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第七百四十八話 猫のこと [文学譚]

 私が猫という動物と出会ったのは、高校生のときだった。受験勉強をしてい

る部屋で、にゃおと声を聞きつけて窓を開けた。すぐ下から見上げる二つの目

と目が合ってしまって、入っておいで、というと、うんっと言って飛び込んで

来た。真っ白なきれいな猫で、その目はシャム猫みたいにブルーだった。何か

食べ物をやりたいと思ったが、なにをやればいいのかわからなかったので、冷

蔵庫からミルクを取って来て、皿にいれてやると、おいしそうに飲んだ。

 しばらく部屋の中をうろうろしていたが、またなおと言うので、外に出たく

なったのだろうと窓を開けると、ぴょいっと飛び出していった。なんだか賢そ

うな猫だったなぁと思いながら勉強に戻ったが、しばらくするとまたなおと声

がする。ははぁ、また戻って来たなと思い、窓を開けると再び飛び込んで来た。

だが、今度は何かを咥えている。なんだ? よく見るとそれは小さな小さな子

猫だった。子猫を咥えたままベッドの下に潜り込み、それからまた出て行った。

それを4階繰り返して、ついに彼女は四匹の子供を私の部屋に連れ込んでしまっ

たのだ。まさか、そんな親子を放り出すわけにもいかず、家の中から段ボール箱

を探して来て、布を敷き、猫の巣をつくってやった。こうして私と白い猫親子は

出会ってしまったのだ。

 一週間ほど子猫も置いていたが、全部飼うわけにもいかず、子猫の引き取り手

を探したはずなのだが、その辺りのことは記憶から欠落している。とにかく白い

猫は我が家の一員となり、死ぬまで家にいた。平屋だったので、自由に出入りを

し、何ヶ月に一回は遠出をしているのか帰ってこなかったりもした。あるときは

近所の犬と喧嘩をしたらしく、怪我をして帰って来たこともあった。なぜそうだ

とわかったのかというと、何度か犬とやり合う姿を見かけたことがあったからだ。

白い猫……タラと名付けたのだが……は、犬にひけを取らず、逆に襲いかかってい

た。なんという強い猫なんだと思った。

 美しい青い目の、きらめく白い毛を持ったタラは、賢くもあり、我が家の家宝

のようにして飼われていたが、それから十年ほどして亡くなった。そのとき私は

既に家を出ていたので、彼女が亡くなったときのことはほとんど知らないし、そ

れがいつだったのかも思い出せない。

 私が働くようになってから、一人暮らしをしたり、実家に戻ったりしていたが、

実家にいるときは、また別の猫がいたりした。それからまた実家を出てからは、

動物など飼う余裕はなかったのだが、一度だけ子猫を貰い受けた。だが、一年ほ

どして転勤することになったので、その猫は実家に放り投げてしまった。さらに

それから数十年。いま、私は再び三匹の猫と暮らしている。

 二匹は兄弟の雄で、黒いのと、白に黒い模様がある猫で、彼らは二年前からう

ちにいる。もう一匹はもう十年も一緒に暮らしている雌なのだが、これがまた猫

にしては賢くて、しかしわがままなお嬢様なのだ。常に自分がしたいように暮ら

し、好きなときに好きなようにする。ときどきぷいと出て行って帰って来ない。

甘えてくることもあるが、知らんぷりをすることも多い。私がべたべたと可愛が

ろうとすると、嫌がって逃げてしまったり、場合によっては邸宅引っ掻かれてし

まったこともある。押す猫と雌猫の違いかもしれないし、一緒に暮らしている年

月の違いかもしれないけれども、後から来た二匹の雄とはずいぶんと様子が違う

と言える。だが、それがまた愛おしく思えたりもするので、捨てがたい家族の一

員になっているのだ。

 二匹の雄猫はまだ二歳過ぎなので、いまはまだずーっと家の中だけで過ごして

いるが、雌猫は少し前からパート仕事をはじめている。大きな収入にはならない

が、まったく稼がないよりはましだし、何より、当の本人にとってそれは悪いこ

とではないだろうと思って好きにさせているのだ。仕事の内容はよく知らないが、

どこかの会社の情報整理みたいなことをしているらしい。できればもっと収入の

多い仕事に変わりたいなどと思っているようだが、いまのような厳しい時代、な

かなか猫を雇ってくれる会社などないぞ、と言ってやると、そうかなぁという顔

をして私を見つめる。

 ともかく、猫三匹と生活は、まだまだ続きそうではある。

                           了


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