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第四〇〇話 うるう人。 [空想譚]

 今年は閏年だ。閏年を説明するのは少し厄介だ。何しろ、古代の人類が決

めた暦に対して、つじつまが合わないところを修正するという、何だか本末転

倒な制度であり、またその理由というものが天文学と絡んでくるからだ。

 そもそも、一日というものは地球の自転に由来する。ちょうど一回転する時

間を一日としているのだ。一方、一年は地球が太陽の周りを一周する公転に

由来する。この自転に要する時間と、公転に要する時間は本来無関係だから、

二四時間×三六五日と公転に要する時間が丁度一致するとは限らないのだ。

そこに時間のずれが生じる。それが閏時間というものだ。この計算のずれを、

四年に一度、二月に一日を加えることで調整しているわけだ。

 ところがそれでもまだ何百年もたつとさらにズレが生じる。そこで、閏年は一

層複雑化する。
  1. 西暦年が4で割り切れる年は閏年
  2. ただし、西暦年が100で割り切れる年は平年
  3. ただし、西暦年が400で割り切れる年は閏年

こんなこと、いったい誰が理解できる?私にはさっぱり分からないのだ。だが、

世界中に実際に困っている人がいるのだ。そう、二月二九日に生まれてしま

った人。それが世界中に五〇万人もいるという。二月二九日に生まれた人は、

四年に一度しか誕生日が来ないから、たとえば今年の二月二十九日に二〇

回目の誕生日を迎えた人は、実際には八〇歳だったりする。これは困る。だ

から彼らは毎年前日の二八日にお誕生日を祝ったりしているというのだが。

 コンピューターで管理している情報などは、バグを起こしてしまったりすると

いう。そこで、世界では、閏年を廃止しようという話もあるという。四年に一日

加えようが加えまいが、百年の間に狂ってくるのはたった二五日だ。つまり、

実際の三月一日が百年後には二月五日並の気候になるだけで、たいした

事はないではないか。八百年もしたら、三月一日が真夏になったりして、ち

ょっとおかしな感じになるが、毎年少しづつずれていくのだから、その時代

に住んでいる人にとって三月が暑い季節だというのはごく普通のことになる

のではないかな。こうすることによって、お誕生日が四年に一度しか来ない

ような人はいなくなる。

 ところで、長々と前説が長くなってしまったが、実は私は閏人だ。二月二九

日生まれなのかって?いや、そうではない。それは閏年生まれの人だ。私は

閏人なのだ。いや、閏年生まれには違いないのだが、普通の二月二九日生

まれとは少し違う。四年に一度しか誕生日が来なくても、実際にはちゃんと

四年分の加齢があるのが通常だが、私は違う。誕生日の回数しか加齢しな

いのだ。つまり、私は今日、二〇回目の誕生日を迎えるが、八〇歳ではない。

実質的にも二〇歳なのだ。つまり、人の四倍年をとるのが遅いのだ。確かに

同級生たちは今年八〇歳になる者ばかり。だが、私はどこから見ても二十歳

の若者だ。困るのは、八〇年間も生きていたら、どれほど知識や知恵も膨ら

むだろうと思われてしまうことだ。

 「象時間と鼠時間」という話を聞いたことがあるだろうか?象は長生きだ。

一方鼠は短命だ。その二つの生き物の体内に流れる時間はどうやら違う

らしい。長生きな動物の時間は緩やかで、短命な動物の時間は早い。同

じように、人の四倍の時間を過ごす私の体内に流れる時間は緩やかだ。

だから私は普通の人がとても素早く見える。どうやったらそんなに早く動け

るのか、どうやったらそんなに早口でしゃべれるのか?不思議に感じる。

 だからみんな私の事をスローモーだとか、ぼんやりだとか評する。私は

他の人が一時間ですることを四時間かけてする。他の人が一年でマスタ

ーできることに、四年間かかる。だから、今年二十歳になる私の中には、

今年二十歳になる他の若者たちと同じ程度の知識や知恵しか蓄積出来

ていないのだ。これを困ったことと考えるかどうかはその人次第。私は、

別に何とも思っていない。ただ、同級生たちが私よりずっと早く死んでしま

うのは少し悲しいけれど。いずれにしても私にとって、未来はまだまだ長

いのだ。

                            了


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第三百九十九話 巻き戻し商会。 [脳内譚]

 あの時、何故あんなことをしてしまったんだろう。あの時、もう一つの選

択肢を選んでいれば今頃・・・。誰しもひとつくらい、そんな後悔の念を抱

いて生きているのではないだろうか。あの時何故・・・?

