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第八百八十三話 証言(アブダクション) [文学譚]

 私はベッドで眠っていました。ニューハンプシャーの自宅で。深夜二時くらいだと思います。何かの気配に目を覚ますと身体が動かない。意識だけははっきりしているんですが、手も足も、それどころか頭を動かすこともできない。しかし、ベッドのすぐそこに何者かがいるのだけははっきりとわかりました。いいえ、夢じゃありません、絶対に。恐ろしい何かがすぐそばにいて、その息使いのようなものさえ感じられるのに、首を回せないから確認できないのです。ああ、大変だ。何とかして起き上がらなければ、逃げなければ、そう思った次の瞬間、私は意識を失ったようです。多分、あの忌わしい何者かが私に何かをしたのでしょう。
 次に目を覚ましたのは、奇怪な部屋でした。灯りらしいものは見当たらず、なのに銀色の壁に囲まれた部屋であることがわかりました。壁際には見たこともないような機械がぎっしりと並んでいて、頭のでかい人物が何人かいて操作をしているようでした。やがてそのうちの一人が私に近づいてきました。私はベッドのようなものの上に寝かされていたのですが、近づいてきたそいつはやはり銀色の皮膚を持ち、でかい頭の真ん中にはぎらぎらしている二つの大きな目があるのがわかりました。私は逃げなければと思いましたが、身体が動きません。近づいてきた銀色のそいつは私の腕に針を刺して血液を採取しました。その他にも精液やら何やら、いろいろ調べられたはずです。しかし睡眠剤かなにかを入れられたのでしょう、私はまた意識を失い、気がつくと自宅のベッドの上で眠っていました。
 これだけのことを、私は精神科医に催眠術をかけられている間に話したそうです。自宅のベッドの上で起きたことは、私自身も意識して記憶していたことですが、それ以外は後から医師に教えられたことです。こうして私はあの時私自身に起きたことのすべてを知ることができたわけです。つまり、私が宇宙人に拉致されたという事実をです。ええ、嘘じゃありません。夢である筈もありませんよ。ちゃんと医師の手によって私の意識下に記憶された体験が引き出されたわけですからね。とにかく医学の力は素晴らしい。私自身が覚えていなかったことまで引き出してくれたわけですからね。宇宙人の姿? もちろんあの時はじめて見ました。精神科医の部屋で見せられた写真ですよ。私はこれと同じものを見たのだと医師に告げましたよ。催眠術から覚めた時にね。だって医師が提示したその姿は、催眠術の間に頭の中に残っていたイメージとそっくりでしたからね。ええ、他の体験者も同じような宇宙人を見てるそうですね。ええ、もちろん真実です。私の体験を疑うようなことを言われたら、私は即座にそいつをぶん殴りますとも。これは、私が本当に体験した事実なんですからね。
                                             了

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