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第八百六十九話 ベランダ浄化作戦 [文学譚]

 マンションのベランダが荒れ放題になってしまっている。前に手入れをしてからもう一年以上は過ぎてしまった。出口近くはまだましな方だが、それでもゴミの置き場所が曖昧になってしまっていて、空き缶、ペットボトル、瓶などが生ゴミバケツの周りに産卵しているという状況だ。まずはここをキレイにしたいのだが、そのためには全体を広くして置き場所を確保する必要がある。

 行っておくが、うちのマンションのベランダなど、たかが知れた広さだ。それなのに、様々なものの置き場になり、一年以上前に植えた植物のパラダイスになって、なにかわけのわからない場所になってしまっているのだ。

 家の中からはみ出したモノはとにかくベランダに出してしまう。キャンプ用品や猫砂やいらなくなった陶器、金魚鉢。最初はもちろん整理してきちんと置いていたのだが、一年の間に何がどこにあるのかわからないような悲惨な状態になってしまった。ベランダに放り出して一年過ぎたということは、結局使わないモノなのだ。そうは分かっていてもまた使うかもしれないという思いでとりあえず置いておいたのだが、いまは心を鬼にしてすべてを捨てなければ。ひとつずつゴミ袋に投げ込んで捨てるモノに分類していく。  

 少し空間ができてきたその向こうには、小屋のようなものが姿を表した。なんだこれは? よく調べてみると、それはエアコンの室外機だった。ただし室外機そのものではなく、木枠がカバーとして取り付けられているのだ。だから小屋に見えたのだ。小屋といっても朽ち果ててすっかり荒屋の様相を見せているそれを眺めているうちに思い出した。それはいつかホームセンターで購入した木製の室外機カバーだ。まるでトムソーヤの小屋みたいなカントリー風にデザインされたカバー。新しいうちはまだよかったが、板が外れてバラバラになる寸前のそれが室外機の上に覆いかぶさっている様子は、まるで災害に襲われた家のようだ。どうりでエアコンの調子が悪かったわけだ。周りを片付けて木の破片を取り除くと、随分とすっきりした室外機が現れた。

 次々とベランダは片付いていったが、まだ植物が残っている。以前は土いじりが好きで庭もないのにベランダに鉢やプランターを次々と持ち込んで野菜や観葉植物を育てていた。それもいつしか忙しさにかまけて放置していたのだが、今や何がどこにうわっているのかさえわからない。しまいには見覚えのない植物が繁っている。なんなのだ、この毒々しい色合いの葉っぱは。なんなのだこのいやらしい蔓は。放置している間に植物が独自に進化してしまったらしい。奥の方にあるのはサッカーボールの実をつけた植物か? 打ち捨ててあったサッカーボールを取り込んだ植物がいるらしい。それに……赤い先端を持った紫の蔓が庇のあたりから幾本も垂れ下がっているのだが、ゆらゆら揺れていると思ったら、俄かに動きだして私の方に先端を伸ばしてきた。なんだこれは、食虫植物か? 赤い先端から液が飛び出して私の顔にかかる。意識が遠のいていく……。

 妄想と遊びながら、ようやくすべてのゴミや植物を取り除くと、ベランダは思いのほかすっきりして、元通りに三畳ばかりの広さをより一層広く見せてくれるようになった。

                           了


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