 私もそんな思いを抱えている一人だ。二十年前のあの時、トレーディン

グでひと儲け出来るかもと思いこんでしまった私は、ロクに勉強もしない

まま、人から勧められた銘柄に大きなお金をつぎ込んでしまった。

 「間違いない。今は不動産デベロッパーの時代だ。その中でも急成長

のこのA社の株を持っていれば、どんどん儲かる!」

証券会社のセールスの口車に乗ってつぎ込んだなけなしの五百万。一

年もすれば倍にはなるであろうと言う。普通に購入したマンションの一室

があれよあれよと言う間に億ションに変わっていた頃だ。そしてバブルが

はじけた。地価はどんどん下がり、世の中の不動産はすべからく十年前

の価格に戻って行った。もともと安く購入していたオーナーはまだしも、バ

ブル絶頂期に無理をして物件を手に入れた者はすべてが破産した。不動

産会社には債務物件がごろごろしだし、倒産する企業が相次いだ。もちろ

ん私が購入した株券もみるみるうちに底値になってしまった。

 もしあの時、あのお金を別のものに投資していたら・・・いや、無駄な事に

投資せずに、手堅く貯蓄していたら・・・。町を分断するように流れる川に掛

った大きな橋の上で川面を眺めながら私は今後の人生を生きていくべきか

どうか、ぼんやりした頭で考えていた。

 ふと橋の欄干に目をやると、べたべたと小さなチラシが貼り付けられている。

そして目に飛び込んだのは、町金業者のチラシの横に張ってあった白い小さな

張り紙。

 ”巻き戻し商会。あなたの人生をやり直せます”

なんだ?これは。人生をやり直す?巻き戻し?どういうことだ。私の人生をやり

直せるというのか?本当なのか?まさか!しかし、私にはもう失うものなんて何

もないな。だまされたと思って話だけでも聞いてみたい・・・。むくむくと湧き起こっ

てくるそんな思いを何度も反芻しながら、私はその張り紙を手に握って記載され

ている住所を何度も見ながら歩いていた。

 「ようこそお越しくださいました。よくよくお悩みになったことと存じます。あ、いや、

お顔を拝見すれば、そのようなことはすぐにわかります。では早速、本題に入りま

しょうか。」

 巻き戻し商会の男は、以下にこの事業が有用なものであるか、これまで何人の

人生を救うことが出来たかなど、業務の説明を手早く行った。そして最後に料金表

を提示してこう言った。

「あなたがやり直したいと思っている過去に戻して、なおかつ確実にやり直したいの

なら、五十万円が必要です。さらに、成功した時点で、残りの五十万円を請求させて

いただきます。」

 冗談じゃない。そんな大金を払えるくらいなら、私はこんなところにいやしない。そう

思って黙っていると、見透かすように男は言った。

「そうですよね、そんな大金がないからこそ悩んでらっしゃるんですよね。わかりました。

特別に、体験コースを設定いたしましょう。これは滅多にお話しないんですが・・・五万

円だけご用意ください。但し、この金額でご提供できるのは、問題の過去に戻して差し

上げることだけですよ。重要な人生の選択は、あなた自身がおやりになるのです。」

 私はこの体験コースに乗った。五万円なら最後のお金がある。五万円で人生をやり

直せるのなら・・・。巻き戻し商会の事務所の奥にある暗室に私を案内しながら、男が

話を続ける。

「何故、私どもが過去にお連れするだけでなく、やり直しにまで手を貸すかわかります?

過去に戻った人は、たいていその時点での記憶しか持たないからです。つまり、未来で

ある今のあなたの記憶は、過去には連れていけないのです。だから、あなたは正しい選

択をするようにしっかり肝に銘じてなければなりませんよ。」

 ○   ○   ○

 私は証券会社の男からA社という不動産会社の株を勧められていた。私は決心した。

この男を信じてみよう。思い切ってA社に私の全財産を賭けてみよう。必ず儲かる、私

はそう信じてなけなしの五百万円をセールスの男に預けた。 

                                  了

                                   


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第三百九十八話 ウィットニーの唇。 [妖精譚]

