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第四〇三話 病は奇から。 [日常譚]

 病は気からというが、まったくその通りなんじゃないかと思う。中年期に

入ってから、妙にあちこちが悪くなりだして、その度に医者に行くと薬が

処方され、医者に行くたびに薬の数が増えていく。若いころは、年寄りが

アホほどたくさんの薬をありがたそうに飲んでいるのをみて、えらいこっ

ちゃなぁと思っていたが、今や俺自身がそんなことになってしまった。

 胃酸を抑える薬、腰痛を防ぐビタミン剤、痛風を抑える薬、血圧を下げる

薬、血流を良くする薬、アレルギーを抑える薬、禿を防ぐ薬、そしてすべて

の薬による胃もたれを防ぐ薬・・・もはや、どれがどれだかわからないし、

それらの薬が効いているのやらいないのやら。薬のおかげかどうか分か

らないのだけれども、今やすっかり体調がよくて、健康そのもの。

 まぁ、少し胃が重い時や、軽く腰がだるい時とかはあるにしても、そんな

モノは、身体を使ったら少しぐらいは疲労による症状なんて出るもんだ。

病気の内には入らんわい。そんなことより、こんなにたくさんの薬を毎食

後に飲まなければいけないって方がきつく感じ始めたなぁ。

 もう、こんな薬、飲まなくってもいいのではないか?そう思って全ての薬

を飲むのを止めた。すると、どこか悪くなるのかと少し心配したが、一週間

たってもちっともどこも悪くならない。何も問題はないらしい。なぁんだ、今

まで飲まなくてもいい薬を飲んでいたのか?むしろ、薬を飲むという行為

そのものが、自分を病人に仕立てあげてたのではないだろうか。

 この薬を飲まないと、腰が悪くなる、喘息が出る。痛風になる。アレルギ

が出る。こんな具合に。病は気からって、そういう事じゃないのかな。病気に

なったら周りが心配してくれるだとか、会社を休めるだとか、余計な苦労をし

なくてすむかもだとか、俺はそんな風に思って病気を受け入れ、薬を飲む

事によってすっかり病人になっていたに違いない。その証拠に、もはや薬

なしでも生きていけるし、身体もなんともないではないか。

 その日から俺は、自分は病気ではない!と強い気持ちを胸に、薬を飲ま

ない生活を固持し続けた。半年過ぎ、一念過ぎ。身体のあちこちが少し痛

んだり、食欲が少しだけ落ちたり、そんなことは日常的にあったけれど、そ

んなものは病気の内に入らない。そんなことで医者に行くと、また薬を処方

されて俺は病人になってしまう。だからきつい時は身体を休ませ、栄養を

摂って病気を羽根付けた。お陰で、ほら、健康そのもの・・・ごほっごほ!

 洗面所で歯を磨きながら、鏡に写る自分の顔を見て思う。あれ?なんか

少し痩せたかなぁ?いやいや、こんなもんだろう。そう言えば最近また食欲

落ちてるから、そのせいかな?おや?額がかなり後退してるような・・・いや

いや気のせい気のせい。それにしても腰が伸びないな、最近。無理に伸ば

すと腰が痛いし。手足がしびれるし。ごほっげほっ!ペッ!あれ?なんだ?

赤いものが混じってるけど・・・ま、いいか。ごほごほ・・・。病気になってたま

るものか。俺は元気だ、健康だ。自分にそう言い聞かせながら、俺はよたよ

たと老人のような足取りでベッドに戻った。

                                了


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