ。

「でもさぁ、北村は本当に宇宙人とか入ると思ってんの?」

「何をいまさら。あのな翔太、スタンフォード大学で計算したら、10の1016

乗もの宇宙が存在するっていうんだぞ。わかる?」

「10の1016乗・・・そんな数字、想像もつかない。」

「そうだろう?俺にもイメージが出来ないんだ。」

「で?だから何だ?」

「宇宙ってのはな、例えばこの地球があるのは太陽系だろ?太陽系はまた、銀

河系宇宙の中にある。この大きな銀河系宇宙みたいなのが、10の1016乗ある

ってことなんだぞ。それでな、銀河系の中だけでも1000億とか2000億の星が

存在するっつうわけ。その中のひとつが地球。な、な?わかる?」

「だから、それほどいっぱい星があるんだから地球みたいな星だってきっとたくさ

んあるって言いたいんだな?」

「そういうこと。」

「だけどね、それだったら宇宙人の一人や二人が、やってきててもいいんじゃない

の?」

「あのな、地球人ほど優れた生命体でさえ、まだ月にしか行けてないんだよ。宇宙

に地球くらいに進化した惑星があったとしてもな、まだその惑星の周辺にしか進出

出来てないんだ。ところが宇宙の大きさってどんくらいかわかる?とてつもなく遠い

んだ。光であえ何万年もかかるっつうくらい遠い。だから、なかなか出会えない。」

「ふーん。理屈だなぁ。」

「だから、俺たちが研究してるUFOっていうのが、本当に外宇宙から来たものなの

か、はたまたどこかの国の秘密兵器なのか、もしかしたら未来の地球人が乗って

きたタイムマシンじゃないかとか、議論が分かれてるんじゃないか。」

「議論が分かれるって言ってもさ、僕はまだUFOを見たことがないから、UFOno

存在自体が信じられないんだな。」

 「お前が見たことなくってもな、世の中にはUFOを見た人どころか、UFOに乗っ

た人までいるんだぞ。写真や映像だって山程ある。」

「本当かなぁ・・・。」

いつもこんな結論のない話で終始して、結局最後は女の子の話になって終わる。

 二人が帰った後、部室の小さな窓がカチャんと割られて、何か小さな円盤状の

物体が部室に投げ込まれてきた。その物質は宇宙船のおもちゃが並べられた棚

の上に器用に着地して静かになった。

「ナントカコノ惑星二着地出来タガ、本当ニコノ場所デイイノカ?」

「大丈夫ダ。モニターヲ見ロ。他ノ宇宙船ハモウ既二ヤッテキテルジャナイカ。

我々ハココデ地球人ト接触スルノダ。」

小さな宇宙船の中では小さな宇宙人が作戦を練り始めた。最初にどのように

地球人とコンタクトを取るのか、そして宇宙の平和を保つために彼らと協定を

結び、平和を維持するための技術を教えなければ。

 あくる日の午後、北村と翔太は午前中の授業が終るや否や、飽きもせずに

また部室へとやってきた。今日は珍しく翔太と同じタイミングで入部した1年生

の桑原もくっついてきた。部室に持ち込んだコンビニ弁当を開きながら、北村

はまたオタッキーな宇宙論を打ち初めようとしたその時、桑原が素っ頓狂な声

を上げた。

「先輩~!またこんなUFOを作ったんですか?スッゲー格好良いっす。」

「なに?UFO~?そんなのずっと前に作ったやつだよ。」

「ええ~?そんなことないっすよぉ。先週はこんなのなかったっすよぉ?」

「バッカ。お前、ちゃんと見たことあるのか?俺のUFOを。」

「ホラーこれ見て。」

翔太が棚を見ている翔太の脇にやってきて言った。

「お、本当だ。これって、何で作ったの、北村?」

「なんだって?どれよ。」

北村が棚の所にやってきて調べてみると、映画SWのファルコン号の隣に、見

慣れぬガンメタ色の薄汚れた塗装を再現した宇宙船が鎮座していた。

「あっれー?これは俺のじゃないぞ。誰だ?こんなの持ち込んだのは?しかし

よく出来てるなぁ。本物っぽい。」

「これって金属だろ?プラスチックじゃないよな。」

「そうだな。しかし、こんなの作るやついたっけ、この部に。」

 はじめて見る宇宙船模型を囲んで三人がああでもないこうでもないと話をし

ていると、宇宙船がカタンと小さく揺れた。

「お、おい、見ろよ。なんか動いたぞ。」

見ると、宇宙船の下部に小さな穴が開いて中で何かが動いている。

「な、何かいるぞ!」

三人が息を飲んで見つめていると、黒い何物かが小さな穴から這い出してきた。

それは、背中に赤黒い羽を閉じたゴキブリだった。

「うわっ!ゴ、ゴキブリ!」

「おい、なんか、ほら、そこの週刊誌とれ!」

三人が驚いていると一匹目の小さな虫の後ろから続々と虫が這い出してくる。

「うわぁ、きっしょー!早く!殺せ!潰せ!」

三人は手に雑誌や靴を握りしめて、宇宙船から這い出してきた五~六匹のゴキ

ブリを次々と叩き潰した。

「うぁわ~誰だ、こんなゴキブリの巣窟みたいなの持ち込んだのは!」

「絶対に追求してやる!」

「ぼ、僕じゃぁないっすよぉ!」

金属の宇宙船の前には小さな虫の叩き潰された死体が六体。よく見ると、それ

はゴキブリにそっくりなバトルスーツを着込んだ何者か。しかし、完全にぺちゃん

こになってしまっているので、今となっては何だかわからなくなっていた。

 かくして宇宙船の乗組員は全滅し、母船との連絡も取れなくなってしまった。地

球の大気圏外で待機していた母船は、消息を断った船から送られてきた最後の

映像・・・とてつもない怪物が隊員たちを次々と叩き潰していく様子に恐れをなし

て、こんな野蛮な星と平和協定を結ぶことは困難と判断した。彼らは一旦母星

に戻る途上で、この惑星を無視するのか、消失させてしまうのかの討議必要が

あるという報告を送信した。

                                       了


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第四百五十話 アイデンティティ。 [文学譚]

