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第六百九十八話 終末 [文学譚]

 世界の終わりが来る。ついこの間まで、そんな噂が流れていた。2012年

十二月の世界終末説だ。そもそもこの噂は、マヤ遺跡に残されたマヤ暦の

解読にはじまった。つまり、マヤ暦には宇宙の仕組みが組み込まれており、

太古よりさまざまな予言がされている。そしてその多くが的中してきた。とこ

ろが、そのマヤ暦がちょうど二千十二年十二月二十一日で終わっていると

いうのだ。多くの歴史学者が調べたそうだが、その事実には間違がないと

いう。さまざまな予言を行ってきた暦がここで終わっている? それを知っ

た者はすべて戦々恐々として、なぜ暦が終わっているのかを知りたいと思

った。だが、その理由はどこにも見つからない。結果、誰が言いだしたのか、

暦が終わるときに、世界も終わるのだという説が唱えられ、それが世界中

に広まったのだ。二千十二年十二月、世界の終が来て、魂の昇華とも言え

るアセンションがはじまる! こんな話まで作られてきた。

 ところが、その後の発掘調査で、新たな遺跡が見つかり、どうやらマヤ暦

は終わっているわけではなく、ひとつの区切りが終わるだけで、ここからま

た数千年の未来に向けて新たな時代が繰り出される、そういうことが書か

れているという。この話で、世界終末説はいったんトーンダウンしたが、地

元ではまだ、世界終末Tシャツや世界終末カレンダーなどがお土産物とし

て売られていたようだ。

 はたして、マヤ暦が終わりを告げた二千十二年十二月二十一日が、二

日前に過ぎた。幸か不幸か、私も世界も、まだ存続しているようだ。だが。

 私は自分の行動予定をスマートフォンのカレンダーアプリで行っている

のだが、昨日までの予定はほぼ書き込み済だ。そろそろ次の予定を入力

しておこうと、来月の頁を開こうとするのだが、なぜだか開けない。それだ

けではない。今月のカレンダーも、よく見ると明日のところが白くぼやけて

いるのだ。なんだこれは? アプリのバグか? 何度も試してみるが、今

日のところまでは記入できるのに、あす以降が書けない、というよりは存

在しないのだ。これはいったい? 以前のマヤ暦で言えば、私の世界が

今日で終わるということなのか? そんな馬鹿な。これはバグに決まっ

ている。アプリの制作者にクレームをいれなければ。いままでとても便利

に使ってきただけに、いまさらほかのカレンダーには代え難いし。しかし、

これがほんとうは私自身の終末を暗示しているのだとすれば、私は今日

で、もしかしたらいますぐにでも終わってしまうのだろうか。ある瞬間で、

私はぱっと消えてしまったりして……くくく。そんなことを妄想しただけで

なんだか楽しくなる。これ、誰かに面白おかしく話たら受けるかなぁ。私

はそう思っ

                                   了


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