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第四〇二話 愛しのどーもメーカー。 [恋愛譚]

 「それでは、今日はこの辺で、懇親会に突入しますか。」

司会進行約の山本氏はこの会のまとめ役で、上手に司会進行をするが、お酒

の席になると、一歩退いて別の会員にバトンタッチする。山本は酒が飲めない

し、なによりそういうソフトな席を盛り上げるのは苦手なのだ。

 「じゃぁ、ここから先は、浦野さんにお願いしますね、いつも通りだけど・・・。」

浦野と呼ばれた男は、この会の古株で、もうすっかり宴会係として定着してし

まっている。浦野は頭髪も少なく、一見、かなりのおじさんに見えるのだが、

実は結構若く、まだ三十を少し越えたくらいだ。頭のお陰で、いつも十数歳は

年上にみられる。実年齢よりも上にみられることは、ビジネス上は決して悪く

はないのだけれども、プライベイトとなるとあまりいい感じとは思っていない。

なにしろ、チビ、デブ、ハゲという女性にもてない三代要素のうちの二つまで

を抱えてしまっているのだから。浦野はデブではないが、背はあまり高くない

のだ。

 そもそも、この会というのが、「デンパ友の会」と言って、かなりオタッキーな

会。今日だって、軍払下げの無線機の話で盛り上がってしまうくらいマイナー

な趣味を共有する男たちの集まりなのだ。男たちと言ったが、数少ない女性

会員もいる。河野幹子もその数少ない女性会員の一人で、滅多に会合には

出て来ないのだが、今日は珍しく顔を出していた。

 滅多に顔を出さないから、幹子の知り合いはほとんどいない。だから、懇親

会はパスしようかなと思ったのだが、丁度腹も空いていたので、少しだけ参加

してみることにした幹子だった。

 「いやぁ、軍払下げの無線機はよかったなぁ~。」

「ほんとほんと。あれ、今度店に行って触ってきますよ。」

乾杯を済ませた後は、みんなそれぞれに気になる話題について会話を交わし

始めたが、幹子にとって軍払下げの無線機なんて、よくわからない話だ。幹子

は、むしろ最近の無線LANだとか、スマートホンだとか、そういう知識を得たい

からこの会に参加しているのだ。

 そんな様子の幹子に気がついて、浦野はそれとなく別の話題を提示する。

「ところで、今度出たあのWi-Fiって、どうなんでしょうね?ね、河野さんも

そう言うことが知りたいんでしょ?」

「ええ・・・そう・・・ですね。」

いきなり話を振られてドキッとした幹子だったが、反面、この浦野という男に

見透かされているような気がして、別の意味でもドキドキした。

 幹子はもう三十五歳になるが、未だ独身で、今のところ交際相手もいない。

だから、そういう意味でも同好の男性がいるのではないかと思ってこういう会

に参加しているという向きもないではない。だが、こんなお宅の集まりには、

そう都合のいい男性がいるわけではない。第一ほとんどの男性が所帯持ち

なのだ。浦野はどうやら独身らしいが、幹子が興味を持つタイプの男ではな

い。やっぱり、男性だってカッコいい人がいいわよねー。幹子は心の中でそ

う思いながら、浦野の頭を眺めている。

 懇親会は、三〇分もすると、初対面だった会員同士もすっかり和やかな

雰囲気になって盛り上がってくる。それを見計らって、浦野はまたさらに盛り

上げようという趣向を提示する。

 「はい、みなさん、今日はね、あるところからこんな素敵なプレゼントを入手

していますよー。ほら、マイクロフォン型のストラップ。可愛いでしょ。残念なが

ら三個しかないので・・・いつも通りジャンケン大会で!」

 他愛のない品物でも、こういう席では盛り上がるものだ。それを見越してこう

いうものを用意する浦野もなかなかのものだ。幹子は思う。

 「こういう男の人って、案外女性に好かれるのかも知れないなぁ。いくら男前

でも、難しい顔をしてるあの人とか、なにかと格好をつけたがる会社のあの男

とか。浦野さんみたいなあっけらかんとして人を楽しませる人って・・・そういえ

ば最近見なくなったなぁ。」

 「じゃぁ、そろそろお開きということで・・・今日は、おひとりさま二千五百円で

仕切りましたぁ~!」

 いやぁ、どーもどーもと言いながら集金して回る浦野の頭を眺めながら、こ

の男を好きになる女性って、やっぱりいい子なんだろうな~。いつの間にか、

浦野の隣に並んでいる自分の姿を想像してしまっている幹子だった。

                               了


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