 女は四〇歳を過ぎると、いろいろ気になるコトが増えてくる。中には、いや

いや女は三〇歳からよという人もいるが、本当に嫌になってくるのは、私く

らいの年齢になってからだ。

 目の下のたるみ、目尻の小ジワ、ホウレイ線、毛穴の開き、肌のキメ、シミ

とくすみ・・・数えだしたらもうキリがない。最近私はもう諦めて鏡なんてみな

いようにしてるの、なんて嘯いている友人もいるが、そんなのは嘘だ。女だ

ったら毎日数分から人によっては数時間も鏡の中の自分を眺めているもの

だ。心底そんなことはしないという女性がいたら是非紹介してもらいたいくら

いだ。

 母なんて、朝私が目を覚ました時刻には、もうすっかり綺麗に化粧をし終

わって素知らぬ顔で自分の仕事をしていたものだ。長年鍛えたそのメイク

技で実に上手に仕上げていた。まぁ、もともと母は美しい人だから、そんな

にしみじみ自分の顔を眺めたりはしなかったのかも知れないが。朝寝坊の

私は、そんな時間に起き出して、すっかり明るくなった朝の光の下で鏡を覗

き込むものだから、アラ探しなんてしなくとも、向こうからどんどん知らせてく

れる。ほら、またシワが増えてるよ。ほら、今度はこんなシミ出来たよ。その

度に私はあーあとため息をついて鏡の中の自分をじっと見つめるのだ。

 ある朝のことだった。いつものように目覚めてすぐに洗面所で顔を洗っい

ながら鏡を覗き込んだ。

 「あれぇ?なぁに、これ?」

私は思わず大きな声で独り言を言ってしまった。唇の右上に小さな黒い点

あるのだ。私、こんなところにホクロなんてあったかしら?いやいや、まったく

えがない。四十一年生きてきて、ただの一度もこんなホクロは見たことがな

い。そういえば母には昔、右眉のところに大きなホクロがあったという。それは

ホクロというよりはイボに近いようなものだったらしい。直径六ミリくらいあって、

その根元は細く糸状の皮膚で顔とつながっていた。だから触っていたら今にも

とれてしまいそうな感じのホクロだったらしい。

 しかし、自分の顔は、鏡を覗き込まない限り決して見る事はない。だから、そ

んなに大きなホクロでも、本人は少しも気にしていなかったという。だが、祖母

はきっと気にしていたのだろう。ある日、まだ娘だった母が眠っている間に、祖

母がいつも裁縫で使っていた和ばさみで根元からホクロを切ってしまったのだ。

多少の出血はしたのかも知れないが、目を覚ました母はしばらく気がつかなか

った。二~三日過ぎてから、鏡の中の自分の顔の異変に気がついて祖母に告

げた。

「おかぁちゃん、私、眉のところのアレがなくなってるねんで。なんでやろ?」

すると祖母は、今初めて気がついたかのように、あらほんとうだ。と言ったのだ

が、娘があまりに不思議がるので、ついに白状した。

「なんでそんな勝手なことをするん?私の顔が台無しやんか!」

母はしばらく怒っていたらしい。他人から見ればいかにも邪魔そうに見えるホク

ロなのに、本人にしてみれば邪魔どころか、案外気にもしておらず、むしろ自分

の特徴の一つとして認識しているのだ。いわばアイデンティティのひとつである

とさえいえる自分の一部が、たとえ母親とはいえ自分の体から離れてしまった

ことは、幼い娘にとってショックだったのかも知れない。新しい自分を受け入れ

るまで、一ヶ月近くかかったと、母は私に言った。

 私の場合はホクロがなくなったのではなく、新たに出来てしまった。もしかして

これはシミ?あるいはニキビかしら?ああでもないこうでもないとしばらく洗面

鏡と手鏡を駆使して調査し尽くしたが、結局これはどう考えてもホクロであろう

という結論に落ち着いた。

 「ねぇ~、あなたぁ!ちょっとぉ、これを見て?」

私はまだベッドの中にいる夫のところに言って、口元のホクロを見せた。

「ふゎあ・・・なんだよ、朝から大きな声を出して。メシかぁ?」

「違うわよ、起きてよもう!ほら、私、こんなところにホクロなんてあった?」

「ええ?ホクロ?さぁ~覚えてないなぁ。」

夫もいい加減である。長年連れ添った妻の顔にホクロがあるのかないのかさえ

知らないのだ。そんなことでは、もし万が一私が飛行機事故にでも遭って無残な

死体となって発見された時に、果たして自分の妻であるかどうかの確認なんて

出来るのかしら?私は思わず飛躍したイメージを抱いてしまい、適当な夫に腹

が立ってきた。

「あなたにとって私はそんな程度の存在なのね!私の顔なんてどうでもいいっ

てわけ?」

「おいおい、ちょっと待てよ。こんなことで怒るこたぁないだろう。どれどれ?これ

かぁ・・・?ふーん、あのなぁ、口元のホクロっていうのはなぁ、色ホクロって言っ

て、男にモテるんだぞ。」

「何よ、それ。あなた、私のこのホクロに惚れたっていうの?ここにホクロがあっ

たのかどうかもわからないくせに、適当なこと言わないでよ!」

 もうこれ以上夫に聞いても仕方がないと思い、私はさっさとキッチンへ行って、

コーヒーメーカーをセットした。子供たちはみんなもう県外の大学に出てしまって

るので、ほかに確認する人もいない。母ももうとっくにあの世に行ってしまってる

し。これって、医者に見せた方がいいのかなぁ・・・?」

 一日が始まってしまうと、鏡の前での出来事なんていつの間にかどこかへ行っ

てしまう。私は夫と共に家を出て、それぞれの職場へと向かった。それでも、会職

へ向かうまでの道すがらでは、まだホクロがたいそう気になり、道行く人々が

私のホクロを見ているような気がしていたものだ。

 職場の同僚は誰一人、私の顔について何かを言うものはいなかった。私も仕

にかまけて、まるっきり忘れていた。だが夕方になって、退社時間も間近にな

った頃、営業から戻ってきた向い席の下山が私の所にやってきて言った。

「あれぇ?悦子さん、いつからエロホクロ持ちになりましたぁ?」

「・・・エ、エロホクロ・・・?」

「そうだよ、それって、口元のホクロってエッチホクロって言って、女の人に

とって、いいものなんですよ。・・・前からあったんだっけ?そんなの急に出

来るわけないものな。そっかー悦子さんって、隠れた美女だったんだなぁ!」

「隠れた美女って!?何よそれ?」

 色ホクロ、エロホクロ、エッチホクロ・・・なんだっていうのよ、ったく!私は帰

りの電車の中でずーっとこの言葉を繰り返していた。ホクロひとつで大騒ぎす

る人もいれば、まったく気がつかない人もいる。人間の認識って、適当なもの

よねぇ。私はつくづくそう感じた。

 家の近所のスーパーで食材を見繕って、家に帰り着いたのは七

時。夫の帰宅はもう少し後だろう。私は一息入れてから、夕食の準

備に取り掛かった。

 若い頃と違って、最近は夫も私もあっさりした食事に好みが変わっ

ていて、健康のためと称して魚や煮付けという年寄りみたいな食事で

満足出来る。今夜も焼き魚と昨日作った筑前煮があれば十分だ。

 さっさと食事の準備を整えた私は風呂場の掃除に取り掛かった。バ

スタブをさっと洗って蓋を占めて、洗面所に出た私は、今朝も眺めて

いた大きな洗面鏡に目をやった。

 「あれ?あれあれ!?」

私は混乱した。鏡に映っているのは私ではない。誰?誰かいるの?

