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第七百三十八話 ガキフライ [文学譚]

 食物にそれほど執着する質ではないのだけれども、ある日突然ひとつの素材

に執着してしまうことがある。偶然食べてみて美味かったために、翌日も、その

翌日も立て続けに同じものを食べたりする。美味しいと思えば毎日同じものを食

べてもまった苦にならないのだ。

 よく聞くのがカレー。カレーが好きな人は結構多いみたいで、たいていは毎日

食べても苦痛じゃないという声を聞く。それとは少し違うかもしれないけれど、い

ったん美味いと思ったら、しばらくはそれで食いつないでいける。カレーとの違い

は、それほど立て続けに食べていたのに、やってきたときと同じように、ある日

突然ゲップが出てしまうというところか。

 ちょうどいま、毎日のように食べているのが、ガキフライだ。この素材は、見た

目が気持ち悪く、ガラだって出来損ないみたいで良くないし、実際、存在そのも

のを疑いたくなるほどだ。わたしも随分昔にはじめて食べたときまでは、見向き

もしなかった。あんなもの食べる者の気がしれないとすら思っていた。ところが、

口に入れてみると、柔らかく、じんわりと肉汁が染み出てきて美味いのだ。生ガ

キもそれはそれで美味いけれども、ときどき食べ過ぎてお腹を壊す者もいると聞

く。その点、ガキフライでお腹を壊したという話はあまり聞かない。だからというわ

けではないが、いま執着してしまっているのはこのガキフライなのだ。

 ガキには旬というものがない。日本では冬が旬だという者もいるが、世界的に

見れば、年がら年中、いつだってガキは手に入る。たしかに寒い時の方が身が

しまっているような気がするが。そんなことより、若ければ若い方が柔らかい。

子羊や若鶏がそうであるように、やはりまだ成長しきっていない、捻ていないの

がいい。同じガキでも、ほとんど大人に地階状態まで大きくなってしまっている

のがいて、それは大きい分だけ肉の量は多いけれどっも、食えたものではない。

なにより、あの妙に大人びた態度とか、子供のくせにエラそうにしたり、不良に

なったり、思春期といわれるニキビ面だったり、そういう素材のイメージを思い

浮かべてしまって、もうそれだけでダメだ。やはり若ければ若いほうがいい。生

まれたてなんていうのは、そりゃぁもう涎が出そうになる。

 こんなことを書くと、なんだそれは、野蛮だなどと悪態をつかれそうだけれども、

美味いものを美味いと言って何が悪い。だいたい、あんなものみんな食いつくし

てしまえばいいのだ。すくなくともわたしはそう思っている。生でも、フライでもい

いから、美味いと思えるうちに食ってしまえ。わたしはガキフライがいいがな。な

ぁ、そうは思いませんかね、鬼のみなさん。

                                    了


 

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