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第四百三十七話 スぺース・オペラへようこそ。 [空想譚]

 信哉と章吾は根っからのSF好きだ。子供時代にジュール・ヴェルヌの「海

底二万里」やヴァン・ヴォークトの「宇宙船ビーグル号の冒険」といったサイ

エンス・フィクション小説と出会ったのが最初だと思うが、ちょうどその頃テレ

ビや映画でも怪獣モノが大当たりしていたことも深く影響しているのだと思

われる。今でこそ、少々のCGや特撮映像を見ても驚きさえしないが、当時

は不思議な映像を食い入るように見つめ、巨大怪獣が出てくると驚いての

けぞったのだ。

 子供時分に見た映像は、大人になってからも思いのほか人間性に影響

与えているものだ。だから英才教育だとか、三歳までの情操教育が大事

といわれるのもうなづける。SFを見たり読んだりして育った人間は、いつ

でたってもSFが好きなのだ。

 「星間戦争が、3Dになって再上映されるね。」

「ああ、あれねぇ。僕はDVDで持ってるけど、やっぱり大画面で見る方がい

いよね、あの映画は。僕は3Dでなくってもいいとは思うけどね。」

「ふーん、俺は飛び出るのがいいと思うけどね、リアルで。けど、最近、ああ

いう映画、なんていうの?スペース・オペラっていうのかな、あまり見なくなっ

たと思わないか?」

「スペース・オペラ?なんだそれ?あれはオペラなのか?僕が見た映画では

誰も歌ったりしてないぞ。オペラってほら、あれだろ?ワーグナーとかモーツ

アルトとかの・・・。」

「それは歌劇のオペラだろ?スペース・オペラっていうのはさぁ、宇宙で繰り広

げられる壮大な星間戦争ものみたいな・・・。」

「へへっ。ちょっとボケてみただけさ。というか、そのくらい最近はスペース・オ

ペラなんていう言葉さえ使わなくなってきたよねっていう・・・。」

「確かに。なんでだろうね。」

「一説によれば、もはや現実と物語が近くなり過ぎて、ああいう荒唐無稽な話

では皆が納得しなくなったっていうか・・・。」

「ふーん。俺が聞いたのは、ああいう映画っていうのは、ある種警告みたいな

ものだっていう話。」

「何なにそれは?」

「あのな、もうすでに地球にはエイリアンが大勢住んでいてな、政府とかNASA

はそれを知ってるわけ。だが、いきなり国民にそういう話をしたら混乱するから

映画の中にエイリアンや宇宙の物語を登場させてな、徐々に馴らしていこうと

いう国際的な動きだっていう。」

「するってえと何かい?スペースオペラばりの現実が、もう身近にあるってぇ、

そういうわけかい?」

「なんだよ急に江戸弁になって。ま、そういう事だな。俺もエイリアンの仲間か

も知れないということだな・・・。」

「・・・ま、まさか・・・お前、エイリアンなのか?ぼ、僕は信じないぞ・・・。」

「あほか、お前は。マジレスしてどうする。俺は人間さ。」

「に、人間・・・でもさ、いつああいう宇宙物語に巻き込まれても仕方がないくら

いには理解しているわけだろう?」

「ま、まぁな。ちょっとやそっとの事では驚かんわな。それに・・・そりゃぁ、俺だっ

てSF好きな人間だからな、死ぬまでに一度くらい宇宙へ召喚されたいものだわ

な。」

「よく言った!それでこそ我らSF世代の人間だ。いまさらエイリアンに驚きもしな

いわなぁ。すでにこの国にもエイリアンがうようよいるといわれたところで、もは

やそれもアリって感じだよね。」

「そうだ、その通りだ。しかし信哉はいつになく熱を込めていうよな、そんな事。」

「だってさ、そろそろかなぁと、思ってね。」

「そろそろって・・・何が?」

信哉は章吾の眼を注意深く見詰めながら、静かに頭を抱え込んだ。そのまま両

手を下ろすと、ずりっと頭の皮が剥がれて、その下から巨大な昆虫の頭部が現

れた。」

「さぁ、章吾。これから僕と一緒に宇宙へ出よう。今、宇宙戦士が募集されている

んだ!さぁ!」

 こうして宇宙人信哉に召喚されて、章吾は現実のスペース・オペラに巻き込ま

れることになったのだった。

                                   了


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