鏡の前につっ立ったまま私は後ろを振り返ったり、玄関の方まで飛

び出てみたり。何が起きたのかわからなかった。

 鏡に映っている女、それは私ではない、知らない女。薄っぺらい唇

の右上に大きなホクロを付けて、垂れ目を大きく見開いて私をじっと

見ている。私より美人かも知れない。でも、いやらしそうなエッチそう

な、いかにも男が言い寄りそうな中年の女。色気の薄い私とは正反

対のイメージ。これが、私なんだろうか。私は前からこうだった?私

は思い違いをしていた?どうあがいても鏡の中の女は私のようだ。

 私はキッチンに戻ってダイニングの椅子の上へと崩れ落ちた。

 「ただいまー。おーい、いるのか?どうした、明かりもつけないで。」

まもなく帰ってきた夫はダイニングリビングのドアを開けて、電灯のスイッチ

を入れた。

「あ、なんだ、そんなとこにいるのか。何してる?」

テーブルに突っ伏した私を見つけて、夫は言った。

「何かあったのか?」

私は夫に背を向けたままかぶりを振った。

「なんだ、まだホクロのことで怒ってるのか?」

私はどうしよう、夫にこんな顔を見せられないと思いながら、恐る恐る夫の方

へと顔を向けた。夫は私の顔をちょっと見つめてから、にっこり笑った。

「なぁんだ、別になんでもないんだな?そのホクロだって似合ってるよ。」

 私は無反応な夫に驚いた。知らない顔の女がここにいるというのに、なんと

も思わないなんて、どういうことだろう?

「そうか、ちょっとお疲れ気味らしいな。どぉれ、なぁんだ、もうメシは出来てる

んじゃないか。では、あとはオレが。」

味噌汁を温めたり、ご飯をついだり、夫はマメに働いて夕食をセットした。いつ

もと変わらぬ様子でテレビを点け、ビールの栓を抜き、私にも勧めて来た。

「ほら、いっぱい飲めよ。」

食事をしながらテレビを見て笑っている夫に、私は言った。

「ねぇ、私・・・顔が変わっちゃった・・・。」

「うん?お前、ホント疲れてるなぁ。どうしちゃったんだ?」

家に帰ってから起きたことを一通り夫に話すと、夫は黙ってリビングボードの

棚からアルバムを持って戻ってきた。アルバムを開いて私に見せながら言っ

た。

「ほら、これ、一昨年旅行した時の・・・。」

私はアルバムに貼ら れた写真を見てまた驚いた。仲睦まじく写っている夫

と知らない女。その女の顔は、今日の私の顔だった。いったいこれは・・・?

 あの旅行の後、我が家ではちょっとした事件が起きた。夫の浮気疑惑だ。

毎晩帰りが遅くなりがちな夫の態度が不自然に思えて、私は夫を追求した。

だが、夫は全面的に否定し、挙句の果てに同僚まで連れて帰って自分の無

実を訴えた。結局私の思い過ごしということで片付いたのだが、私は女の勘

を無視できないでいる。あそこはああして収めたものの、本当は何かあった

に違いないと踏んでいた。そしてその相手の目測もつけていた。夫にちょっ

かいを出していたのは、夫と同じ会社の女子事務員。いつかの社員旅行の

集合写真に写っている姿を何度も見た。

 私とは違う、あまり色気のないあっさりした顔立ち。色気がない分、逆に知

的で真面目で聡明そうだ。私と真逆なタイプの女に、夫が惹かれたとしても

おかしくはない。

 私の口ホクロは、よく男達から冷やかされる。エロホクロだ、エッチホクロ

だと。でも、それはモテる証拠、美人の証拠だとも。美人と言われて悪くは

思わないけれども、本当の私は知的で真面目で聡明なのに・・・そう思うと、

違う顔に生まれてきたらよかったのに、なんて妄想することも少なくはない

のだ。

                               了


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第四百四十九話 光あれ。 [妖精譚]

初めに、神は天地を創造された。
地は混沌で、闇は深淵の面にあり、神の霊が水の面を動いていた。

 神は天地を創造するにあたって、実はさまざまなシミュレーションを綿密に

行なっていた。宇宙はどのくらいの規模にするか、世界はどのくらいの広さに

するか、明るい世界にするかくらい世界にするか、そこに住む生命体はどん

な種類のものにするか、雌雄を分けるのか分けないのか、それについては

どこまで神自らの手をかけるか、あるいは成り行きに任せるのか・・・など。

物理学と化学、生物学と遺伝子工学など、すべての知識を総動員し、細部

に至るまで何度も計算をし直して、まずは設計図を作った。設計図をもとに

再度検討を重ねて、ミニチュアも制作したうえで、これなら大丈夫だろうとい

うところまでを吟味し、周囲の者にもコンセンサスを取った上で、実施に漕ぎ

つけたのだ。

 最後に、実施開始を告げる言葉を考えた。細部まで綿密に検討を重ねた

こと、明部と暗部をこしらえたこと、地球規模の大きさで決定したことなどを

織り込んで陣頭指揮をすべく号令の祝詞を頭の中に刻み付けてことに臨ん

だ。

 そしてその実施の当日。皆が見守る前に、神は威風堂々とした態度で登場

した。しかし、初めての大仕事であるが故に、心の内では自信と不安が交錯

し、成功の予感とときめきに気持ちが浮ついていた。そして陣頭指揮を取る

号令の口火を切るために考えた文句がすっかり頭の中から脱落してしまっ

たのだ。神が最初の一言を言った直後に、空白・・・。

 神は言った。

「光・・・・・・・」

皆は次の言葉を待った。しかし神の頭の中はまだ真っ白。あれ?あれっ?何を

いう予定だったんだっけ?神は頭を捻った。出てこない。思わず、

「あれ?」

神は言われた。「光あれ。」こうして、光があった・・・。
                                了


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第四百四十八話 人類の起源。 [空想譚]

