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第四〇九話 おしゃべりサプリ。 [脳内譚]

 「先生・・・どうも私は昔っから世間話とかが苦手で・・・。」

「ほぉ、世間話が苦手・・・それで?何かこまることでも?」

「困る事っていっても・・・なんか見てたら世間の人たちって上手にお付き合いさ

れてるじゃないですかぁ、道であったらとりとめもない話してたり、お昼食べに行

っても他愛のない話で盛り上がってみたり。みんな仲良くされてるじゃぁないで

すかぁ。それに引き換え私は・・・世間話が下手・・・っていうか出来ないもんで

すから、誰かが話していてもうすら笑いして端っこで聞いてるだけ。みんなの

中に入って行けないんですよ。」

「ふむふむ、それで?」

「それでって、先生・・・だから私には友達も出来ないし、なんかどんどん陰気

になっていくし・・・こうして心療内科のカウンセリングを受けなきゃぁいけない

ような事になっているわけですよ。」

「ほぉ。話が出来ないから、性格が暗くなっていると思ってるんですね。だか

ら友達もできないと。なるほど。じゃぁ、たとえばどんな風に話が出来たらい

いの?」

「どんな風にって・・・それがわからないから困ってるんじゃないですかぁ、先

生。」

「ああ、そうか・・・でもね、あなた。こうして私と話が出来てるじゃぁありませ

んか。こんな風に人と話せばいいんじゃないの?」

「・・・いやぁ・・・だってこれは相談っていうか、カウンセリングでしょ?世間

の人々はカウンセラーじゃないですし。私、自分の悩みごとばっかり話し

てしまって、皆にはうっとおしがられていたりすると思うんです。みんな、

そんなんじゃなくって、ほら、楽しそうに・・・そうそう、漫才みたいに話し

てるじゃないですか。ああいう風に話が出来る人間になりたいんです、

私。」

「なるほど、よくわかりました。なんとかしましょう。実はここにね、こうい

うのがあるんですよ。」

「なんですか?これは。大阪…エキス?」

「大阪エキス。まぁ、お薬っていうか、サプリメントですな。」

「はぁ、お薬。大阪エキス。」

「あなた、大阪に友達はいないですか?」

「あの。私友達は一人も。だけど親戚が一人、大阪にいます。」

「・・・あなたさっき、漫才みたいに楽しくおしゃべりがしたいっていいまし

たでしょ?漫才といえば、大阪人だと思いませんか?」

「漫才?大阪人?・・・あの、必ずしもそうとは思いませんけど、なんとな

くおっしゃることは分かりますけど・・・。」

「わかってもらえましたか。そうなんです。楽しくおしゃべりと言えば、大

阪の人々を見習うべきなんです。彼らは常に人の話の突っ込みどころ

を求めてて、また、突っ込まれるためにわざわざボケてみたりしてね、

そうして人と人とのコミュニケーションを円滑に・・・というよりも密にしよ

うとするわけです。われわれ心療医学に携わる者は、人とのコミュニケ

ーション、つまり社会生活を健全に営む事をきほn としていますからね、

ある研究者がこの大阪人のラテン気質とでもいう部分に目をつけて、

ついに大阪人のエッセンスを抽出することに成功したわけです。それが

大阪エキス。これを飲むとね、劇的に明るく楽しくなれますよ。特に会話

が巧みになる。どうです?試してみますか?」

「大阪…エキス・・・そう、ですね。そんなにおっしゃるのなら。楽しく世間

話が出来るようになるのでしたら、是非。」

 こうして一カ月分の大阪エキスサプリメントをいただいて帰った私は、

その日から早速服用を始めた。毎日朝晩二錠。それだけで楽しい人間

になれるなんて、本当かなぁ?

 服用を始めて三日ほどが過ぎた。

「三上さん、これ、昼までにコピーとっといてもらえるかな?」

「あ、課長。わかりました。で、コピーですが、陰気にとりましょか、それと

も陽気にとりましょか?」

「な、何だね君?その陰気にっていうのは。」

「いえぇその、どうせコピーするのに黙って黙々と陰気にとるのもええです

けど、それじゃオモロない。じゃじゃーんと鳴りものでも入れて陽気にとる

のもいいんじゃないかと・・・。」

「馬鹿か。どうでもいいから、きちんとやってくれたまえ。」

「へぇ・・・。」

それを聞いてた隣の同僚。

「三上さん、今の何?よくまぁ堅ブツ課長にあんな面白い事言ったわねぇ。

あなたのあんな姿、初めて見たわ。まるで落語みたい・・・。」

「誰が落後者やねん。面白いもおも黒いないですわ。普通の世間話じゃな

いですかぁ、おっほほ。」

「まぁ、まるで人柄変ったみたいだわ、三上さん。何かいいことあったの?」

「人柄ってどんながら?ええ出汁出るのん?鶏がらより美味いのん?」

「んまー何それ?バッカじゃない?」

「うん・・・たぶん、バッカじゃないと思うでー、アホでっせー。」

  ●

「せんせ、せんせー!何とかしておくなはれ!」

「おやおや、こないだの!すっかり大阪エキスが効いておるようじゃな。」

「それが行き過ぎですねん!みんながうざい言いよりまんねん。何とかして

えな!」

「そうかぁ、大阪エキスは行き過ぎやったか。では、名古屋エキスくらいに

しときますかな?それともいっそ博多エキスまで行っとくか、今度は。」

「せんせ、それなんでんね。わたいは新幹線ちゃいまっせぇ?」

「いや、早く治したいのなら、のぞみは大事にせないかん。」

                           了


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