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第四〇四話 心をつなごう。 [可笑譚]

 「僕は、この集まりに来るようになって。とても救われた思いですよ。」

最初に口火を切ったのは、村野正だった。村野は自称パニック障害持ちで、

すぐにウロが来てしまうタイプの小心者だ。その彼が口火を切るなんて、や

はりこの会合のお陰で随分成長したということなのだろうか。

「僕は、あがり症っていうか、人前で話しだすと、緊張しすぎて何が何たらわ

身体くなってしまってしまってしまってしまいまする。ほら、もうすでにすでに

お陰さまで最初に口火が途切れてしまうほどになって、この辺でやめときま

す・・・。」

 やはり村野はまだまだ上がり症なようだ。しかし、この集まりは、心にさまざ

まな悩みを抱えた人たちが、お互いに話し合い、助け合って生きていこうとい

う自助会だ。アルコール中毒患者がお互いの体験談を話して治療する集まり

と少し似ている。

 「あ、私もそうですわ。私はなんていうか、そう、あのヒステリー持ちだったん

です。すぐに頭にかーっと血が上って、そうなるともう自分が何をしてるのかさ

えわからなくなってしまうほどで、自分が怖かったんです。でも、この会に来る

ようになっていろんな人の話を聞き、また自分の話聞いてもらうを事によって、

あ、私の事を分かってくれる人がいるんだって思うと・・・。」

「ははーん、あなた、友達がいないんでしょ?」

「な、何ですか、あなた、人が話している最中に横入りしてきて。」

「あ、横入りじゃなくって、その合いの手みたいな・・・。」

「何が合いの手ですか!ちゃんと謝りなさい、もう!キーッ!」

「まぁまぁ、お二人とも・・・。私は事故で、ちょっと頭がボォーっとすることが

あるっちゅうような事なんですがね、やっぱりこの会でお互いの悩みを交換

しているうちに、すっかり心が和みなしてねぇ・・・・・・・・・・・・・・・。」

「ちょ、ちょっと気元さん、しっかり!」

「あ、僕、いま眠ってました?え?起きて眠ってた・・・?なんすか、それ・・・」

「気元さんってば!」

「まぁ、よろしいですがな。そっとしといてあげたら。しかし、みんな思いは同じ

ですなぁ。この”心をつなぐ”っちゅう会の考え方のお陰でしょうな。わしは、酒

で人生を踏み間違えたっちゅうようなことでっけどね、今こうしてる時にでも酒

が恋しゅうて、口の中に酒のあの香りと味が広がってくるみたいで・・・。誰か

酒、持ってまへんか?」

「だめですよ、酒口さん、せっかく治ってきてるのに・・・。」

「私も一言。まったく同じ気持ちですね。こうして仲間が集まってお互いに励ま

し合うってことは素晴らしい!みんなそれぞれ抱えている問題や悩みは違うけ

れど、それを共有できて、また支え合う事が出来るっていうのは、人間として最

高の幸せなんじゃないでしょうか・・・あれ?ちょっと川上さんと村野さん、そこで

何してるんですか?腕相撲?え?なに?喧嘩?」

「村野!お前、僕の事をバカだと思ってるだろう?え?違うか?確かに、僕は勉

強嫌いだし、バカだよ。だからこうして・・・。」

「なんがですか?私は一言もそんなこと、あんたの事なんか僕は知りませんよ、

そ、そんなあなたの事なんて、俺は・・・。」

「うぅ~酒や!酒くれ!」

「ちょっちょっと、酒口さん、人のバッグ勝手にのぞいて!なんですのん?」

「もうお前なんかに度と来るな!」

「ワイはもとから性格悪いんじゃ!」

「酒出せー!」

「キーっ!誰がこんなん連れてきたん!?」

 もはや会場は阿鼻叫喚、無茶苦茶、罵詈雑言。何が心をつなぐだか。今度

からは”心をつぶす”に会の名前を変えなければならないなぁ。今日の幹事を

やっている無関人志は掴み合いと殴り合いを始めたメンバーを眺めながら、

そっとドアを開けて部屋を後にした。

                                    了


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