 惑星に着陸した宇宙船から最初に大地へと降り立ったのは、この船の船長で

あるヒップルだった。その後ろからさらに二人の飛行士が降りてきた。全身真っ

赤な宇宙服は実際の体型を二倍くらいに大きく見せてしまうような、いかにもた

いそうな装備であった。頭部を包むヘルメットは深海へ潜る時の潜水服と同じ

で、前部は外部が見渡せるように窓になっていた。だが、その表は鏡面にコー

ティングされているので、中にいる人物の顔は見えない。

「Piii・・・ヒップル船長・・・この惑星の大気はやはり測定通り酸素と二酸化炭素、

僅かですが窒素などで構成されていますね。」

「そうだな。khoohoo・・・クレイン曹長、ギャビット二等航空士、ヘルメットを脱い

でみようなんて冒険心を起こすのではないぞ。我々は窒素濃度が高くなければ

呼吸できないのだからな・・・khooohooo」

 クレイン曹長と呼ばれた男は、ギャビット二等航空士とともに船から機材を積

下ろし、大地にさまざまなシステムを組み立始めた。

 彼らの惑星は遠く離れたアンドローメーダの星々のひとつからやってきた。彼

らの太陽が巨大矮性となりつつある今、まもなく終焉を迎える銀河を逃れ、新

天地を求める必要があったのだ。この惑星は水に包まれ、自分たちが移住出

来るのではないかと考えられた。だが、問題は大気にあった。彼らが住むため

には窒素を中心とした空気が必要だ。ところがこの惑星は酸素が中心なのだ。

将来的に惑星の大気が窒素系のものに変性していくか、科学の力で惑星大気

を改造してしまえるか、その可能性の可否が求められた。そこで、この三人が

調査隊として派遣されたのだった。

 三人は、大気と海の組成詳細を調べ、土壌を採取し、地面に穴を掘って地層

を調べた。その結果、惑星そのものを構成する成分を考えると、将来的に大気

が窒素寄りのものに変性する可能性は限りなく低かった。この場合、技術を駆

使して惑星改造を施すことは不可能ではないが、相当の手間と時間がかかり、

リスクが高いということを示していた。

「なぁ、せっかくだが、この惑星はダメだな。」

「ああ、そうらしい。確かに、これだけの環境にありながら、生命のかけらも

ないのは、そういう理由があるからなんだな。」

「本当だ。微生物の一匹もいやしない。」

「この惑星は生命に必要な窒素が少なすぎるんだな。」

「ということは、ここは死の惑星か?」

「その通り。死の惑星というよりも、生まれずの惑星かな。」

「生まれずの惑星か・・・では、我々はこの生まれずの惑星から退散するか。」

「そうだな。」

「船長、ちょっと待ってくれ。俺、腹が痛くなってきた。ちょっと、用を足し

てから乗船するから、みんな先に行っててください。」

 ギャビット二等航空士を残して、二人は船に戻った。ギャビットは、岩

陰で用を足した。用を足すと行っても宇宙服を脱ぐわけではない。宇宙

服は巧みに出来ていて、着たままでようが足せ、排泄物はそのまま外

に排出できるような仕組みになっていた。もちろん船内でも排出出来る

ようになっているのだが、できれば広いところで皆に見られずに済ませ

たい。だからぎゃビットはそのようにしたのだ。

 ギャビットは用を足すとさっさと船に乗り込み、推進器のスイッチをオ

ンにして惑星を後にした。彼らは調査内容を本部に伝え、彼らはもう二

度とこの惑星にやってくることはないだろう。

 ギャビットが排泄した物質は、惑星の地表、岩陰に残された。その中

には窒素を中心とした有機物質がたくさん含まれ、その窒素は他の物

質と化合したくてうずうずしていた。やがて雨が降り、ギャビットの排泄

物は流され、水の中に含まれていた二酸化炭素や酸素、その他の物

質の中でミックスされ、やがてアミノ酸と呼ばれるタンパク質形質の半

生物が生まれた。いわゆるウィルスの一種のような、生物と非生物の

中間のような物質だ。この新たな物質が、やがて生命体へと進化し、

この惑星を支配する人類にまでなっていくまでには、まだまだ何千万

年もの歳月が必要とされた。

                             了


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第四百四十七話 神様お願い。 [脳内譚]

 「神様、お願い。助けてください。」

あなたはこんなことを天に向かってお願いしたことはないだろうか?私はこれ

までのまだ短い人生の中で、何度も天に向かって手を合わせた。学校のテス

トに失敗してひどい点数が付けられたテスト用紙を家に持って帰らねばならな

かった時。パパの雷が落ちないようにと願った。幼なじみでもある親友とひど

い喧嘩をしてしまった時。一週間も過ぎてからだけど、仲直り出来ますように

と祈った。その後も、受験の日、初デートの日、元旦のお年玉の時、大学で

知り合った彼と別れそうになった時。サークルでコンテストに出たとき・・・。

私は既にいっぱいいっぱい神様にお願いしてきた。もし、一生のうちで神様

お願い出来る件数が限られているとすれば、私はもう全部使い果たしてし

まったかも知れない。神様が聞いてくれてたとしたらのことだけど。

 だけど、今まで神様に何度もお願いして、その願いがすぐに叶った事なん

一度だってない。あの時パパにはこっぴどくお説教されたし、幼なじみとは、あ

れ以来没交渉になってしまったし、デートは惨めだったし、失恋したし、受験に

は失敗したし、コンテストは最悪だったし・・・。結局、いくら神様にお願いしたと

ころで、あの人はちっとも聞いてくれやしない。いつだって自分の力でなんとか

して切り抜けなければならないのだ。

 もし、この世に神様が入るとしたら、どうして世の中にはあんなに悲惨な事件

とか事故が繰り返し起きるのだろう?どうして国同士の、民族同士の争いが絶

えないのだろう。どうして人々は大災害で死ななければならないのだろう。きっ

と事故や事件に巻き込まれた人はみんな、「神様助けて!」そう天に向かって

願ったはずだ。だけど、聞き入れてもらえなかった。この世に神はいらっしゃる

のだろうか?そう思いながら死んでいったに違いない。

 神様は、こうしたことをいったいどう考えているのだろうか。もし、私が神様な

らば、持てる能力をすべて使って、争いを止め、事故や事件を防ぐだろう。災

だって、神の力ならなんとか食い止めることが出来るはずだ。なのにそうは

してくれないというのは、神様の怠慢なのではないだろうか?罰が当たりそう

な意見だけど世界の平穏無事を願っての意見なんだから仕方がない。私、

間違っているのかしら?

