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第七百八十三話 罹病 [日常譚]

 まさか自分がこんな病気になるとは思ってもみなかった。
 医者にかかっているわけではないのだけれども、ネットで調べてみてすぐにこれは病気だとわかった。自分の身体のことは自分が一番よくわかっているつもりだ。咳が止まらないわけでも、出血しているわけでもないが、これはもう間違いなく病気だ。
 父は十三年前に腹部動脈瘤破裂で亡くなった。その以前からあちこち悪く、肝臓癌だったり、脳梗塞だったりが心配されていたのだが、最後の最後に意外な部分が唐突に悪化してそうなった。肝臓も動脈瘤も、おおむね食生活や経年によるものだから、私にも起こりうるけれども遺伝するようなものではない。しかし癌は……母は三年前に肺癌で亡くなった。煙草など吸ったこともないのに肺癌で。私は少々喫煙する。その上癌には遺伝性があるという。だから、もしかしたら私にも癌が出来るかもしれないという危惧は持っていた。
 だが、癌に罹るより先に、別の病気になってしまうとは。
 手が震える。居てもたってもいられなくなる。これはある種の前触れだ。いや、発作なのかもしれない。この前兆がはじまると、もはや自分の意思ではなく、身体が勝手に動いて手元のスマートフォンに手を伸ばす。そうして虚ろな意識のままでブラウザを立ち上げて、めぼしいサイトを次々と巡っていく。とくに目的などないのに、ふらふらとあっちを見たりこっちを眺めたり。少しでも琴線に触れるものを見つけると、食い入るようにブラウザに現れているその記事を隅から隅まで舐めるように見て、ついには四角いあるいは丸いボタンにカーソルを併せて押してしまう。これでまた三千円。その前には千九百八十円。
 毎回、ボタンを押したモノの金額は知れているが、ちりも積もればなんとやらで、月末にはきっととんでもない請求額が提示される。
 もうこれは病気だ。四六時中スマホを見ずにはいられないという、端末中毒。そして、常に何かを買い続けるという買い物中毒。ダブルの病を背負って、さらに次の合併症が私に襲いかかって、きっと私はそのうち死んでしまうだろう。私に死をもたらす三つ目の病は……金欠病だ。
                                        了
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