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第七百五十七話 充電時間 [文学譚]

 もう電池が三十%以下になっている! どうして? 今日は朝から一本も通話をしていないのに。
 携帯電話というものが普及してまだ二十年にもならない。なのに今や携帯電話を持たない人間を見たことがない。小さな子供ですら携帯電話をバッグに入れている世の中だ。私自身もそんなひとりで、この十数年というもの、常に携帯電話を持ち歩いている。会社に行けば会社の、家には家の電話があるというのにだ。誰かと通話する、あるいはメールでやりとりをする。その大半が手持ちの携帯電話で行っている。だから携帯電話を持ち忘れたりなどすれば、落ち着かないことこの上ない。
 それほど四六時中肌身離さない携帯電話なのだが、この便利な道具には大きな弱点があるのだ。それは、電池が消費されていくということだ。特に使わない日でも、夕方になるときちんと電池が減っているのだ。ちょっと前の型なら、一週間くらいほおっておいても電池が切れてしまうことはなかったのに、最新型のスマートホンという名の端末に変えてから、毎日のように充電をしてやらないと、すぐに電池がなくなってしまうのだ。これはどうしたことなのかと思うが、そういう仕組みになっているのだから仕方がない。通話を長くしたりなどすると、あっという間に電池を消耗してしまう。だが、それは端末を仕様したのだから仕方がないと思う。だが、使ってもいないのに消費してしまうとはどういうことかと思うのだが。
 電池が少なくなった携帯電話をコンセントにつなぎながら、ふと思った。そうか、これは人間と同じなんだと。つまり、人間は動き回ると腹が減って、エネルギーに換わる食べ物を入れてやらないと動けなくなってしまうのだが、じっと静かに横たわって何もしていなくても、やはり腹が減って食事を摂ることになる。つまり、通話をしなかった携帯電話と同じことだ。なんだ、自分と同じじゃないか。そう思うと急にただの道具でしかなかった携帯電話が愛しく思えてきた。そうかそうか、腹が減ったか。じゃぁ、充電してやらないとな。
 しばらくすると携帯電話の充電状態は少しずつ増えているのがディスプレイに現れている。それを眺めながらぼんやりと思う。なんだか私も空腹になってきた。おっと、充電が切れてきたようだな。ひとりごちながら私はベルトを少し緩めて、尻の真ん中に収納しているコードを取り出して、携帯電話をつないでいるコンセントの横の差込に繋ぐ。おおー、満たされていく、と安堵しながら。
                                    了
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