 こんなことを考えながら、マンションのベランダで午後の春の風を楽しんで

いたら、空からぼんやりと光るものがやってきた。神様?いや、そうではなさ

そうだが、でも神様みたいなおじいちゃんだ。

 「あのぉ・・・神様・・・じゃないですよね?」

「ほぉ、わしが見えるか?左用、わしは神ではない。じゃが、神の伝言を持っ

て参った。そなたは、神が願いを叶えてくれんと嘆いておるそうじゃな。違う

か?」

「・・・え、ええ・・・私に罰を当てるのですか?」

「むおっほっほ・・・そうではない。そなた、今までにどのくらい神に願いを送

った?数知れずじゃろうな。だがな、いったいこの地上にはどのくらいの人

間が暮らしていると思うとる?・・・考えたこともないじゃろうな。昨年度調べ

ではな、70億を超える人間が暮らしておるのじゃ。して、神は何人じゃ?

そうじゃ、神は一人っきりしかおらん。一人の人間が願い事を伝えるのに

30秒かかったとしよう。では70億の人間が願い事をいうのにどのくらい

の時間がかかるかな?35億分じゃな。35億分とは何時間かな?そう、

5833万3333時間じゃ。これを24時間で割るとじゃな、ウォッホン、な

んと2430555日、ということはじゃな6659年もかかるわけじゃな。」

「・・・・・・つまり?」

「つまりじゃな、そなたんお願いを聞き入れるのは、6559年に一回

しかチャンスがないということじゃ。」

「六千五百・・・?そ、そんなぁ。」

「そうじゃろ。神様一人で70億の人間の望みを叶えられんのはな、そういう

わけなんじゃ。じゃから、やっと順番が回ってきた時には、その人間は墓の

中に入ってもう数百年も経っていたというような・・・。」

「ふぁわぁ・・・なるほど、そういうわけだったのね・・・でも神様だったら一度

に何人もの声を聞き入れることが・・・。」

「無理じゃ。いくら神といえども、耳はひと組しかないのじゃ。神通力をもっ

てしても、せいぜい数人の話を聞くのが関の山・・・。」

「それじゃぁ、私の小さな願いなんて聞いてもらえるはずはないわね。でも、

じゃぁいったい誰の願いを聞いてるのかしら?」

「そんなもの世界を見たら幸運な人間の話はたくさん聞いたことがあるじゃ

ろ?その幸運な人間が、ようやく神が手を回せた人々なのじゃよ。」

「そっかぁ・・・。じゃぁあ、私の願いなんて・・・。」

「それがじゃな、そなたの順番がまもなく回ってくるのじゃ。わしはな、それを

伝えに来たのじゃ。6559年に一度聞き入れてもらえる、そなたの願いは、

さてなんじゃな?」

「え。何?今?言わなきゃならないの?」

「今すぐというわけではないが、まもなくじゃから、今のうちに考えておい

たほうがええのではないかな?さぁ、そなたの願いは、なんじゃ?」

「あの、その、きゅ、急に言われても・・・そんな・・・。」

「特にないということなら、パスにするが、ええかの?」

「ぱ、ぱす?!そ、そんな!でも、今すぐ困ったことがあるわけでもないし・・・。

私、どうしたら、どうしたらいいの?」

「では、パスかの?」

「いや、待って!じゃぁ、世界平和を!」

 一瞬、世界は平和になった。そして、それから世界の人々は、自らの手で世

界を平和にするべく努力を続けた。あるものは静かな手段で。あるものは武力

を行使してまで。

                                     了


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第四百四十六話 天使のためいき。 [可笑譚]

