第七百四十話 無店舗販売 [可笑譚]
人から勧められたCDを手に入れたいと、昔で言うレコード店を探すのだが、
あの大手レコードショップのHMVも、タワレコも、近くにはないのだ。ちょっと
前にあったところからはどうやら撤退してしまっていたりして、いったいどこで
CDを買えばいいのだろうと困ってしまった。最近はどんなものでも……服で
も文具でも、家電製品でも、音楽も、映画ですら、ネットで買うことの方が増え
ているために、店舗で買うということが廃れ始めているようなのだ。まだ、ファッ
ションの場合は、実際に試着してみたり、手にとって肌触りやなんかを見たい
ということもあるので、なかなかネットだけで買うということにはならないようだけ
ど、音楽や映画、本などは、ネットで購入する人が増えている。場合によっては
ジャケットなしのデータで買うとより安く手に入るということもあるようなのだ。こ
れは便利だという言い方もできるけれども、しかし、今回の私のように、今すぐ、
ジャケット買いをしたいという人間にとっては、少々困ってしまう場合も起きてし
まうのだ。
★ ★ ★
「店長、今月もまた売上が……」
「どうした? そりゃぁ、浮き沈みだってあるだろう」
「いえ、あの、もうこの半年ほど、店の家賃にさえ届かない状態ですよ……この
先、うちのみせは、どうなるんでしょうか?」
店員からそう言われた店長はしばらく考え込んでいたが、実は以前から構想
していたことをいよいよ実施すべき日が来たのだなと理解した。
「わかった。心配するな。俺に任せておけ」
「任せておけって……どうするおつもりで?」
「うん、今の世の中を見てるとだな、もはや家賃など払っている場合ではないのだ。
うちも、いよいよ無店舗販売に踏み切ろうと思う」
「無店舗販売? 無店舗って……店長!」
★ ★ ★
結局、すぐにCDを手に「入れることを諦めたわたしは、ネットで注文して、
翌日にはジャケット付きのCDを手に入れた。やっぱりいまはこうして買うの
がもう普通になって切れいるのだなぁ。ところで、ネットでCDを探している時
に見つけてしまった別の商品、へぇ、こんなものまでネットで販売するように
なったんだと驚いたものも、同時に届いたのだけれども……いったい、これ
はどういうことになっているのだろう。
半信半疑で箱を開いたわたしは、中に書類が入っているのを見つけた。
「なんだって……」
”この度は、当店の品物をお買い求めありがとうございました。当店では
より便利により満足していただけますように、店舗販売を終了させ、ネット
にてサービスを販売することに踏み切りました。どうか、ここに書いてあり
ますことを実施して、当店のサービスをお楽しみくださいませ”
続く書類には、マッサージのやり方が事細かく書かれていて、その順序
で自らのツボを押していくようにと書かれている。あぁあ、騙されたのかな。
どうりで安いと思ったし、こんなもの、どうやって? 出張でもしてくるのかな
などと思ったわたしがバカだった。整体マッサージのネット販売なんて、でき
るはずがないよなぁ。払い込んだ千円を返してくれよな。
了