 人間はそれぞれの個性を持って生まれてくる。美しい姿の者もいれば、

秀な頭脳の者もいる。素晴らしい運動能力の者もいれば、美声の持ち

主もいる。それらの個性あるいは身体的特徴を”天性のもの”というなら

ばその通り。誰ひとり、同じ個性を持って生まれては来ない。つまり、そう

した固有の能力を発揮する肉体部位には唯一無二の価値があるのだ。

そしてそこに闇のマーケットが生まれる。

 かつて二十一世初頭には精子バンクというものがあった。高学歴な男

や人生で成功を収めた男性の精子を買い取って人工授精を受けたが

る女性がいたのだ。後に人道的な理由や宗教上の理由等ですたれてい

くのだが。

 やがて生体移植が日常的に行われるようになってから、優秀な臓器を

自分のものにしたいという願望を持つ金持ちが現れはじめた。

 あのアインシュタインの頭脳が売りに出ていたというのは有名な都市伝

説だが、脳の場合、それを移植された人間はいったい誰なんだろう?移植

された人なのか、脳の本来の持ち主なのか。だが、脳以外なら主体がぶれ

ることはない。若くして逝ったアスリートの筋肉。名ピアニストの指。一流ソ

ムリエの舌。そんなものが闇の市場に流れていたという。そしてあるとき。

 半世紀前に突然亡くなった世紀の歌姫ウイットニーの唇がマーケットに

現れた。歌声というものは、トレーニングによってカバーできる部分もおお

いにあるというが、楽器と同じで持って生まれた特有の響きが最も重要だ

と言うのは万人が認める事だ。つまり、世紀の歌姫の声を得るためには、

その人の発声器を得るしかないのだ。そこに目を付けた闇の業者が、声

楽を目指す金持ちに売りつけるために発掘してきたのだが、よくもまぁ半

世紀も昔のそうしたものが残っていたものだ。先見の明を持った誰かが

密かに入手して冷凍保存していたものらしい。

 私も歌手を目指す一人なのだが、とてもそのような高価な品物を入手

きるだけの財力がない。だが、こうした情報だけは入ってくるのだ。ウ

ィットニーの唇は、結局どこかの金持ちによって六千万ギニスで買い取

られたというが、その後、ウィットニーと同じ歌声を持った歌手が出現し

たという話は聞かない。よく考えると、品物はウィットニーの唇だ。歌手

が欲しいのは、唇ではなく、声帯付きの喉だ。いったい誰が唇を何のた

めに欲しがったのか。唇には喉までつながっていたのだろうか?

                                了


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第三百九十七話 35年契約。 [脳内譚]