 「もしもし。ああ、そうですか。では、こちらへ来て書類を書い

てもらえますか?」

ここに来てそろそろ一年が過ぎようとしている。こちらにくれば、

悪人を懲らしめたり、いい行いをした人には褒美を使わしたり、

そういうのが格好いいなと思っていた。テレビドラマでやってた

「大仏にほえろ」とか「西武天国」とか「あぶない天使」とか見

て、ああ、自分もこんな仕事がしたいって思ったもんだ。やっぱ

りあれは作り話だったんだなぁ。しかし、先輩たちに言わせれば、

昔はもう少し鬼退治とか、悪魔対決とかあったというけれど。

 「あ、いっらしゃい。ああ、さっきのね。ではそこに腰掛けて。

ほら、ここにお名前とご住所、連絡先を書いてもらえますか。」

「ああ、書けましたか。えーっと、落とした品物は何?ああ、そ

う、定期入れね。最後に見たのは?ああそう、昨日の夜十時くら

いね。だいたいどの辺りかわかりますか?ああ、その落とした場

所。あ、そう、ここに上がってくる階段のどこかね。なるほど。

ちょっとお待ちくださいね。今、パソコンに打ち込みますから。」

 毎日毎日、落とし物探しとか、道案内とか、そんなのばかり。

たまぁに泥棒に入られたとか、不法駐車とか、そういうのもある

けれども、まぁ世の中平和っていう事なんだろうな。

 「もしもし。定期の落とし物。ええ、下からの階段のどこかっ

てことです。・・・今、本庁で検索してますからね・・・え?あ。

ああそうですか。まだ来てない。・・・届けられたら全部本庁に

集まって来るんですけどね、まだ来てないそうですよ。じゃ、こ

れで、もし落とし物が出てきたら連絡差し上げますから。はい。」

 まぁ、こういうのももちろん人助けなんだろうけれども、思っ

てたのとは随分違うし。ああ、今度はどうやら道に迷ったみたい

だな・・・。

「はい?ああモハメッドセンターですか・・・。えーっとあれは

確か・・・ああ、私らはむしろキリスト教の方なんでね、あまり

他教の建物とかには詳しくないもんで。ああ、あった。今、地図

見ましたからね。ほら、この前をずーっとまっすぐ行って・・・。」

 ここ、天国番なんかに勤務してるからなのかな。本庁に行けば

もっと派手な…そうそう、ここに貼ってあるポスターに乗ってるよ

うな指名手配の悪魔とかを捕まえたりもするんだろうな。こいつ、

いかにも悪そうな顔してるな…なになに?赤軍派青鬼…ややこしい

奴だな。こっちは… インコ真理教特別手配?こういう宗教まがい

の隠れ蓑で悪い事する奴が一番困るな。我々まで一緒にされてし

まったりするからな。ああ。こいつはまた、極悪人の癖にニコニ

コ笑った顔がポスターにのってる。詐欺師かな?こんな写真しか

なかったんかいな。もっと悪そうな迫力のある写真にしたらいい

のに。そう言えば、私がここに来る前にいた所、下の地獄には、

悪そうな、怖そうな顔した奴だらけだったなぁ。ああいう所にい

たら、あんな顔になっていくんだろうな?私だってもう少しいた

ら怖い怖い顔になってた所だろうな。けど、みんなそんな顔だか

ら、別にどうって事なかったけどな。ここみたいなみんな優しい

お顔した人ばかりの所だから、こういう怖い顔が目立つってこと

なんだな、これが。

 しかし、まぁ、退屈。これだったら、地獄にいた方が面白かっ

たかも知れんな。つい、正義感に燃えて天使を希望してしまった。

結局、悪魔も天使も似たようなもんで、あっちはサターンや閻魔

さんの言う事聞く者が悪魔って呼ばれてて、こっちは神様の命令

で動く者が我々天使と呼ばれてるだけで。まぁ、同じような気が

している今日この頃。これではしんどい目して、苦労してこっち

へ来て天使になった甲斐がないような…。私なんか、地獄に好き

な娘がいたのを振り切って来たというのに。あの娘、可愛かった

なぁ。ちょっと小悪魔的で…。あれ?誰か来たぞ?

 「あっ!ガブリエル先輩!どうしたんですか?」

「あのなミカエル。実はな、神様からの指令を持って来たんや。」

「えっ!神様から?私に?」

「ああ、お前だけとちゃうねんけどな。今、この辺りはホンマに平

和やろ。ちゅうことはやな、わしらみんな暇や言う事や。神様はな、

それを知ってはんねんな。そりゃぁもったいない、人手・・・いや

天使手は半分くらいで十分やろ言うてな、残りの半分は別の任務を

与える言う事になったんや。」

「ほな、その別の任務の方に、わても入れてもらえるっちゅうわけ

でっか…?おっと、私までガブリエルはんの大阪弁がうつってしも

うた。」

「そうや。そうなんやがな。」

「で、その新しい任務って…?」

「それがやな…今、地上はたいへん乱れとる。あっちでは国同士が

争ってる。こっちでは国を挙げてミサイルをぶっ放したりしとる。

その上、平和で問題ないかいなと思うとったそっちの国でさえ、政

府高官が利権やなんや言うて私腹を肥やしたりしとるんやな。」

「ええ、ええ。本当に、そうですね!それで?」

「そんでやな、昔やったみたいにな、いっぺん人間全部を懲らしめ

なあかんのちゃうかっちゅうわけや。」

「と言いますと?」

「つまりやな、地上を大洪水にするとかやな、虫の大群に襲わせる

とかやな、下の悪魔を呼び寄せて怖い目に遭わせるとかやな…。」

「ええー!?そんな事するんですか?」

「そうや、そんな事しにいくんや。」

「だって我々天使は、人間の味方じゃあないんですか?友達みたい

な人間を懲らしめるんですか?」

「そうや。我々天使が守るのは正しい人間や。人間っちゅうてもな、

心の中が清いうちは我々天使と同じ立場やがな、戦争したり私利私

欲に燃えたりしてるんはもう人間やない。心は悪魔なんや。そんな

悪魔化した人間はな、懲らしめんと、もうどうしようもないんや。」

「…そ、そうなんですか…。私はてっきり…」

「てっきりなんや?人間はみな正しい行いをしとる思うとったんか。」

「はい・・・。」

「甘いな。だがな、そうやって懲らしめた結果、心の清い人間は生き

残る事になっとるんや。」

「ほ、本当ですか?」

「…たぶん…。」

「…なんか頼りないですね…。」

「ほな、行くで!」

「あ、はい!参りましょう。」

 あーあ、たいへんな事になって来たな。こんな事だったら、ます

ます 悪魔の時と変わらないではないか。こんなことだったら、悪魔

を辞めずに、あのカワイ子ちゃんアイエルと仲良くしとくんだった

なぁ…ふぅ〜大変だ、これから…。

                  了

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第四百四十五話 悪魔の定義。 [妖精譚]

 神の壷。それは最初から存在していた訳ではない。遥か古代に神

々の手によって地中深く埋められた 物質を近代になってから人間が

発見して壷の中に閉じ込めたのだ。人類はそれを神から与えられた

魔法の力と称して崇め、自分たちの力に変換しようと試みたのだ。

 「何故、こんな事が起きてしまったのだ?」

総裁が言った。人類の多くが崇拝する神の壷を国家のために運用する

事業は、国が威信をかけて推進してきた。総裁はその最終責任者であ

り、また現在の総裁はまさにこの神の壷の力を利用して今の地位を手

に入れたと言っても過言ではない。だが、その神の壷に異変が生じた

のだ。

 事の起こりは黒い雨だった。K国が国際協定を侵して発射した実験

ミサイルが大気圏近くで自爆し、粉々になった機体が大気圏全体に拡

散した。機体だけならそれほど問題になることもなく、宇宙の塵とな

って終わるはずだったのだが、自爆したミサイルの推進装置には神の

壷の力が利用されていたのだ。惑星を取り巻くように粉々になってし

前歯まだしも、神の物質は磁力の加減か、あるいは太陽から受ける引

力のためなのか、もしかしたら神の意思だったのか、一カ所に集合し、

やがて地上に舞い降りてきて上空に層を成していた窒素を変成させた。

天上で化学合成された酸化物が雨雲を形成し、地上に濃厚な酸性雨を

降り注がせた。

 運悪く黒い酸性雨が降り注いだのが我が国の、丁度、神の壷を奉っ

ていた祠のある地域だったのだ。酸性雨は祠の表面を溶かし、大地に

浸透した後には建屋の土台を浸食し、屋内に鎮座している神の壷の重

大な部位へと流れ込んだのだ。鉛で出来た神の壷はその一部が暴かれ、

神の物質が外に流れ出た。神の物質は、空気に触れるととんでもない

エネルギーを発散し、もはや誰にも止める事は出来ない。

 こうして、人類の力となるはずの神の物質は、大地を、大気を、汚

染し、生命そのものに危害を及ぼす悪魔の物質と変貌した。悪魔の力

と化した物質は町を冒し、さらに外へと広がり、国の半分に劣悪な環

境をもたらしてしまった。もはや手の施しようもないほどに。それで

も人類はまだ神の壷を崇拝し続けることが出来るのだろうか。あるい

は、より堅牢な壷を仕立て上げて神の壷を祀り続けるのだろうか。

 神を崇める事は、脆弱な人間に許された崇高な行為だ。それを人は

信仰と呼ぶ。だが、ひとたび信仰の矛先がぶれてしまうと、それだけ

で神は悪魔と化する。神と悪魔は表裏一体なのだ。

 実体のない神を崇拝するということは、同時に実態のない悪魔を崇拝

することでもありうる。世の中にあるすべての物事は、人間が判断し

価値を作り上げているものだとすれば、その存在を神として崇めるの

も悪魔として退治するのも、それは人間自身が決める事だ。そういう

意味において、神は人の中にあり、悪魔もまた人の中に存在するのだ。

悪魔を自らの中に住まわせるのも、神を悪魔に変えてしまうのも、全

て人間である私自身が決める事なのだ。

                     了

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第四百四十四話 呪われたブログ。 [怪奇譚]

 真偽の程はわからないが呪いのビデオというものが、この世に存

在すると、実しやかに噂されたことがあった。この都市伝説のような

噂は日本中に広がり、ついには映画にまでなった。だが、本当にこ

のようなビデオを見た人がいるのだろうか?

