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第六百七十八話 合評会 [文学譚]

ーよし、次の作品ができた!まだまだ俺の順番ではないが。

 仲間のひとりがつぶやいている。この男は、過去に地方コンテストで優勝経

験があるだけにいつも自信満々なのだ。私は最近この会に入ったので、まだ

彼の作品を目にしたことがないのだが、それにしてもあまりにも自信満々だと

いうのも、たとえつぶやきとは言え嫌味っぽいなぁ。そう思いながら、そんなこ

とより自分の作品をテーマなり、モチーフだけでも編み出さねば、来月には自

の作品を披露しなければならないのだから、と焦りはじめていた。

 我々の会は、それぞれが作り出した作品をみんなに披露して、その成果を

褒めたり貶したり、評価し合ってお互いの創作力を高めていくというものだ。

ときとしては白熱し、ときとしては和やかな雰囲気で進行していく。今回も二

人の会員が順番に披露したあと、十数人いる他の会員が感想や意見を順次

述べていく。一人目は好評のまま終わり、二人目の田山氏の作品をいま皆

で見終えたところだ。彼はあの自信家の会員とは違ってとても謙虚な人だ。

「うーん、後半はまとまっていて、とても良かったんだが、前半がなぁ、いまひ

とつ未熟な感じで」

「私はよかったと思いますよ。迫力があって。とくに中盤以降は感動すら覚え

ましたね」

「僕はあまり共感できなかったなぁ。なぜならば、あまりにも自分が出過ぎて

いるような、なんていうか他者のことをあまり考えていないっていうか、もう、

自己表現に溺れているっていうか……」

「あれあれ、なんだか評価が二つにわかれていますねぇ。これは、いいのか

悪いのか」

「で、どうなんですか? 僕の作品は、いままで披露されてきたもの中で、何番

目くらいなんでしょうか?」

「何番目っていわれましても、それぞれ個性が違うし、一概に順位付けは……」

「どうです、ちょっと、もう一度見せてもらえませんか? みんなの意見を踏

まえて、もう一度みんなで見直してみませんか?」

 言われて田山は、まいったな、もう一度見せるのかと内心思いながら、わかり

ましたと言って早速準備をはじめた。

 後ろ向きからくるりと振り返る。顔をみんなの方に突き出して、息を詰めると、

顔全体が膨れ上がって真っ赤に燃えていく。ここのところが今回の田山のアイ

デアなのだが、同時に賛否わかれているところだ。田山はぷはぁーっと息を継

で今度は鼻の位置を下から上へ持ち上げるような顔面筋肉運動をさせて、

いには白目を向いて後ろにひっくり返った。

「だ、大丈夫ですか! 田山さん!」

「やっぱり、この技を二回させるのは無茶だったですなぁ、渾身の力を入れて

こそおもしろさが生み出せる作品ですからなぁ」

 こんなことを毎月行っているなんて、なんて馬鹿な集団なのだ、この変顔会

は。毎回そう思うが、一旦やりだしたら、面白過ぎて抜けられないのだ。麻薬

のように。

                            了


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