 それはセールスマン風の男の来訪によって明らかになった。

「あのう、お母さまからはお聞きになっていないので?」

その男は、何やら母とかわした契約が来月の私の誕生日で満了するというのだ。

私の母は去年、病で亡くなった。その母からは、ついぞそのような契約めいた話

聞かされた覚えがない。父はと言うと、十年も前に亡くなっているので、こちら

にも確認することは出来ないのだ。だがその男は、契約が満了するに当たり、本

人の了解を得た上で、今度は返済期間に入ってもらわねばならないという。

「返済・・・ですか?そんな話は聞いたことがありませんね。母はいったいどのく

い借りていたんですか?」

「いえ、お金をお貸ししていたわけじゃないんです。それに、被契約者はお母様

はなく、あなた様なんですよ。」

 お金じゃない・・・?じゃぁ、いったい何なのだ?男は黒い鞄の中から茶封筒を

り出し、そこからいささか黄色く変色した契約書を取り出して私に見せた。

契約代行者 大野喜和子・・・これは母の名前だ。被契約者大野史明・・・これは

の名前。そして私が生まれた年月日が契約日として記されていた。書類のタイ

トルには「幸福貸与契約書」となっていた。

 幸福貸与?なんだいったい?私は男に尋ねた。

「何なのですか?この、幸福貸与とは?」

「文字通りですよ。幸福を一定期間お貸しするのです。あなたがお生まれに

なった時、なんらかの理由で、あなたは人並の幸福を得ることが出来ないと

いう不安があったんですね。それで心配したお母様が当機関を探し当てて、

このような契約をお結びになったのです。」

「人並の幸福を得ることが出来ない?・・・何らかの理由で?」

「さぁ、詳しくはわかりません。ですが、この備考欄を見ますと、あなたは何か

身体的に問題があったようですなぁ。」

「身体的な問題・・・私は小さいころから健康そのもので、身体に問題があった

という記憶はないですけど・・・。」

「さぁ、そこですよ。それこそ、私どもとの契約を交わされたから、身体的な問

もクリアされて、幸せな35年を過ごして来られたのではありませんか。もう、

ここまで平穏無事に過されてきたのですから、これからはその並に乗って、今

度は自力で残りの人生を幸福なものにしていかねばなりません。それと、今度

は今まで使って来られた幸福を少しづつご返却いただく事が契約条項にござ

います。こしてご返却いただいた幸福を、今度は次のご契約者様にお渡しす

る資源としなければ世の中の幸福が回って行かないのです。」

「ちょ、ちょっと待ってください。私が十分に幸福だったと?そりゃぁ、確かに今の

は人並程度に幸せには暮らしていますが、世の中にはもっと金持ちで幸せな

人間が山ほどいるじゃないですか。私はそんな契約を交わして手に入れた幸福

を謳歌してきたとはとても思えないんですが。」

「そうでしょうなぁ。しかし、考えてくださいよ。もし、この契約がなければ、あなた

どれほど不幸のどん底の人生を歩むことになっていたかを。前任者からちら

っと聞いた話なんですが、みなさんが、なぜこのような契約を交わされるか、そ

のいちばんの理由は身体機能欠損です。例えば、手足が不自由な状態で生ま

れてきたとか、心臓や脳に異常を持って生まれてきたとか。ああ、もちろん、誕

生時に限らず、生存中に事故などで手足を失ったとかいうケースもありますね

こうした欠損をなかったものとすることによって、本来なら不自由な生活を迫られ

たであろう子供が、まったくの健常者と同じ平凡な幸福を手に入れることが出来

る・・・こうした契約者様が非常に多いということなんですね。」

「じゃぁ、私は生まれた時は健常者じゃなかったと?」

「そうかも知れませんし、そうでないかもしれません。契約書にはそこまでは記さ

れておりませんので。」

「では、契約が満了して今度は返済に回るって事は・・・?」

「そうですねぇ。おそらく、少しづつ元の身体に戻って行くって事でしょうねぇ。でも、

心配なさらないで。返済は契約期間と同じ35年間で行われます。ですから、

すべての返済を終わられる頃には、あなた様はご寿命に近い年齢に達してい

す。今さら不自由で困るということもないのではないでしょうか?」

 結局私は、いいも悪いもなく、母が交わした契約の満了と、これから始まる返

言い渡され、説明を受けたという事実を示す書類に印鑑を押して男を追い

返していた。母が私のためと思って交わしたこの「幸福貸与契約」。いったいそ

れがなかったとしたら、居間の私はどうなっていたのだろうか?そして、これか

ら幸福を返済していく私を待っているのは、どのような人生なのだろう。

                                 了


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第三百九十六話 つながりたい。 [怪奇譚]

