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第四百五十八話 神様製造機。 [怪奇譚]

 最初は何かの冗談だろうと思った。でなければ、よくある詐欺まがいの宗教

商法か。それはインターネットを介した販売システム、すなわち最近流行りの

eコマースの中にリンクが貼られていた。

世界をあなたの意のままに。

あなただけの神様を作って、世界の支配者になろう。

 広告バナーに大きく書かれた広告コピーは、どうみても眉唾な文句なのだ

が、今まさに自分の思い通りにならない世の中を嘆いている伸太にとっては、

とても魅力的な内容に思えた。金額によっては騙されてみるのも面白かろう、

そう思って広告バナーをクリック。リンク先へジャンプした。

 あなたは信じるべき神様をお持ちですか?

Your Gods World co.という会社が運営しているらしいホームページのト

ップにはこんなフレーズがこれみよがしに表されている。

 やっぱりなぁ、神様かぁ。宗教だと思ったけどな。そう思いつつも、伸太は

その先へと読み進んだ。

 現在の日本人のほとんどは、信仰心を持っていません。婚礼の際にはキ

リスト教、葬儀の際には浄土宗、お正月には伊勢神宮、こんな風にその都

度祈る相手を帰る程度の信仰は、真の信仰ではありません。これでは神様

も仏様も、あなたの声を聞くはずもないと、あなたはそう思いませんか?そう

なのです、だから神はあなたの願いを叶えてくれないのです。

「神はあなた方一人一人の中にある。」

こんなことを言う人がいますが、これはあくまでも信仰的な言い方であり、真

理ではありません。本当はこうです。

「神はあなた方一人一人が作り出せる。」

人間は七十億人もいるのに、神は一人。これでは神様だって大変です。そこ

で、私たちはあなた自身の神様を出現させることができるマシンを完成させま

した。このマシンであなただけの願いを叶えてくれる神様を創出しましょう。そ

うすれば、今あなたが抱えている悩みや問題は、いとも簡単にあなたの神様

が解決してくれることでしょう。

<一週間お試しキャンペーン実施中>

まずはお試しいただける期間を設定しました。マシンの到着後、一週間お試

しいただき、気に入らなければご返品いただけます。その場合に限り、全額

ご返金させていただきます。さぁ、今すぐお申し込みを!

 伸太はここまで読み終わるやいなや、”お申し込み”と書かれた購入ボタン

をクリックした。

「一週間で判断すればいいんだろ?なんて親切な会社なんだ。これはどうや

ら詐欺商法ではなさそうだな。だって全額返金を謳うくらいだから、本物の機

械に違いない。」

 三日後、炊飯器くらいの大きさの箱が送られてきた。箱を開くと黒い四角い

のっぺりしたボックスが梱包材で包まれた状態で入っていた。早速取り出して

床の上に設置、コンセントを電源に差し込んだ。一枚のシンプルな取り扱い

説明書を見ながら、電源ボタンを押すと、”ピッ”っと小さな音がしてマシンが

起動した。

 電源を入れるまでは気がつかなかったが、電源ボタンのすぐ横に小さな窓

があって、そこにデジタル文字でWait...の文字が出た。ウィーーーン・・・・・・

しばらく続いていた音が止まって女性の声がした。

「音声案内に従って、入力してください。まず、あなたが作ろうとしている神様の

名前を入力してください。」

 ええー?入力ったって・・・キーボードも何もないし・・・どうすんだよ?そう思っ

た伸太は、苦し紛れに機械に聞いた。

「キーボードはどこ?」

「キーボー・・・神様の名前はキーボーでよろしいですね。承りました。それでは

神様を作りますので、マシンの前でしばらくお待ちください。神様はマシンの前

にいるあなたの生命エネルギーから作り出されますので、決してマシンの前か

ら離れないでください。」

 おいおい・・・キーボーって、勝手に・・・そうかぁ、音声に反応するんだったの

か。まぁいいや、名前なんて、どうでも。ここを離れるなって・・・?いったいどの

くらいかかるんだろう。十分ほどじぃーっとマシンを見つめていたが、喉が渇い

て来た伸太は、ちょっとの間くらい大丈夫だろうと考えて、冷蔵庫のある台所へ

水を飲みに行った。冷えた水を立て続けに二杯喉に流し込んでマシンのある

屋に戻ってみると、どこかに隠れていた愛猫のにゃん太がマシンの上でく

つろいでいる。おいおい、にゃん太、ダメだよ、これはおもちゃじゃないし、お

前が好きなテレビでもないぞ。伸太がそう言ってにゃん太をマシンの上から

抱き上げたとき、”チンチーン!”という音がして、マシンの上に神様が現れた。

「私はお前の神様、キーボーだ。お前の望みは世界征服か?人類滅亡か?

私はお前だけの望みをなんでも叶えてやるぞ。お前の魂と引き換えにな。」

 な、何だ、こいつは。世界征服?人類滅亡?魂?!神様っていうけれど、

見た感じも、言ってることも、まるで悪魔みたいじゃないか・・・しっぽだって

あるみたいだし。キーボーの体は、愛猫にゃん太と同じ灰色の縞模様で、

おまけに猫そっくりのしっぽをゆらゆら動かしている。伸太の反応を待つ

間、神様は自分の手をぺろぺろ舌で舐めては顔を洗っている。

「ははん。さては返品しようと思ってるな。ざんねーん!それは無理!私

が出てきてしまったからには、お前さんはもう私の言いなりだ。その代わ

りと言っちゃなんだが、私はお前の願い通りに世界征服をしてやるのだ

からな!」

 そう言うと神様は”ブワン!”という音と共に煙のように姿を消した。そ

して伸太は黒いマシンを持ち上げてうやうやしく神棚に置いた。

                             了


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