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第四百四十八話 人類の起源。 [空想譚]

 惑星に着陸した宇宙船から最初に大地へと降り立ったのは、この船の船長で

あるヒップルだった。その後ろからさらに二人の飛行士が降りてきた。全身真っ

赤な宇宙服は実際の体型を二倍くらいに大きく見せてしまうような、いかにもた

いそうな装備であった。頭部を包むヘルメットは深海へ潜る時の潜水服と同じ

で、前部は外部が見渡せるように窓になっていた。だが、その表は鏡面にコー

ティングされているので、中にいる人物の顔は見えない。

「Piii・・・ヒップル船長・・・この惑星の大気はやはり測定通り酸素と二酸化炭素、

僅かですが窒素などで構成されていますね。」

「そうだな。khoohoo・・・クレイン曹長、ギャビット二等航空士、ヘルメットを脱い

でみようなんて冒険心を起こすのではないぞ。我々は窒素濃度が高くなければ

呼吸できないのだからな・・・khooohooo」

 クレイン曹長と呼ばれた男は、ギャビット二等航空士とともに船から機材を積

下ろし、大地にさまざまなシステムを組み立始めた。

 彼らの惑星は遠く離れたアンドローメーダの星々のひとつからやってきた。彼

らの太陽が巨大矮性となりつつある今、まもなく終焉を迎える銀河を逃れ、新

天地を求める必要があったのだ。この惑星は水に包まれ、自分たちが移住出

来るのではないかと考えられた。だが、問題は大気にあった。彼らが住むため

には窒素を中心とした空気が必要だ。ところがこの惑星は酸素が中心なのだ。

将来的に惑星の大気が窒素系のものに変性していくか、科学の力で惑星大気

を改造してしまえるか、その可能性の可否が求められた。そこで、この三人が

調査隊として派遣されたのだった。

 三人は、大気と海の組成詳細を調べ、土壌を採取し、地面に穴を掘って地層

を調べた。その結果、惑星そのものを構成する成分を考えると、将来的に大気

が窒素寄りのものに変性する可能性は限りなく低かった。この場合、技術を駆

使して惑星改造を施すことは不可能ではないが、相当の手間と時間がかかり、

リスクが高いということを示していた。

「なぁ、せっかくだが、この惑星はダメだな。」

「ああ、そうらしい。確かに、これだけの環境にありながら、生命のかけらも

ないのは、そういう理由があるからなんだな。」

「本当だ。微生物の一匹もいやしない。」

「この惑星は生命に必要な窒素が少なすぎるんだな。」

「ということは、ここは死の惑星か?」

「その通り。死の惑星というよりも、生まれずの惑星かな。」

「生まれずの惑星か・・・では、我々はこの生まれずの惑星から退散するか。」

「そうだな。」

「船長、ちょっと待ってくれ。俺、腹が痛くなってきた。ちょっと、用を足し

てから乗船するから、みんな先に行っててください。」

 ギャビット二等航空士を残して、二人は船に戻った。ギャビットは、岩

陰で用を足した。用を足すと行っても宇宙服を脱ぐわけではない。宇宙

服は巧みに出来ていて、着たままでようが足せ、排泄物はそのまま外

に排出できるような仕組みになっていた。もちろん船内でも排出出来る

ようになっているのだが、できれば広いところで皆に見られずに済ませ

たい。だからぎゃビットはそのようにしたのだ。

 ギャビットは用を足すとさっさと船に乗り込み、推進器のスイッチをオ

ンにして惑星を後にした。彼らは調査内容を本部に伝え、彼らはもう二

度とこの惑星にやってくることはないだろう。

 ギャビットが排泄した物質は、惑星の地表、岩陰に残された。その中

には窒素を中心とした有機物質がたくさん含まれ、その窒素は他の物

質と化合したくてうずうずしていた。やがて雨が降り、ギャビットの排泄

物は流され、水の中に含まれていた二酸化炭素や酸素、その他の物

質の中でミックスされ、やがてアミノ酸と呼ばれるタンパク質形質の半

生物が生まれた。いわゆるウィルスの一種のような、生物と非生物の

中間のような物質だ。この新たな物質が、やがて生命体へと進化し、

この惑星を支配する人類にまでなっていくまでには、まだまだ何千万

年もの歳月が必要とされた。

                             了


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