第四〇八話 不治の病。 [日常譚]
「せんせ、なんや近頃、腰が痛んで・・・。」
「そうかそうか、こないだは手足がしびれるとか言ってたが、そっちの方は?」
「はぁ、そっちも相変わらずで・・・なんかいい薬ありませんか?」
「ふぅむ・・・いい薬と言われても・・・こればっかりはなぁ。」
「こればっかりはって・・・せんせ、治りませんか?」
「うむ、あんたのそれは病気じゃない、老化だからね。」
「老化って・・・先生。私はまだ六十になったばかりですよ。」
「六十といえば、もう立派な老人でしょう。人間でもなんでも六十年も使った
ら、そりゃぁ、どっか故障したり古びたりするもんじゃ。仕方ないな。死ぬま
で大事に使うことじゃな。」
「し、死ぬまで…大事に・・・?」
若いころはあんなに走り回って、パワーに充ち溢れていたのに、今や普
通に町を歩く時でもよろよろと・・・腕を上げたらキシキシいうし、歯はガタ
ガタ言うし、困ったもんだなぁ。そう言えば、若いころでも高熱が出たり、
ちょっと病気になった時にはこんな感じだったような・・・。これって、老化
って、やっぱり一種の病気と違うかなぁ?原因が黴菌やウィルスじゃな
いだけで、症状は同じようなもの。そうそう、原因が違うだけで、これは
病気なのだ。だとすると、これは治るのでは?
「そうじゃな、例えば古くなったパーツを新しいのと取り換えたら、もしか
したら治るかもしれんなぁ。だが、すべてのパーツを取り換えるなぞ、今
の医学では現実的じゃないぞ。それに脳みそだけは交換出来ないし。
脳みそ交換してしまったら、それはもはやあんたじゃなくなるからな。」
「じゃ、やっぱり治らないので?」
「そいったじゃろ。」
「じゃ、じゃぁ、先生、私の余命はあと・・・?」
「余命ってあんた・・・そうじゃなぁ、あんたは特に大きな病気があるわけで
もないし・・・あなたの余命は、あと四十年・・・。」
「へっ!?たった四十年?」
「あんた、人間百年といえば結構な長寿だぞ。御の字じゃないか。」
「そうは言っても後たった四十年で死んでしまうなんて・・・。」
患者である男は、自分の余命が四十年と知って、死ぬほどのショックを受
けたのだった。老化。それは人類がその起源と共に与えられた不治の病と
いう運命なのだ。
了