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第八百八十六話 忘却の人 [文学譚]

 物忘れが増えてきたなぁと思う。それは仕方がないことだ、年齢を重ねると忘れっぽくなるんだよ。そう言って元気づけてくれる人もいるのだけれども、もしかしたら若年性アルツハイマーになってるんじゃないかとか、加齢によって脳がだいぶん委縮してきてるんじゃないかとか、なにかと心配になる。

 誰しもある程度の物忘れはする。年齢も関係なく、若い人でも忘れっぽい人はいる。現に私自身もなにかをしようと立ち上がった拍子に、あれ、なにをしようと思ったんだっけなんていうことは若いうちからあった。それに歴史の年表や英単語とか化学記号とか、そういう覚える勉強は昔っから苦手だったし。大人になってからも人の名前はなかなか覚えられないし、知っている人なのにぱっと名前が出てこないなんていうこともよくあるし。

 あのテレビに出てる人の名前はなんていうんだっけ? 知っているはずなのに忘れてしまっていて、隣でテレビを見ている家内に訊くと、彼女もあれ? 誰だっけ、出てこないわ。なんてお互いに思い出せないことがある。そんなときにはなんとしてでも思いだした方がいいよ、なんて言われたこともあるのでなんとか思いだそうとする。思いださなければますます馬鹿になってしまうんじゃないかと思って必死で考える。だけどど忘れしたことって、そう簡単には出てこない。もういいや、仕方がないと思って、忘れたことを忘れてしまうことにすると、しばらくしてからああそうだって、閃きのように思い出す。そういうものなのだ。

 しかし哲学的にいうと、人間は忘却する生き物らしいし、逆に忘れることによって辛いことや厭なことから逃れてポジティブに前に進むことができるのだっていう説もある。確かに。近親者の死や、あまりにも辛い目にあった記憶なんて、いつまでも明確に覚えていたらもうやってられない。死んでしまうかもしれない。徐々に記憶が薄らいでいって、しまいには滅多に思い出さないくらいになっていくからこそ、明日がやってくるのだという気がする。だから、忘れてしまうということは悪いことではないのだと思う。ただ、忘却の良し悪しは程度の問題であり、頻度の問題なんだとも思う。

 私の場合、たぶんまだ許される程度だと思うし、頻度も多くはないと思う。よくあるでしょ? 酒に酔って何度も同じことを繰り返して話す人とか、さっき言ったことをもう忘れている人とか。酒のせいであるということがはっきりわかっていたらまだましだけど、わけもなくさっき自分で話したことを忘れてしまうなんてことになったら、すぐに病院に出向いてMRIとかとってもらった方がいいに決まってる。私はそう思うね。

 ええーっと、なんの話だっけ。あ、そうそう。

 最近、物忘れが増えてきたなぁと思うって言ったら、「それは仕方がないことだ、年齢を重ねると忘れっぽくなるんだよ」って元気づけてくれる人もいるのだけど、もしかしたら若年性アルツハイマーになってるんじゃないかとか、加齢によって脳がだいぶん委縮してきてるんじゃないかとか、なにかと心配になるんだなぁ、これが。

                                             了

 


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