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第四百五十一話 虫。 [空想譚]

 「なぁ、本当にUFOっているのかなぁ。」

「おいおい、翔太お前何言ってんだ。そんならなんでこのサークルに入ったん

だよぉ。」

なんでって北村、お前が無理やり入部させたんじゃないかよぉ。翔太は心の

中で呟いた。山中翔太と北村久次郎は小学校からの友人だ。北村はいつの

ころからか不思議な事象に興味を持つようになり、とりわけ未確認飛行物体

UFOにはこの上なく傾倒していた。大学に入って勝手にUFO研究会というサ

ークルを立ち上げ軌道に乗ってきた頃、翔太を勧誘したのだった。

 二人が通う大学は比較的新設校であり、北村が二年前に立ち上げたこの

変わったサークルにも寛容だった。だから北村のサークルにも小さいながら

部室が貸与された。部室の中は奇妙な形の物体やUFOのミニチュアで溢れ

かえっている。棚の上にはアニメや映画に登場したさまざまな宇宙人やキャ

ラクターのフィギュア、映画に出てくる宇宙船の模型が並び、天井からは北

村たちが手作りした葉巻型やアダムスキー型のUFOがテグスで吊り下げら

れている。いかにもオタクたちの部室といった面持ちだ。だが、北村は真剣

なのだ。入学してすぐに立ち上げたこのサークルに興味を持った学生は思

いのほか多く、二年過ぎた今では18名の部員が所属している。だが、毎日

部室に顔を出すのは、北村と山中くらいだろう。

 この部室にやってきて、二人が何をするかといえば、もっぱら菓子でお腹

を満たしながらのUFO談義だ。

「でもさぁ、北村は本当に宇宙人とか入ると思ってんの?」

「何をいまさら。あのな翔太、スタンフォード大学で計算したら、10の1016

乗もの宇宙が存在するっていうんだぞ。わかる?」

「10の1016乗・・・そんな数字、想像もつかない。」

「そうだろう?俺にもイメージが出来ないんだ。」

「で?だから何だ?」

「宇宙ってのはな、例えばこの地球があるのは太陽系だろ?太陽系はまた、銀

河系宇宙の中にある。この大きな銀河系宇宙みたいなのが、10の1016乗ある

ってことなんだぞ。それでな、銀河系の中だけでも1000億とか2000億の星が

存在するっつうわけ。その中のひとつが地球。な、な?わかる?」

「だから、それほどいっぱい星があるんだから地球みたいな星だってきっとたくさ

んあるって言いたいんだな?」

「そういうこと。」

「だけどね、それだったら宇宙人の一人や二人が、やってきててもいいんじゃない

の?」

「あのな、地球人ほど優れた生命体でさえ、まだ月にしか行けてないんだよ。宇宙

に地球くらいに進化した惑星があったとしてもな、まだその惑星の周辺にしか進出

出来てないんだ。ところが宇宙の大きさってどんくらいかわかる?とてつもなく遠い

んだ。光であえ何万年もかかるっつうくらい遠い。だから、なかなか出会えない。」

「ふーん。理屈だなぁ。」

「だから、俺たちが研究してるUFOっていうのが、本当に外宇宙から来たものなの

か、はたまたどこかの国の秘密兵器なのか、もしかしたら未来の地球人が乗って

きたタイムマシンじゃないかとか、議論が分かれてるんじゃないか。」

「議論が分かれるって言ってもさ、僕はまだUFOを見たことがないから、UFOno

存在自体が信じられないんだな。」

 「お前が見たことなくってもな、世の中にはUFOを見た人どころか、UFOに乗っ

た人までいるんだぞ。写真や映像だって山程ある。」

「本当かなぁ・・・。」

いつもこんな結論のない話で終始して、結局最後は女の子の話になって終わる。

 二人が帰った後、部室の小さな窓がカチャんと割られて、何か小さな円盤状の