 どうも引っ込み思案でいけない。本当は、誰とでもうまくやっていける自信は

あるのだけれども、いざとなったらするりと逃げてしまう。正直言うと怖いのだ、

 学生時代にだって、チャンスはたくさんあった。関西にある大規模な私学だっ

たから学生の数も多く、友達をつくる機会は山のようにあった。実際に、クラス

サークルの中で知り合いはたくさんできたし、その中の数人とは長い時間を共に

過ごした。だが、それはあくまでもゼミの教室の中であったり、サークルの部室

という枠の中で仲良くしている振りをしてただけ。学校を出るともう、それ以上

の関係を結ぶ事はできなかった。

 事実、卒業してからは、それらの友人と連絡をとる事もなく、誘いがかかる事

もなかった。社会に出てからも同じ。会社の中で知り合いは出来るが、それ以上

の関係を結ぶ事はなかった。怖いのだ。知り合い以上の関係・・・友人だったり、

恋人だったり、そんな密接な関係になることが怖い。何故なら、関係が深まると

いうことは、お互いの境界線が曖昧になるということ。気持ちがそろっている間

はいいけれども、気持ちがずれてしまったとき、怒りや恨み、嫉妬みたいな、ど

ろどろした情念が流れ出してくる。私は、相手のそういうものに対応出来ない。

 「淑子は美人なんだから、もっと積極的になれば友達もいっぱい出来るのに。」

会社の同僚にそう言われた事もある。それはわかっている。全部自分のせいなの

だ。私さえ社交的になれば、きっともっと楽しく暮らせるはず。そうはわかって

いても、出来ない私がいる。

 あれは高校生の時。私はまだ無垢で、人の怖さなんて知らなかった。だから、

誰彼かまわず交流していたし、中でも気が合うと思っていた章子とは、まるで

姉妹のように毎日を共にしていた。だが、進学が身近に迫って来たとき、突然

章子の態度が豹変した。誰に吹き込まれたのか、私が章子の足を引っ張ってい

るというのだ。私の成績はそこそこ良かった。それに比べると、章子はかなり

低い成績だったようだ。その成績の低さは、私と遊び回っているからだという

のだ。章子の態度は日に日によそよそしくなり、受験の半年前には、もはや顔

を合わせる事もなかった。私自身も、彼女の変化に心を痛め、勉強が手につか

なくなった。危うく受験に失敗しそうになったが、かろうじて第三希望の学校

に潜り込む事が出来たのだ。彼女のその後は知らない。

 そんな青春期が私のその後の人間関係に暗い影を作ってしまった。人とうま

く付き合えない。いや、表面上は大丈夫なのだが、一定の関係以上にはなれな

い。もちろん、恋人もできない。それどころか親友さえいない。

 人間というものは、社会的な生き物だ。決して一人では生きていけない、そ

れが人間というものだ。三十にもなって、独り身で、両親も早くなくしてしま

った人間にとって、友人がいないというのは、致命的だ。せめて兄弟でもいれ

ば良かったのだが。

 そんな人間にとって救いとなったのが、最近流行のソーシャルネットワーク

というものだ。そうしてものを教えてくれる人もいない私がTwitterやFacebook

を使うようになったのは、ごく最近だが、使い始めると面白くって仕方がない。

何しろ、生身のお付き合いと違って、いやになったらいつでも逃げる事が出来

るのだ。合いたくなければ合う必要もないし、見たくなければ見なければいい。

私のトラウマを刺激するようなものは何もないのだ。

 私は誰彼なく友達リクエストをしまくった。知らない人でも、私の顔写真を

みて安心するのか、すぐに了解してくれる。ネットの上での私の”ともだち”は

どんどん増えていった。毎日、仕事を早々に終えて、家でつながりを増やして

いくのが楽しみになった。そしてある日。

 インターネットによってようやく自分の人生を取り戻せた気持ちになって浮

かれていた私は、現実を見る目が弱っていたのかもしれない。家に向かう自転

車で大通りに飛び出したところを、ダンプカーにはねられてしまった。即死。

 だが私にはわからなかった。私は死んでいるの?生きているの?でも、目の

前にはパソコンがある。まぁ、いいか、私はいつものようにPCを立ち上げて、

Facebookを開く。ともだちリクエスト。また誰かが承認してくれるだろう。

私のともだちは、これからももっともっと増えていくだろう。

                   了


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第三百九十五話 そら見てごらん。 [空想譚]

 マコトは空を見上げるのが好きだ。暇さえあれば、ずーっと空を眺めている。

「ほんと、あなたって空が好きなのね。」

いつの間にか隣に立っていたのは、同じ職場の同僚のケイコだ。

「そうなんだ。僕は、こうして空を見上げていると、悩みも悲しみも、すべてが

とっても小さな事に思えて、心が休まるんだ。」

「あら?あなたにも悩みなんてあったの?知らなかったわ。」

「何を言う。僕は悩みだらけだよ。でもね、こうして空を見てすべてを忘れる

ことが出来るから、悩みなんか持ってないように見えるんだろうね。」

「うふふ、意地悪言ってごめんなさい。私だって空が好きなのに、私以上に

空から愛されているようなマコトを見てたら、なんだか羨ましくなっちゃって。」

「馬鹿だな。空はみんなに平等だよ。みんな同じように空から愛されているん

だ。ある人が言ってたよ。”上を向けば空がある。一人ひとりの空がある”って。」

「わぁ、素敵。一人ひとりの空がある、なんて・・・それ、誰の言葉?」

「さぁ、知らない人。ずーっと昔、まだソーシャルネットワークなんてものが出来た

ばかりのころにね、PCの中で見たことがあるんだ。」

「・・・そうなんだ。その人も、今この空を見ているのかしらね。」

「そうだね。どうだろうね。」

「あたしもあなたも、やっぱり空が好きで、この仕事を選らんだのね。」

「そうさ、もちろんそうだよ。・・・さ、そろそろ明日の準備をしておかなくちゃね。」

「明日は・・・?どれにするの?」

「そうだな、今日は日本の京都の空だったから・・・明日はもっとカラリとしたLA

あたりの空にしてみるかな。」

マコトが胸の前に手を差し伸べると、展望室の真ん中に操作パネルが出現した。

マコトは両手で器用に透明パネルをスワイプしたりピンチしたりの操作を幾度も

繰り返して、夥しいデータ倉庫の中から目的のデータファイルを見つけ出した。

LA,2012.02.24と書かれたそのファイルを、透明パネル内に点滅する部分に

ほりこみながらマコトが呟いた。

「僕らは、いつか本物の空を見ることが出来るのだろうか・・・。」

 あの恐ろしい汚染事故以来、人類は地上に住めなくなって、地下に潜った。あ

れからすでに数百年を過ぎているはずなのだが、未だに地上が除染されたとい

う話は噂にも出てこないのだ。天井のドームに映し出される空の映像を夜のそれ

に移調させてから、マコトとケイコは展望室を後にした。

                                    了


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第三百九十四話 歴史に残る仕事。 [脳内譚]

