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第七百四話 すす払い [文学譚]

 一年のうちで、何が嫌かって、年末のすす払い、つまり大掃除ほど嫌なもの

はない。普段からきれいにしておればいいではないかと言いたいのだが、普

段から片付けるのが苦手で家の中は目につくところの掃除は妻がしているよ

うだが、妻から片付けてねと言われたものなどはすぐに納戸にほうりこんでお

しまいにしてしまっている。年末にはいよいよそれを片付けなければならない

のかと思うと、うんざりするのだ。出来れば知らんぷりしておこうと黙ってせっせ

と窓ガラスを拭いていたら、案の定妻から指令が降りた。

「あなた、窓拭きが終わったら、何度を片付けてね」

 これが嫌なのだ。妻から命令されるのも嫌だし、片付けるのはもっと嫌だ。だが、

言われてしまったからには仕方がない。やらなければとんでもないことになるのが

目に見えているのだから。

 窓拭きを早々に終えて、納戸の扉を開けた。三畳少しの狭い納戸だ。手前の方は

そうでもないが、奥の方はどうなっているのかわからない。積まれたダンボールや

バッグの中身を調べながら、少しづつ捨てるものとそうではないものを分類し、棚に

置き直して片付けはじめた。

 こういうことをしていると、思わぬものが宝探しのように出現する。あれ、探してい

た工具箱がこんなところにあったとか、無くした靴下の片側が隅からでてきたとか。

場合によってはなくしたと思って買い直してしまったものもあったりして、悔しい思い

をする。靴下の片方など、もう捨ててしまったはずだから、いまさら見つかっても仕様

がないのだ。行方不明になっていた名盤アルバムが見つかったときは嬉しかった。

ちゃんとここにしまいこんでいたのだ。ここにあることを覚えておかなければ。キャンプ

用品など、こんな寒いときに出てきてもらっても困る。夏物のジャケットも。

 何かが見つかるたびに、喜んだり肩を落としたり、思い出に耽ったりするから、なか

なか作業は進まない。二時間ほどそうやっているうちに、ようやく送まで手が届いた。

おや? なんだあれは? 奥の方の棚の影に何かがある。ズボンかな? 思って手を

伸ばす。ある程度芯があって棒みたいなもの。何だこれは。引き出そうとするが奥につ

ながっていて出てこない。仕方がないので手前の荷物を掘り起こして奥まで身体が入る

ようにする。ようやく棚の無効がのぞき込める状態になった。

 なんだ? 人形か? 驚いた。そこに横たわっていたのは……

「爺さん! あんたこんなとこにいたのか! 長い間探していたんだよ」

                                   了


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