物体が部室に投げ込まれてきた。その物質は宇宙船のおもちゃが並べられた棚

の上に器用に着地して静かになった。

「ナントカコノ惑星二着地出来タガ、本当ニコノ場所デイイノカ?」

「大丈夫ダ。モニターヲ見ロ。他ノ宇宙船ハモウ既二ヤッテキテルジャナイカ。

我々ハココデ地球人ト接触スルノダ。」

小さな宇宙船の中では小さな宇宙人が作戦を練り始めた。最初にどのように

地球人とコンタクトを取るのか、そして宇宙の平和を保つために彼らと協定を

結び、平和を維持するための技術を教えなければ。

 あくる日の午後、北村と翔太は午前中の授業が終るや否や、飽きもせずに

また部室へとやってきた。今日は珍しく翔太と同じタイミングで入部した1年生

の桑原もくっついてきた。部室に持ち込んだコンビニ弁当を開きながら、北村

はまたオタッキーな宇宙論を打ち初めようとしたその時、桑原が素っ頓狂な声

を上げた。

「先輩~!またこんなUFOを作ったんですか?スッゲー格好良いっす。」

「なに?UFO~?そんなのずっと前に作ったやつだよ。」

「ええ~?そんなことないっすよぉ。先週はこんなのなかったっすよぉ?」

「バッカ。お前、ちゃんと見たことあるのか?俺のUFOを。」

「ホラーこれ見て。」

翔太が棚を見ている翔太の脇にやってきて言った。

「お、本当だ。これって、何で作ったの、北村?」

「なんだって?どれよ。」

北村が棚の所にやってきて調べてみると、映画SWのファルコン号の隣に、見

慣れぬガンメタ色の薄汚れた塗装を再現した宇宙船が鎮座していた。

「あっれー?これは俺のじゃないぞ。誰だ?こんなの持ち込んだのは?しかし

よく出来てるなぁ。本物っぽい。」

「これって金属だろ?プラスチックじゃないよな。」

「そうだな。しかし、こんなの作るやついたっけ、この部に。」

 はじめて見る宇宙船模型を囲んで三人がああでもないこうでもないと話をし

ていると、宇宙船がカタンと小さく揺れた。

「お、おい、見ろよ。なんか動いたぞ。」

見ると、宇宙船の下部に小さな穴が開いて中で何かが動いている。

「な、何かいるぞ!」

三人が息を飲んで見つめていると、黒い何物かが小さな穴から這い出してきた。

それは、背中に赤黒い羽を閉じたゴキブリだった。

「うわっ!ゴ、ゴキブリ!」

「おい、なんか、ほら、そこの週刊誌とれ!」

三人が驚いていると一匹目の小さな虫の後ろから続々と虫が這い出してくる。

「うわぁ、きっしょー!早く!殺せ!潰せ!」

三人は手に雑誌や靴を握りしめて、宇宙船から這い出してきた五~六匹のゴキ

ブリを次々と叩き潰した。

「うぁわ~誰だ、こんなゴキブリの巣窟みたいなの持ち込んだのは!」

「絶対に追求してやる!」

「ぼ、僕じゃぁないっすよぉ!」

金属の宇宙船の前には小さな虫の叩き潰された死体が六体。よく見ると、それ

はゴキブリにそっくりなバトルスーツを着込んだ何者か。しかし、完全にぺちゃん

こになってしまっているので、今となっては何だかわからなくなっていた。

 かくして宇宙船の乗組員は全滅し、母船との連絡も取れなくなってしまった。地

球の大気圏外で待機していた母船は、消息を断った船から送られてきた最後の

映像・・・とてつもない怪物が隊員たちを次々と叩き潰していく様子に恐れをなし

て、こんな野蛮な星と平和協定を結ぶことは困難と判断した。彼らは一旦母星

に戻る途上で、この惑星を無視するのか、消失させてしまうのかの討議必要が

あるという報告を送信した。

                                       了


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