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第四百十九話 顔つなぎ。 [空想譚]

 「あ、はじめまして。今度担当させていただくことになった宅間です。」

「ああ、お話は伺っていました。前任者の鈴木さんもよくやっていただいてま

したが、さらに若返ってしかも優秀な方だと聞いてますので、期待してますよ、

宅間さん。」

「はは、こちらこそ、山本さんは厳しいけれども優しい方だと伺っております。

よろしくお願いしますね。」

「今日は、その、顔つなぎに来ていただいてるということなので・・・ちょっと個

人的な話で打解けませんか?」

「あ、いいですねー。そういうの好きです、僕。」

「宅間さんは、結構・・・その・・・オタク?だと聞いたんですけど。」

「ああ、御遠慮なさらずに、言ってください。私は胸を張って言えるオタクで

すよ。」

「ああ、やっぱり。実はね、私もなんですよ。私は元アニメオタクでね。今は

もうこの年になってパワーが弱ってますがね。」

「あ、そうなんですか。これは嬉しいなぁ。僕もアニメ系。というか、フィギュア

オタクなんですわ。フィギュアっていうと聞こえはいいですが、要はおにんぎょ

大好き人間なんです。」

「ああ、アニメオタクのほとんどは同じですよ。やっぱりフィギュアは好きですよ。

ウル星やつらのラムちゃんとか、ガンダムのアムロとか。」

「わぁ、そういうのです。俺…僕もそういうちょっと懐かし目のが好きで・・・ちょっ

といいですか?ほら。携帯ストラップはほら、SDガンダム。懐かしいでしょ。」

「わぁ、私もこれ、同じの持ってた。他にはどんな?」

「ちょっと新し目ですけど、美少女フィギュアのなかでも、あの涼宮ハルヒとか

好きですねぇ。」

「私はちょっと方向違うけど、ほら、ディズニーのウッディとか一式持ってま

すよ。」

「わぁ、トイストリーですね。僕はバズも好きだけど、やっぱジェシーが、あ

のそばかす顔が好きですねぇ。」

「ウッディに恋するジェシーが可愛かったね。」

「それで、もう少し突っ込んで言っちゃいますけど、僕がフィギュアの好き

なところは、いろいろオプションが付いてるとこ。」

「わかるわかる、ウッディだったら拳銃やカウボーイハット。それに、顔も

変な顔と怒ってる顔と、変更出来るんだよ。」

「あ、そこ!そこそこ!僕は底がいいんですよ。細かい付属品はもちろん

大好きだけど、その手や顔を付け替えられるところ。俺、フィギュアオタク

の中でもね、顔付け替えフェチなんですよぉ。」

「なんだ、それ?聞いたことないなぁ、顔付け替えフェチ?」

「プラモデルなんかでもそうなんだけど、頭の前半分と後半分が別々になっ

てて、それをカチッとはめ込んで取りつける。別の顔に差し替えるときはまた

顔だけを取って、別の顔をカチッと付ける。だから、フィギュアの頭には頭頂

部を頂点にして横線がずーっと入ってる。あの感じが好きなんですよ。」

「なんだそれ。随分ディテールだなぁ。」

「そうなんです。でも、オタクってそんなもんでしょ?みんなと共有できる

部分も多いけれど、自分だけのこだわり部分もある。僕のこだわりは、こ

の人形の顔のつなぎ目部分なんです。」

「ははーん、そうだな。その精神は分かる。けど、やっぱ、君はオタク変態

中の変態オタクだな。」

「ありがとうございます。ついでに言っちゃいますけど・・・ちょっと、ここんと

こ、触ってみられます?」

 宅間はそう言って山本の指を自分の頭に持ってくる。山本は不思議そう

な顔をしながら恐る恐る宅間の頭に指を充てて、言われるままに頭頂部か

ら側頭にかけて指を滑らせてみる。

「ん?なんだ、この筋は?」

「わかりましたぁ?そうなんですよ。僕の頭にもフィギュアたちと同じように、

前と後ろの接合部があるんです。」

「接合部・・・?と言うことは・・・?どういうこと?」

「ということは・・・僕の顔は差し替え式ってことですね。ちょっと待ってくださ

いよ。」

 宅間はそう言いながら山本に背中を見せてごそごそしている。鞄の中か

ら何やら怪しげなモノを取り出して、カチッ。ごそごそした後またカチッ。そう

してからおもむろに山本の方に向き直った。

「ほぉら、山本課長、こんにちは。」

「あっ!君は、前任者の鈴木君!」

 今日は顔つなぎだと言いながら、顔をつなぐ秘密を見せたかったのだ。

                              了


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