 有名になりたいと思っていた。いや、そうじゃない。世界の歴史に名を残した

い、それが松本豊が若いころから描いてきた夢だった。

 豊は絵が上手だった。小学四年生の時には、市の写生コンテストでライオン

ズクラブ賞をもらったこともある。だから絵には自信があった。といっても子供

の絵の話だ。高校生になってからイラストレーターという職業があるのを知っ

て、よくわからないまま通信教育を受けようと思った。雑誌に挿み込まれてい

た葉書に得意な絵を描いて送ったら、才能があるから是非当通信教育で勉

強するようにという返信が来た。同封されていた申込用紙には、半年間で三

十五万円也という見積額が書かれていて、諦めた。

 ロックミュージシャンになろうと思ったこともあった。だが、世はギターブーム

で、あまりにもたくさんのギター弾きがい過ぎた。こんなに競争率の高い中で

名を残すほど上手くなるなんて、到底無理だ。そう気がつくのに時間はかから

なかった。十五歳の時に買ったフェンダーギターは、未だに押入れで埃をかぶ

って眠っている。

 大学を出て、普通にサラリーマンになったが、有名になりたいという夢を忘れ

たわけではない。この会社でトップになればいいと思った。三年後、上司からひ

どいイジメにあって会社を辞めた。それから一年間フリーターと称してさまざま

なアルバイトを転々としたが、これではいけないと考えて、サイド就職先を探し

た。生活のために働かなければならないと気がついたこの時には、もはや夢

なんて考えていられなかった。ただただ上から言われるままに働いて、酒を飲

んで、愚痴をこぼして、眠って、また働いて酒を飲んだ。

 気がつけば、定年を数年後に控えた年齢の豊がいた。世に言う”うだつの上

がらない”サラリーマン。それはまさしく自分の事だ。俺は何のためにこの半世

紀を生きてきたんだろう。毎晩そんなことを考えているうちに、すっかり忘れて

しまっていたあの夢を思い出したのだ。そうだ、俺は世界に名前を残さなけれ

ばならない。歴史に残らなければ、生きてきた意味がない。突然そんな気持ち

が強く蘇ってきたのだ。

 でもどうやって?絵描きになって?音楽家になって?いやいや、そういうのは

若い時にもう諦めてしまったじゃないか。あの時、そんなことくらいで諦めずに

追求し続けていたら、俺の人生は変わっていたのかもしれない。では、今から

だともう遅いのか?そんなことはない。そんなことはないが、あの時から追求

し続けてきたかもしれない自分を追い越すことは不可能だ。それ以上になれ

ない。もっと簡単なやり方があるに違いない。豊は尻を据えて考え始めた。

 今、この部屋には五十人くらいの人間がいる。その中で俺は今から歴史に

残る仕事を行うのだ。もしかしたら、俺と一緒にここにいるお前らも歴史に名

前が刻まれるかも知れない。だが、それを可能にするのは、この俺なのだ。

歴史に残る仕事をするのは、この俺なのだ。新聞には俺の名前がでかでか

と記されるだろう。お前らの名前は、そのついでにちょこっと載るだけだ。そ

して俺が今からすることは、マスコミすべてで取り上げられるし、世界中で

記録に残るだろう。そうだ、俺はようやく有名になれるのだ。いや、世界の

歴史に名を残す事が出来るのだ。ようやく夢が叶う。この夢さえ叶うならば、

もう思い残すことはない。五十余年にして、生涯の夢を果たせるならば、も

はやこれ以上生存したいとは思わない。夢を果たした俺には、もう生きる意

味なんてないのだから。

 建物の外で大きな声がする。マイクロフォンでが鳴りたてている奴がいる。

バカめ。俺に便乗して有名になりたいのか?何を言ってるんだ?

「・・・包囲されている!大人しく出てきなさい!」

は?なんだって?出てこい?そうか、俺に嫉妬しているのか?アホな奴らだ。

誰が出ていくものか。俺はゆっくりと部屋の中を見まわして、部屋に残ってい

る奴らに睨みをきかせた。どこかで”ヒャァ!”という悲鳴が漏れた。

 「次は誰がいい?誰が歴史に名を残したい?」

俺はそう尋ねながら、血まみれになった床に転がっているおびただしい死体に

足を掛けた。縛り上げられた五十余名の男女から恐怖の吐息が溢れる。俺は

そのうちの一人に銃を向けて、景気づけに一発ぶっ放した。

                                了


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第三百九十三話 モンスターうぃる。 [可笑譚]

 モンスターうぃる?

そう言えば、昨日あたり、どっかのブログで見たような・・・。

それは「ゴーストなう」やろ?なんかしょーもない私設ブログの・・・。

ああ、それそれ。ゴーストなうって・・・確か死んでもツイッタ―てたっていうよう

な・・・。

そうだね、まぁ、誰でも考えつきそうな、ありきたりなオチっていうかさ。

いったいどんな奴がそんな駄文を書いてるんだろね。

 ・・・そんなことはどーでもええねん。ほら、この、モンスターうぃるって・・・?

だからさ、ゴーストなうの真似じゃぁないの?

そうかなぁ。違うような気がするけど?

”うぃる”って、それも”なう”みたいなつぶやき用語なんでしょ?

そうだね、俺は使ったことないけど。恥ずかしくって、なんか。

恥ずかしい・・・そうよね。なうもそうだけど。そういえば、”なう”も”うぃる”

も最近は見ないけど・・・終わったの?ブームが。

さぁ。終わったかどうか知らないけれど、ブームってほどの事でもなかった

んじゃないの?

で、そのモンスターうぃるって・・・?