 呪いのビデオとは、何が映っているかは謎だ。何故なら、このビデ

オを見た人は死んでしまうからだ。映画の中ではビデオを見た一週

間後に死ぬことになっているが、これも映画の中での設定なわけで、

本当かどうかはわからない。呪いのビデオを見ると死んでしまうわけ

だから、どんなビデオだったかを誰にも伝えることができない。死ん

でしまっているわけだから。また、呪いのビデオの内容は謎であるか

ら、どのビデオが呪われていたのかは、わからない。もし、ビデオの

タイトルや映像に”これは呪いのビデオです。見たらしにます”とか書

いてあれば別だけど。

 つまり、毒の入った食べ物を知らずに食べてしまったのと同じで、呪

いのビデオと知らずに見てしまい、その後予告なく死んでしまうわけだ

から、死んだ本人は何故死ななければならないのか知らないわけだ。

だから、「これは呪いのビデオだから見てはいけない!」と誰かに警告

ることも出来ないし、「この世には呪いのビデオというものがある。僕

はそれを見たから真実だと知っている」などと世の中に広めることも出

来ないのだ。

 ということは、この呪いのビデオという都市伝説は、単なる伝説であり、

誰かが勝手に信じて噂を広めたに過ぎないことがわかる。だが、既に死

んでしまっている誰かが、病気や交通事故や老衰ではなく、本当は呪い

のビデオを見たから死んでしまったのだとしたら。これもまた、そんなこと

はありえないと、言い切ることは出来ないのだ。

 さて、みなさん、何故私が唐突にこんな話をし始めたと思いますか?

今日のこのブログ記事のタイトルをご覧ください。「呪いのビデオ」ではな

く、「呪いのブログ」となっていますね。しかも今回は第四百四十四回目。

そうなんです。このブログこそが呪いのブログかも知れないんです。どう

か、ここまで読んでしまったあなた。慌てて外に飛び出して、車にはねら

れないようにしてくださいね。急に胸が苦しくなってきたあなた、早く病院

に駆け込んだ方がいいですよ。いやいや、これが本当に呪いのブログだ

ったとしたらのことですけどね。

                          了


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第四百四十三話 久たん。 [怪奇譚]

