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第四百四十七話 神様お願い。 [脳内譚]

 「神様、お願い。助けてください。」

あなたはこんなことを天に向かってお願いしたことはないだろうか?私はこれ

までのまだ短い人生の中で、何度も天に向かって手を合わせた。学校のテス

トに失敗してひどい点数が付けられたテスト用紙を家に持って帰らねばならな

かった時。パパの雷が落ちないようにと願った。幼なじみでもある親友とひど

い喧嘩をしてしまった時。一週間も過ぎてからだけど、仲直り出来ますように

と祈った。その後も、受験の日、初デートの日、元旦のお年玉の時、大学で

知り合った彼と別れそうになった時。サークルでコンテストに出たとき・・・。

私は既にいっぱいいっぱい神様にお願いしてきた。もし、一生のうちで神様

お願い出来る件数が限られているとすれば、私はもう全部使い果たしてし

まったかも知れない。神様が聞いてくれてたとしたらのことだけど。

 だけど、今まで神様に何度もお願いして、その願いがすぐに叶った事なん

一度だってない。あの時パパにはこっぴどくお説教されたし、幼なじみとは、あ

れ以来没交渉になってしまったし、デートは惨めだったし、失恋したし、受験に

は失敗したし、コンテストは最悪だったし・・・。結局、いくら神様にお願いしたと

ころで、あの人はちっとも聞いてくれやしない。いつだって自分の力でなんとか

して切り抜けなければならないのだ。

 もし、この世に神様が入るとしたら、どうして世の中にはあんなに悲惨な事件

とか事故が繰り返し起きるのだろう?どうして国同士の、民族同士の争いが絶

えないのだろう。どうして人々は大災害で死ななければならないのだろう。きっ

と事故や事件に巻き込まれた人はみんな、「神様助けて!」そう天に向かって

願ったはずだ。だけど、聞き入れてもらえなかった。この世に神はいらっしゃる

のだろうか?そう思いながら死んでいったに違いない。

 神様は、こうしたことをいったいどう考えているのだろうか。もし、私が神様な

らば、持てる能力をすべて使って、争いを止め、事故や事件を防ぐだろう。災

だって、神の力ならなんとか食い止めることが出来るはずだ。なのにそうは

してくれないというのは、神様の怠慢なのではないだろうか?罰が当たりそう

な意見だけど世界の平穏無事を願っての意見なんだから仕方がない。私、

間違っているのかしら?

 こんなことを考えながら、マンションのベランダで午後の春の風を楽しんで

いたら、空からぼんやりと光るものがやってきた。神様?いや、そうではなさ

そうだが、でも神様みたいなおじいちゃんだ。

 「あのぉ・・・神様・・・じゃないですよね?」

「ほぉ、わしが見えるか?左用、わしは神ではない。じゃが、神の伝言を持っ

て参った。そなたは、神が願いを叶えてくれんと嘆いておるそうじゃな。違う

か?」

「・・・え、ええ・・・私に罰を当てるのですか?」

「むおっほっほ・・・そうではない。そなた、今までにどのくらい神に願いを送

った?数知れずじゃろうな。だがな、いったいこの地上にはどのくらいの人

間が暮らしていると思うとる?・・・考えたこともないじゃろうな。昨年度調べ

ではな、70億を超える人間が暮らしておるのじゃ。して、神は何人じゃ?

そうじゃ、神は一人っきりしかおらん。一人の人間が願い事を伝えるのに

30秒かかったとしよう。では70億の人間が願い事をいうのにどのくらい

の時間がかかるかな?35億分じゃな。35億分とは何時間かな?そう、

5833万3333時間じゃ。これを24時間で割るとじゃな、ウォッホン、な

んと2430555日、ということはじゃな6659年もかかるわけじゃな。」

「・・・・・・つまり?」

「つまりじゃな、そなたんお願いを聞き入れるのは、6559年に一回

しかチャンスがないということじゃ。」

「六千五百・・・?そ、そんなぁ。」

「そうじゃろ。神様一人で70億の人間の望みを叶えられんのはな、そういう

わけなんじゃ。じゃから、やっと順番が回ってきた時には、その人間は墓の

中に入ってもう数百年も経っていたというような・・・。」

「ふぁわぁ・・・なるほど、そういうわけだったのね・・・でも神様だったら一度

に何人もの声を聞き入れることが・・・。」

「無理じゃ。いくら神といえども、耳はひと組しかないのじゃ。神通力をもっ

てしても、せいぜい数人の話を聞くのが関の山・・・。」

「それじゃぁ、私の小さな願いなんて聞いてもらえるはずはないわね。でも、

じゃぁいったい誰の願いを聞いてるのかしら?」

「そんなもの世界を見たら幸運な人間の話はたくさん聞いたことがあるじゃ

ろ?その幸運な人間が、ようやく神が手を回せた人々なのじゃよ。」

「そっかぁ・・・。じゃぁあ、私の願いなんて・・・。」

「それがじゃな、そなたの順番がまもなく回ってくるのじゃ。わしはな、それを

伝えに来たのじゃ。6559年に一度聞き入れてもらえる、そなたの願いは、

さてなんじゃな?」

「え。何?今?言わなきゃならないの?」

「今すぐというわけではないが、まもなくじゃから、今のうちに考えておい

たほうがええのではないかな?さぁ、そなたの願いは、なんじゃ?」

「あの、その、きゅ、急に言われても・・・そんな・・・。」

「特にないということなら、パスにするが、ええかの?」

「ぱ、ぱす?!そ、そんな!でも、今すぐ困ったことがあるわけでもないし・・・。

私、どうしたら、どうしたらいいの?」

「では、パスかの?」

「いや、待って!じゃぁ、世界平和を!」

 一瞬、世界は平和になった。そして、それから世界の人々は、自らの手で世

界を平和にするべく努力を続けた。あるものは静かな手段で。あるものは武力

を行使してまで。

                                     了


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