ほら、これ。

なになに?”本当になんて奴だ。ウチの子をノケものにしているなんて、許せな

い。明日怒鳴りこんでモンスターうぃる。”って・・・これ、親なんかなぁ?

ということは、学校に怒鳴りこむというつぶやき?

モンスターペアレントじゃん!

明日、怒鳴りこんでやる!モンスターうぃる?

なるほど。予告ツイートか。

今さ、モンスターうぃるで検索してみたら、こんなんもあったぞ!

”あの店はいつ行ってもサービスが悪すぎ(怒)。今度店員の態度悪かったら、

絶対モンスターうぃる!”だってさ。

ほぅお・・・モンスタークレイマーってことか?

まぁ、どうでもいいけどよ、こんな奴らにモンスターって呼び名付けてほしくな

いよな。

そうだそうだ。モンスターのイメージが下がる!

モンスターっていうのは、もっと気高く崇高な存在だよね。こういう嫌な奴らに

は、モンスターなんかじゃなくって”デビル”とか”エビル”とか、邪悪な名前を

冠するべきだと思うね。

ほんと、そうだよ。モンスターなんとかってやめて欲しい。モンスターの使い方

は、ナントカ・モンスターって言うのがいいよね。

怪物っモンスターとか、化け物モンスターとかか?

そのまんまやないかっ!

胴体はひとつ、首だけ二つという存在だから、”じゃぁ、また”という訳にはい

かない。ずーっと一緒にいるから、話し始めたらずーっと続く。自宅のこたつ

の中で、二つ首の俺たちは、いつまでもしゃべり続けるのだった。眠るか、死

ぬ日まで・・・。

                                了


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第三百九十二話 ゴーストなう。 [妖精譚]

 世の中にtwitterなどというものが広まってまだほんの数年だというのに、今

やこの”つぶやく”という行為が当たり前のように世の中に横行している。それ

ほどインターネットによるこのショートメッセージによるコミュニケーションが普

及しているということなのだろう。

 かく言う私も遅ればせながら昨年このシステムに登録をし、時々は世の中

の見知らぬ人々に向けて”つぶやいて”みたりしている。何をつぶやいてい

るのかっていえば、なぁにたいしたことはない。ランチのメニューだとか、酒

を飲んでいるとかその程度の事だ。何にも意味のないつぶやきなのだが、

それでも何人かがそれにリツィート、つまり反応してくれる。美味しいかいだ

とか、自分は今日は昼抜きだとか、リツイートそのものもたいていはほとん

ど意味をなさない。だが、誰かが私の行動をみてくれてるんだなぁ、という

安堵感にも似た感情が湧きあがる。大半のツイートは、おおよそそんなも

んなんじゃないかと思うのだ。

 ところが最近になって、奇妙なつぶやきを目にするようになった。それは

こんなつぶやきだ。

「ゴーストなう。」

 ゴーストなう?何だこれは?○○駅なうだとか、ランチなうだとか、”なう”と

いうのはこのツイッタ―ならではの言い回しで「今どこそこにいるよー」とか

「今、こんなことしてるよー」とつぶやく時に使われだしたものだが、ゴースト

なうとはなんだ?今、ゴーストしているよーってこと?ゴーストしてるとは?

 ゴースト・・・お化け、幽霊、実体のない何者か?それがなうとは?書き手

のIDは一人ではない。というか、毎回違うようだ。だから”なう”が使われだ

したように、これも何かをしている時の暗号として最近生まれたのに違いな

い。だが、このゴーストなうについての意見やレスポンスは一切見たことが

ない。誰も気にしていないのか?

 どうやらこのつぶやきにひっ掛っているのは私だけらしい。ネットで検索し

ても誰もこの件に触れていないし、まず「ゴーストなう」という検索ワードがヒ

ットしない。だが、その後も私は頻繁にこのつぶやきを目にしていたのだ。ゴ

ーストなう。

 やがて私はこの件を忘れ、ツイッタ―そのものも、たまに誰かのつぶやきを

眺める程度となっていったが、世間では相変わらず多くの人々がつぶやいて

いるらしいし、なにより、震災などの時にはこのつぶやきシステムが多いに役

立ったという。それは素晴らしい事だが、私にはもはやあまり興味がない。何

しろ私はまもなく死んで行くのだから。

 私の病がわかったのは先月。もっと早く見つかっておれば、手の打ちようも

あったというが、そう言われても空しい。見つけられなかったのだから。いまさ

ら悔んでみてもどうしようもないではないか。私は今静かに病院のベッドの上

に横たわっている。

先週からモルヒネの量も増え、このところ意識が朦朧としている。それでもや

る方なく残り少ない命を確認するがために携帯電話を手に、ツイッタ―や友

人のブログを眺めてみたりして過している。あと数日か、もしや数時間か。私

に残された時間は、もはや誰にもわからない。

 数日後。私は携帯電話を握ったまま冷たくなっている私の姿をベッドの上か

ら眺める事になった。天井に張りついている私の魂は、死体と同じ。つまり携

帯電話を握っている。ああ、そうだったのか。私は初めて合点しながら、手に

持った携帯電話を開いて入力し始めた。

「ゴーストなう。」

                               了


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第三百九十一話 ねじ巻太郎作。 [脳内譚]

