第四百四十九話 光あれ。 [妖精譚]
初めに、神は天地を創造された。
地は混沌で、闇は深淵の面にあり、神の霊が水の面を動いていた。
神は天地を創造するにあたって、実はさまざまなシミュレーションを綿密に
行なっていた。宇宙はどのくらいの規模にするか、世界はどのくらいの広さに
するか、明るい世界にするかくらい世界にするか、そこに住む生命体はどん
な種類のものにするか、雌雄を分けるのか分けないのか、それについては
どこまで神自らの手をかけるか、あるいは成り行きに任せるのか・・・など。
物理学と化学、生物学と遺伝子工学など、すべての知識を総動員し、細部
に至るまで何度も計算をし直して、まずは設計図を作った。設計図をもとに
再度検討を重ねて、ミニチュアも制作したうえで、これなら大丈夫だろうとい
うところまでを吟味し、周囲の者にもコンセンサスを取った上で、実施に漕ぎ
つけたのだ。
最後に、実施開始を告げる言葉を考えた。細部まで綿密に検討を重ねた
こと、明部と暗部をこしらえたこと、地球規模の大きさで決定したことなどを
織り込んで陣頭指揮をすべく号令の祝詞を頭の中に刻み付けてことに臨ん
だ。
そしてその実施の当日。皆が見守る前に、神は威風堂々とした態度で登場
した。しかし、初めての大仕事であるが故に、心の内では自信と不安が交錯
し、成功の予感とときめきに気持ちが浮ついていた。そして陣頭指揮を取る
号令の口火を切るために考えた文句がすっかり頭の中から脱落してしまっ
たのだ。神が最初の一言を言った直後に、空白・・・。
神は言った。
「光・・・・・・・」
皆は次の言葉を待った。しかし神の頭の中はまだ真っ白。あれ?あれっ?何を
いう予定だったんだっけ?神は頭を捻った。出てこない。思わず、
「あれ?」
神は言われた。「光あれ。」こうして、光があった・・・。
了