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第四百二十一話 自炊狂時代。 [日常譚]

 日々、デジタル技術が進化して、最近ではタブレットとかいう新たな形状の

PCが人気だ。常に新しモノ好きの私は、こういうガジェットにはすぐに飛びつ

く。このタブレットPCというものは、いわばパソコンとスマートフォン携帯電話

の中間を行くような位置づけのもので、モバイルPCとして非常に便利なもの

なのだが、本来の目的はブックリーダー何だろうなと思う。

 デジタルギアの進化と共に広まっているのが”電子ブック”という形態の書籍

だ。書籍と言えば、本来は紙で出来ているものなのだが、この本というものは、

気に入ってるものなら大事にしたいのだが、書籍収集癖のあるものにとって、

置き場所に困る。どんどん増えてしまうので、狭い家に住んでいる身としては

いつかどこかで古本屋のお世話になることになる。それに、常にどこに行くに

も一冊の本をバッグに忍ばせていたいのだが、これも荷物になって困る。旅

行にでも行こうものなら、ボストンバッグの中には2~3冊の本が入るので、

それだけでも重たくなるのだ。こんな人間にとって、電子ブックと言うものは

便利この上ない。ブックリーダーがあれば、何冊でも持ち歩くことが出来る

だから。

 ガジェット好きで本好きで、音楽や映画も持ち歩きたい、出先で楽しみた

いという私にとって、タブレットPCは神のツールだ。もちろん先に持ってい

るスマートフォンでも同じことは可能なのだが、何しろ5インチ程度の画面

では、最近老眼が入って来ている私にとって、本を読むのは辛い。だから

と言ってノートPCは重すぎる。そこにこのタブレットPCの登場なのだ。誰

よりも早くから手に入れたのは言うまでもないのだ。

 この便利はタブレットも、持ってるだけではどうしようもない。音楽や映画

や書籍を取り込まない事には、ただの板に過ぎない。音楽は既にすぐに

取り込めるファイルになっているので問題ないのだが、映画はPCを使っ

てタブレットに入る形状に変えてやらなければならない。だが、これとて

もともと電子ファイルになっているのだから、少し手間がかかるだけ。

 ところが問題は本だ。電子書籍と言うものが世に出て数年たつにも関

わらず、まだまだその量は少なく、何よりも私が読みたい本が電子化さ

れていないケースがほとんど。そこで生まれたのが、自分で書籍を電子

化するという技だ。これを人は”自炊”という。

 「どう?自炊してる?」

「ああー家には炊飯器ないからねぇ・・・」

これは昔の本当の自炊の話。

「どうやって自炊してるの?」

「うん、最近、スナップスキャンを買ったからね、楽になったよ。」

 電子書籍を自炊するには、まず紙の書籍をスキャナーで読み込む必要がある。

スキャナーがあれば、見開きごとに読み込めばいいのだが、ページ数が多いと、

これを手動でやるのは大変だ。そこで、自動紙送りのついたスキャナーが便利に

鳴るのだが、これを使うためには書籍を1ページ毎にバラバラに裁断して自動紙

送りに設置しなければならない。書籍をバラバラにするのはなぁ~。最初はそう

思ったが、いざ電子書籍が出来上がってみると、嬉しくて裁断の抵抗など吹き飛

んでしまう。自分で作り上げた電子書籍は、それほど可愛いものなのだ。

 私はスキャナーと裁断機を購入して、家にある書籍を片っ端から電子化してい

った。古本屋に渡すくらいなら、電子化して置いとく方がずっといい。最初はお気

に入りの書籍を電子化。三十冊も電子化しただろうか。それから読みたくて購入

下ばかりの書籍も切り刻んで電子化。さらに保存版として随分前から本棚で埃を

かぶっていた本を片っ端から電子化。これでおよそ三百冊ほどの電子書籍が私

の手元に出来た。PCのハードディスクの中は結構いっぱいになってきたが、い

つでも好きな電子書籍をタブレットに入れて持ち歩けるというのはこの上もない

喜びだ。

 来る日も来る日も家にある書籍を電子化している作業をしていると、まるで仕

事のようだ。電子書籍工場で働いているようなものだ。大きな裁断機で本の背

表紙のところをザクッと裁断する。この時、ずれないように気を使う。バラバラ

の紙に化した本をスキャナーの自動紙送りトレイに少しづつ置いてやる。スナッ

プスキャンという便利な機械が次々と紙の両面を読み込んでは電子ファイルに

置き換えていく。ファイルは次々とPCに送り込まれていく。最後に自動紙送り

の出来ない分厚い表紙も読み取る。これで一冊出来上がり。

 ウチにはいったい何冊の書籍があるのだろう。三百冊ほどを電子化しても、

まだ押入れの中の段ボールから数百冊の書籍が出てきた。もはや本を読む

事よりも電子書籍作りに取りつかれてしまっている私は、電子化する本の吟

味すらしないで、出てきた本を片っ端から切り刻んでスキャンしていく。

 半年も過ぎた頃、ついに家の中にある本という本はすべて電子化してしま

った。そうなると、後はタブレットに入れて読む事を始めたらいいのだが、もは

や自炊に魅入られてしまった私は、何か他に電子化出来るモノはないかと探

し始めた。新聞。これは購読していないので、たまたま会社で手に入れたもの

を持って帰って電子化してみたが、版が大きい上に、情報が一日で古くなるの

で触手が伸びない。チラシも同様。こんなもの電子化してもつまらない。やはり

読み物でないと。雑誌は自炊しなくても既に電子化されているものが出回って

いるし。

 もはや自炊もこれまでか。後は本を買ってくるしかないな。いやまてよ、本を

作ればいいのだ。そう気がついた私は、自分でコンテンツを作る事に目覚め

たのだ。コンテンツを作る、つまりそれは本を書くと言うことだ。

 こうして今、一冊目の自炊本コンテンツの制作に取り組んでいる。既存の本

をばらしてスキャンするという単純作業に比べると、このコンテンツ作りはとて

も手間と時間がかかる。なによりも書くための材料が必要だ。書くための材料

とはつまり、ネタだ。とりあえず今の私が持っているネタは、電子書籍づくりと

いうネタしかない。自炊ネタだ。う~む、そうだ「自炊生活」いや「自炊狂時代」

というタイトルにしよう。

 まだまだ作業は始まったばかりで、一冊目にして途方もない時間がかかってい

る。しかし、これがやがて自炊本になる喜びを考えれば・・・あ、まてよ。表紙のデ

ザインとかどうしようか・・・。ま、いっか。まずは文字だな。うーん、なかなか難しい

ぞ、これは・・・。

                                       了


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