 この国には、昔から世襲制度っちゅうものがあってよ、親のその親の、そのま
た親の代からずーっと、脈々と、同じ仕事を引き継いでいるという家計がある
もんだ。歌舞伎役者なぞは有名じゃが、他にも、鍛冶屋だとか、家具屋だとか、
伝統技を口移しで継がなければ途絶えてしまう仕事があるのだ。
 我が家が世襲してきた仕事は、そうした一見素晴らしい仕事と比べられると、
なんとも地味で、意味のない仕事のように見えるだろうが、本当のところは、
かなり重要な、いや、かなりどころか、この世で最も重要な仕事なんじゃわ。
 まぁの、刀や家具みたいに形に残るモノを作っているわけではないので、わ
かりにくいじゃろうがの、目に見えぬもんじゃからこそ、大切だっちゅうも
んもあるってこった。
 ほれ、この町には昔っからど真ん中に時計台があろうがな?おお、そうか、
地元のもんじゃないから知らんわの。まぁ、時計台があるんじゃわ。それ以
前は刻を知らせる鐘つき台があったわけじゃ。
 百年ほど前かのぅ、鐘つき台は時計台にとってかわり、それまでは鐘をつく
のが仕事じゃったわしらの仕事は、時計のねじを巻くというものに変わった。
鐘は一日二回つくのが仕事じゃったが、時計は一日二回ねじを巻いてやら
にゃあ、ならねえ。ねじ巻きを忘れると、時計はすぐに止まってしまい、時計
が止まってしまうと、この町の機能も止まってしまう。
 この町はクソ田舎のつまんない町だと思うじゃろうが、実はな、世界の中
枢を成す重要な役割があってな、この町が止まってしまうと、世界も止まっ
てしまうのじゃ。いや、実際にそうなったことは一度もない、つまり時計は一
度たりとも止まったことがないから、真実かどうかを確かめたことはないが、
少なくともそう伝えられているわけじゃ。だから、わしらは命をかけて、時計
のねじ巻きを行ってきたわけじゃな。
 ところが、最近、わしも歳をとってしまってな、どうも体調が悪い。じゃが、
わしには子がおらず、後継者もいない。町長にはその旨お願いしておるん
じゃが、未だに後継者の話は来ん。そうこうしているうちに、最近のわしは
どうかしておる。よく眠るんじゃ。それでこの間、ついにきまりの時刻に寝過
してしまった!
 これはえらい事じゃと慌ててねじを巻きに時計台に上がって行ったのじゃ
が、幸いまだ少ぅしねじが残っていたと見えて、時計は止まっておらなんだ。
これがもし、本当に時計が止まってしまっていたらと思うとゾッとするわい。
何しろ、わしの寝坊のせいで時計が止まり、町が機能を失い、世界が止ま
ってしまうんじゃからな。わしもまだまだ死ねんということじゃ。
 ただ・・・ちょっと気になることがあって・・・昨年、時計の点検とかいうて、
役所から技師が派遣されてきたんじゃがな、その時以来、時計の音が少ぉ
し変わったような・・・あ、いや、静かになったんじゃ。それまでは力強くカッ
チコッチと音がしてたんじゃが。うん、そんな音は今もしとるが、小さくなった
んじゃな。それに、それまでなかった電気の線みたいなもんが、時計の裏
 から出ておるんじゃ。その時不思議に思うて技師にこの線は何かと聞いた
ら、ああ、これは保険みたいなもんですと答えよった。ようわからなんだが
まぁええかと思うた。じゃが、今考えると、あの時時計は電気仕掛けになっ
て、あれは時計を動かす電線何ではないかと。
 ・・・そんな馬鹿な。それならわしみたいなねじ巻き人は不要ではないか。
必要ないなら即刻止めさせればよいではないか。じゃがわしはこうして今
でもねじを巻いておる。じゃから、わしがねじ巻きを忘れたら、世界は滅ん
でしまうと信じて一生懸命毎日毎日ねじを巻いておる。この仕事が無意味
なモノだとわかったら、わしはすぐに仕事を止めるだろうし、いやいや、そ
んなことより、死んでしまうじゃろうな、きっと。
 わしは毎日二回、街の時計台のねじを巻いておるねじ巻太郎じゃ。この
仕事は世襲制で、これまで何百年も受け継がれてきた。それでの・・・
                             了

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