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第四百三十三話 似てくる話。 [可笑譚]

 「なぁ、面白いことに気がついたんだけど。」

「なんなの、唐突に。」

田中と山本は同じ商社の同僚だ。外出していないときはたいていコンビニ弁当

を買ってきてデスクでしゃべりながら食べるのだ。

「同じ会社にいるとな、声とか話し方が似てくるなぁと。」

「ほぉ、やっと気がついたか。」

「やっとって・・・お前は知ってたのか?」

「知ってるとかそういうんじゃなくて、気がつくだろう。たとえば協力会社の

神谷商事な、あそこは小さな商事会社だから、ウチに来るのは担当営業

の島田一人だ。だから、神谷商事の他の人間は会ったことがないんだけ

ど、電話をするとな、おんなじ声で同じしゃべり方の別の奴が出るのな。

最初は島田かと思って話してたら、ちょっとお待ちくださいって・・・。」

「そうそう、あそこはみんな似てるよな。」

「だがな山本、ウチみたいな大きな会社だとな、そうでもないぞ。」

「そうか。ウチくらい大きな会社のみんなが似てたら気持ち悪いわな。」

「気落ち悪い。でもな、もしかしたらウチみたいなとこはな、部署毎に似てる

かも知れんぞ。」

「そうかなぁ・・・ウチは似てないぞ、そう思わんか?ウっシャシャシャシャ。」

「そうだよな、ウチは違うな、似てないな、ウシャシャシャシャ。」

 そんな話で盛り上がっていると、デスクの電話が鳴った。

「もしもし?あ、ああ、神谷商事の島田さん。」

受話器から聞こえてくるのは、少し鼻に掛った島田の声だ。しかも粘着質な感

じの引きずるような話し方。「もぅすぃもうすぃ~神谷商ズゥイの島田でごずぁい

まぁす。」こんな感じだ。田中はニマっとして山本に目で合図する。

「え?なんだって?新商品を入荷した?出物だからどうかって?うーん、それ

はどうかなぁ・・・え?何?上司と代わる?」

田中は、隣にいる山本にも分かるようにわざわざ相手の言ってることを繰り返

して見せながら山本にウインクしてみせた。

「くゎまたでごずぁいまぁす・・・。」

「ああ、鎌田部長?お久しぶりです。ええ。今島田君から伺いましたが・・・それ

って価格の方は・・・?はぁ・・・それ、少し相場で言うと高いのでは・・・?え?他

の品物とはずぇんずぇん違うって?いや、でもね、部長・・・初めての品物は売れ

るかどうかもわからないんだし・・・少し勉強したらどうです?え?何?社長と代

わるって・・・?あ、いいよぉ、そん・・・。」

田中は受話器を手で押さえながら山本に向かって言った。

「くくく!本当にそっくりなんだよ!島田と鎌田部長。で、今度は社長と代わ

るってよ!これまた社長もそっくりなんだよな。」

「くくく!面白いねえ。」

再び田中は真面目な顔になって受話器を持ちなおした。

「もぅしもぅし、神谷でごずわいまぁす・・・。」 

「あ、もしもし。神谷社長!え?困ってる?何とかお願いだって・・・?うーん。

じゃぁ、とりあえず島田君にサンプルを持たせてもらえますか?じゃぁ、もう一

度担当の島田君お願いします。」

 受話器の向こうは神谷商事。他には誰もいない小さな事務所で神谷一人が

熱演していた。

「ああ、島田君でごずわいますね。ぅ分かりました。」

神谷は受話器を右手から左手に持ち直して、少し声色を変える。

「あ、島田でごずわいまぁす!毎度!ありぐゎとうごずぁいます!やっぱ、う

ちの神谷は押しが強いんす。俺が言ってもドゥワメなことでも、神谷がぁお願

いすれば、田中さんもに変わりますもんねぇ・・・!うぃっひっひ!」

神谷は電話口で適当な応答をしながら思う。あぁ、こうでもしなければ・・・ウ

みたいな零細企業は、せめて何人かいるようにしないと相手に舐められち

うもんなぁ。苦労するわなぁ・・・うぃっひっひっひ。

「あ、では、午後からサンプル持ってお邪魔させていただきますでごずわいま

ぁすよ。うぃっひっひっひ。」

                                  了


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