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第七百五話 成長期 [文学譚]

第七百五話 成長期

 朝夕、時間がくると足元に擦り寄ってなおなお鳴き声を出しておねだりする

小さめの器にドライフードを適量盛って動くと、私の手元を見上げながらすた

たとついてきていつもの場所で食事をはじめる。器の前で前足を行儀よく

揃えてフードに食いつく様子を眺めながら思うのだ。ドライフードって、栄養

バランスが取れていてこれがいちばんいいのだというけれど、こんなもの旨

いのかしら?

 ウチの愛猫たちは、この二年間ずーっとこのドライフードだけで育ってきた。

ときどきおやつ程度に生魚の欠片や、缶詰を与えたことはあるけれども、基

本的にはこのドライフードだ。生き物の身体は、毎日細胞が入れ替わってい

て、摂取した食べ物がその材料になっているという話を聞いた。だから、質

のいい材料を摂取することが大切なのだとも。つまり、この子たちの身体を

つくっている材料はこんなドライフードなんだなぁと思うと不思議な気持ちに

なってくる。

 愛猫は二匹いるのだが、公園に捨てられていた兄弟だ。三匹いたが、一

匹だけは知人にもらって頂いた。三匹はちょっと荷が重いとおもったから。

最初うちにやってきたときには片手に乗るような大きさで、それは小さな声

でみぃみぃ鳴いていた。可愛らしすぎて、ほんとうは一匹引き離すのはとて

も悲しかったのだが。その頃はすでにドライフードが食べられる二ヶ月ほど

になっていたので、そこからずーっと同じドライフード。餌をやりはじめて二

ヶ月ほど過ぎた頃、あれ? と気がついた。それはとても当たり前の話でも

あり、同時にいま頃気がつくかということでもあるのだけれど。

「この子たち、いつの間にこんなに大きくなったんだろう?」

 うちに来たときは片掌に充分収まっていたのに、二ヶ月後のそのときには、

両手でも余るサイズになっていたのだ。毎日毎日見ていると、そんなことに

も気がつかない。ほんのわずかずつ成長しているわけだが、日々接してい

るから感慨にも思わなかったのだ。この成長して増えた分は、すべてあのド

ライフードで作られているのだ、そう思うとますます不思議な気持ちになった。

 あれから二年も過ぎて、今や両手で抱えるほどのサイズにまで成長してい

る。二匹を片手ずつで同時に抱えるとちょっと重たいって感じ。さすがに、もう

いくら毎日フードを与えてもこれ以上は大きくなrそうにはない。私としては、い

まの倍ほどあるようなデブ猫にしたいのだけれども、この子たちにはそういう

才能はなさそうだ。でも、健康を考えると今くらいがちょうどいいのだろう。

 毎朝、会社に行く前に、今日は何を着ていこうかと思案する。ふと思い立っ

てそうだ、昨年買ったあのショートパンツにしよう! タンスの奥からそれを引

っ張り出して片足を突っ込んでみて違和感。腰まで引き上げてますます違和

感。入りづらい。ウエストのボタンが止まらない。ちょ、ちょっとこれ、どういうこ

と? 昨年はちゃんと履けたのに。この一年、私の腹回りは見事に大きく成長

しているのはわかっていた。けれども、ここまでとは。ドライフードも与えていな

いのに、いったい何が私のお腹をここまで成長させてしまったのだろうか。

                                 了


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