第六百九十一話 ニッポン未来のとう [可笑譚]
いよいよ選挙がはじまった。年の瀬の街には選挙カーが登場し、駅前では各
党の出馬者たちによる熱のこもった街頭演説行われている。
今日、この街の駅前で演説しているのは日本未来の党というこのたび新たに
生まれた新党だ。私はこの新しい政党に、密かな期待を寄せているのだが。
「みなさん、このたび発足しました日本未来の党でございます! 私はこの党
からこの選曲に出馬いたします、宇曽野奈伊蔵と申します!」
演説をはじめたところに、なにかモダンなデザインの屋台を引いた男がやっ
て来て、しばらくは選挙演説を聞いていたのだが、やにわに選挙カーから少し
離れたところの路上で屋台の店を準備しはじめた。まもなく、路上販売の準備
が整うと、屋台に備えた拡声装置をオンにして、いよいよ販売を開始するよう
だ。
「みなさん、我が党は、この名前のとおり、日本の未来を考える党であります!」
屋台のスピーカーからは、微かにAKEBI娘と呼ばれるアイドル集団のヒッ
ト曲が流れている。その歌詞は♫ニッポンの未来はおうおうおうおう!♫と
いうあの曲。屋台のスピーカーからオヤジの声がする。
「そして私のこの屋台では、ニッポンの未来を先取りする糖を考えております」
「我が党が約束するのは、税金の無駄遣いを即刻やめるということであります!
これはとても重要です!」
「そのとおりでございます。無駄な税金はやめて、そのお金で買えるもの、それ
が私の未来の糖でございます~」
「さらに日本未来の党では、アメリカとの貿易に大きく影響を与えるTPP問題
につきましても、日本独自の意思を持って対応するべきであると……」
「そのとおりでございます。我が未来の糖が使われているのは、キャンディ、
チョコレート、イチゴ大福、和洋どれをとっても日本独自の美味しさを盛り上
げるのあります」「我が、日本未来の党は、原子力発電につきましても、慎
重に検討を重ねた上で、これを卒業するという考えの下に……」
「そうなのでございます。もはや原子力発電の威力をも淘汰するこの美味
しさ! ニッポン未来の糖は、それほどすごい美味しさを秘めておるので
ございます。皆さま、未来の糖、未来の糖! ニッポン未来の糖をよろしく
お願い申し上げます」
「日本未来の党! 甘くて美味しい、未来の党! 皆さま、未来の党を」
「甘くて~美味しい、未来の糖!」
「国民の皆様に甘くて美味しい未来の党を、どうぞ~よろしくお願いします~」
「未来の糖!」
「未来の党!」
了
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