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第七百六十八話 VEHICLE [文学譚]

 何かが違う。いつもそんな感覚につきまとわれている。大学生の頃、英会話教室に通ったが、中年男性やおばちゃん、OLが集まった教室に違和感を覚え、三ヶ月で辞めた。卒業して最初に入社した会社へは期待を膨らませて通ったが、与えられた業務が自分のものではないと感じて三年で辞めた。その後入った会社も、その都度違和感を感じて三年毎に辞めてきた。いまの会社に勤めてもう十数年が過ぎたが、違和感を持たなかったわけではない。何度繰り返しても同じことだと思ったのだ。
 会社の中ではあまり深く考えないようにし、できるだけ皆と溶け込むように努めているが、それでも自ずと孤立してしまう。仕事以外のことにはかかわらないようにしているからだ。同僚から飲み会への誘いがあっても体よく断るし、家族ぐるみの遊びなんてもってのほか。わたしはあの人たちとは違うのだ。
 会社から逃れるように、以前から興味のあった文章教室に通うようになった。最初は自分の居場所を見つけたと思った。ここで書くことを学んでいると心が休まる気がした。でもやっぱり違った。ここはわたしの場所ではない、額のあたりでそう感じるのだ。なら、いったいわたしの居場所はどこにあるの? 記憶の中で赤ん坊のわたしが怯えている。光。暗闇の中、ベビーベッドに閉じ込められたわたしに天から近づいて来る。光は覆いかぶさるように広がったと思うと、急速に点に縮まり、わたしの中に入ってきた。“Vehicle(乗り物)”。それはわたしの身体のことを確かにそう呼んだ。 
                                  了
読んだよ!オモロー(^o^)(5)  感想(0)  トラックバック(0) 
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