 残業を終えて家に帰ると、ドアの前にゴミがぶちまけられていた。

どうやら今朝、出掛けにゴミステーションに出した筈のゴミが袋の

中からぶちまけられているようだ。

 私は、またかと思いながら玄関の鍵を開けて部屋に入った。ドア

を開けたとたん、ぷーんと嫌な臭いが籠っていて、急いでバルコニ

ー側の大窓を開けて換気をする。臭いは、冷蔵庫の中からで、ちゃ

んと閉めた筈のドアが開いていて、冷蔵機能が低下したために、冷

蔵していた漬物が腐ってしまったようだ。

 こんなことは日常茶飯事なので、僕は慌ても騒ぎもしない。ただ

淡々と後始末をするだけだ。もうひとつくらい何かあるだろうな、と

思っていたが、今日のところは他には何も起きていないように思え

た。それにしも今日はどこに隠れているんだろう。もう食事はしたの

かな?あいつとは最近ほとんど顔を合わしていないが、日々見せ

てくれる行為が、元気にしていることを教えてくれていた。

 あいつ・・・久たんは、僕の恋人だった。いや、過去形で語るのは

間違っているかな。現在も進行形だから。三年間は普通の恋人と

して同棲し、その後今に至るまで、違う形で一緒に住んでいる。

 久たんは愛らしさを秘めた娘だった。外見は大人っぽい美しさを

顕にした小柄な女なのに、その実中味は至って子供だった。思い

込みが激しく、おそらくその思い込みによって僕のことを愛したの

ではなかろうか。そして喜怒哀楽が激しく、幸せよと言った次の瞬

間には怒り狂って物を投げつけてくる、そんな困った女の子だった。

 だが、僕はそんな彼女が好きだった。怒るのも泣くのも喚くのも、

全部彼女の個性だと思って受け止めていた。そりゃぁもちろん、僕

だって人間だから、時には彼女の行動に逆ギレして怒り狂った事

もあるし、何日も悩んで泣いて過ごしたことはある。だけど、今考え

てみれば、もともと温厚で感情の起伏が少ない僕がそんな状況に

なれたのは、彼女のお陰だと言えるし、それってとても人間らしい

感情の動きだったと思う。お互いの喧嘩は、いわば二人のセッショ

ンだったのだ。

 彼女のそういうところさえ受け止めれば、ほかは至って平穏無事。

僕らは本当に幸せな毎日を三年間送った。ところが未だに原因は

わからないのだけれども、彼女の態度が急変したのだ。最初はい

つもの喜怒哀楽のギャップだと思った。だが、そんな一時的な物

ではなかったのだ。僕が二人で買っていた猫を可愛がり過ぎた

事に嫉妬した?いいや、そんな筈はない。彼女だってその猫を

愛していたから。僕が仕事で遅い日が続いたから?それはそう

かもしれない。何しろ寂しがり屋の彼女だ。それが彼女を狂わし

たと言えなくもない。僕に他の女の影が見えた?もしそうなら、

それはとんでもない勘違いだ。僕にはそんな女性は一人もいな

い。だって久たんを愛しているから。

 ある日から久たんは僕の前から姿を消した。だが、どこかに行

ってしまったのではないことはわかっていた。なぜなら、毎日僕

の周りで様々な悪戯がなされていたから。そしてその痕跡から、

久たんの仕業であることが明らかだったから。

 僕がテーブルの上にほおり出していた郵便物や小物が隠され

たり、脱ぎっぱなしにしてあった下着がどこかにいってしまったり。

いや、違うな。手紙や小物は隠されたのではなく、所定の場所に

しまわれたのだ。脱ぎ捨てた下着は、失せたのではなく、洗濯さ

れてベランダに干されていたのだ。

 姿を見せないままに何かをしでかす行為は、日々エスカレート

していった。猫の糞が壁に擦り付けられていたり、空き瓶が部屋

の中で割られていたり。今日のようにゴミが散乱していたり。でも

どれもこれも、彼女から僕への警告であり、彼女の存在を僕に示

そうとするものばかりだった。猫のトイレを掃除しなさい、不燃ゴミ

の日に瓶を出していない、今日はゴミの日ではないのにゴミ出し

した!等など。一見ひどい悪戯に見えるけれども、裏を返せば愛

情に満ちた行為であった筈だ。

 堕天使サターンは、かつては大天使ルシファーと呼ばれていた。

ルシファーは天上にいる天使たちのリーダーだったのだ。神様は

天使たちを愛されていたから、天使たちのトップであるルシファー

は、当然ながら自分が一番愛されていると信じていた。神様が人

間を創造するまでは。ところがある日、神様が自ら創造した人間

をわが子として愛していることを知ったルシファーは、神様に裏切

られたと思い込んだ。そして人間が神様から嫌われるようにと、様

々な事を人間に吹き込み、あるいは人間に取り付いては神様のご

加護を受けれなくなるようにと仕向けた。堕天使サタンは、もともと

は神への愛を強く望む光の子だったのだ。

 久たん。彼女は本当は僕を愛している。だが、どこかで僕の愛を

見失ってしまったのだろう。堕天使サターンのように、僕を逆恨み

するようになったのだ。かわいそうな久たん。だから僕はもう何も

言わない。君が今でも僕の事を愛している事を知っているし、僕

もまた君の事を愛しているから。久たん。ヒサタン。サターン・・・。

                     了

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第四百四十二話 のっぺらポーラ~実験奇譚・なんか妖怪ー1 [日常譚]

 家から数分歩いたところに、古い小さな橋がある。その辺は昔か

ら寺町で、その情緒にあわせたものか、橋の欄干は赤く塗られた

木造で、神社の鳥居を思わせる。

 歴史ある土地には様々な伝説や言い伝えがあるものだが、この

古い橋にまつわる話も幾つか残されている。そのひとつが、顔なし

妖怪の話だ。この手の話は各地に残されていて、どういうわけか、

そのほとんどが同じ話だ。そう、つまり、のっぺらぼうの怖いお話だ。

深夜遅く、町人が家路を急いでいると、橋の袂でうずくまって泣いて

いる女性がいる。どうしたのかと訪ねてみても、なかなか顔を上げな

い。思い余って女性の肩に手をやると、ようやく振り向いた女性には

顔がない。町人は驚いて腰を抜かしそうになりながら恐怖に追いか

けられながら走って逃げた。逃げた先に灯りがぽっと灯っている。そ

の灯りに向かって走っていくと、小さな屋台。後ろ向きに作業をしてい

る屋台の親父に、今見たものの話をすると、オヤジが振り返って・・・。

だいたいこんな話だったと思う。

 まぁ、そんな話も今で言う都市伝説であり、誰かが面白おかしく話し

た恐怖話が、各地に伝播されていったのだろう。だが、私は橋の情緒

の一部として染み付いた、大切な地元文化として記憶していたいと思う。

 ある日曜日の午後、とりたたて用事もなく歩いていると、この赤い橋

の袂にたどり着いた。平日は賑やかなこの場所も、日曜日はひっそり

としている。ふとみると、橋の袂でうずくまっている人影があった。あれ?

あの伝説みたいな情景だなぁ。そう感じながら、近づいてみると、やはり

女性が腹に手をやってうずくまっているのだった。残念ながら着物姿で

はなく、現代女性らしいカジュアルな出で立ちだった。

「どうかなさいましたか?大丈夫ですか?」

私は思わず声をかけた。だが、返事はない。もう一度話しかけてから、

あのお話と同じように、女性の肩に手を掛けてみた。

「もぅし、どうかされましたか?お腹がいたいのですか?」

すると、女性はゆっくりと振り向いて言った。

「ええ、急にお腹が差し込んできたものですから・・・。」

そう言いながら振り向いた女性には、驚いたことに顔がなかった。

あの伝説と同じだ。しかし、今は昼間だし、怖くもなんともないぞ。

顔のない女性に恐怖を感じなかった自分自身にも驚きながら、私

は親切に言葉を返した。

「それは大変ですね。病院にお連れしましょうか?」

「いいえ、しばらく休んでいると治ると思いますので・・・。」

口もないのに、どうやって話しているのか不思議だったが、女性は

少しはにかみながら言っているのがわかった。

「では、私の家はすぐ近くですから、いらっしゃいませんか?手洗い

とか、横になるとかされた方がいいですよ。」

「・・・ありがとうございます。では、申し訳ありませんが、お言葉に甘

えさせていただいてもよろしいでしょうか?」

 私は女性の腕を取りながら我が家、と言っても狭いマンションの一

室に連れ帰った。しばらく休ませていると、女性は徐々に元気を取り

戻したのでお茶を淹れてくつろがした。彼女はあまり多くを語らない

少し古風な日本女性だった。名前を聞くと、ポーラだという。日本人

なのにポーラ。なんだか奇妙だが、彼女の親が、これからは国際社

会だからと、グローバルな名前を付けたそうだ。なぜ顔がないのか、

生まれつきなのか、顔のない姿でどうやって生活しているのか、いろ

いろ聞いてみたかったが、その時は深く詮索することを止めた。なん

となく不思議な出会いであり、彼女のことを好きになりかけていた私

は、きっと長い付き合いになるなと思ったからだ。

 あれから十年。あの時のポ―ラはどうしているのかというと・・・実は

我が家にいる。私たちはあれからしばらく交際を続け、一年後に結婚

したのだ。顔のない妖怪みたいな彼女とよく結婚出来るなって?それ

は何も知らない人だから思うことだ。顔がないというのも、なかなかい

いものなんだよ。何よりも、特定の顔がないから、いつでも自由に彼女

の顔を私の思い通りに想像できるし、彼女自身も毎朝メイク道具を巧

みに使って自由自在に自分の顔を描いている。目を描き、眉を引き、

ノーズシャドウを薄く淹れて、紅を差す。ある時は古風に、ある時は

艶やかに。私と出会う以前からそうやって生きてきたそうだ。あの時

は休みの日でもあり、たまたますっぴんだっただけだ。

 自由な顔を持った女。のっぺらポーラは、今は私の大切な妻だ。

                              了

続く→第485話 最低で最悪の親友。

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