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第七百三十九話 落ちる [文学譚]

 昨夜は夕食後すぐに眠ってしまったために、深夜に目が覚めてしまった。そ

れから風呂にゆっくり入ったら、すっかり目が覚めてしまい、そこそこねたから

もういいかと、二度寝はせずに起きてテレビ映画を見て朝までの長い時間を

過ごした。朝食をとってそのまま仕事に出かけたのだが……。

 いつもは遅刻寸前で駆け込む職場。だが、夜中からの時間を持て余してい

た俺は、早々に家を出たから会社についたのは異様に早い。いつもはそんな

ことしたことないのだが、身の回りを片付けて掃除までして始業時間を待つ。

と、気がついたら眠ってしまっていたようだ。ん? っこはどこだ? 仕事場で

居眠りなんてすると、目覚めた時には一瞬ここがどこだか、いまは何時だかわ

からなくなる。夕べ早々にベッドに入ったまま、今まで眠ってしまっていたのか、

あるいは風呂から上がってから二度寝をしたのだったか。まさかもう会社に着

ているなんて、すっかり忘れてしまっていたりする。が、そんな風に混乱するの

もほんの一瞬で、すぐに、ああそうか。ここは仕事場だったっけ。昨夜は変な寝

方をしてしまったから、いま頃眠気がきてしまっているのだな。理解してすぐに仕

事に戻ろうとする。ええーっと、いまは……そうそう、大事な業務の途中だった。

いかんいかん、こんなところで眠ってしまったのでは皆に迷惑をかけてしまうで

はないか。自分で自分を叱責して、身体に喝を入れる。ようし! そう気合を入れ

て復帰するが、それもつかの間。またしらずしらず落ちてしまっている。で、また

眼を覚まして、あれ? 今何時だっけ? ここは? バカじゃないかと我が身を振

りかえるものの、眠気だけはどうしようもない。そもそも俺は眠気に対してはすご

くだらしがないのだ。だが仕事中にそんなことでは、評価が下がってしまう。いか

んいかん、ぺしっと頬をはたいて気合を入れ直す。だが、それでもしばらくすると

……そんなことを何度か繰り返しながら無理やり仕事を続けていたのだが。

 どん! がしゃん! 偉い音がして俺は飛び起きた。ここはどこ、わたしは誰ど

ころではない。胸と頭に痛みが走る。なんだこれは? 俺は家で眠っていたんじゃ

なかったっけ? いやいやいや、変な時間に目覚めて、風呂入って、それから映

画を見て、会社に来たのだった。確かにそうだ。だけどこの状況はなんだ? 俺は

頭から流れる熱い液体に気がついた。背中の後ろではなにかたいへんなことが起

きているようだ。やってしまった。俺は仕事中に居眠りをしてしまったのだ。もっとも

やってはいけないことだった。もしかしたら、これでもう首になってしまうかもしれな

いなぁ。だいたい寝落ちするような俺には向いていなかったんだ、この仕事は……

早朝から運行する路線バスの運転手なんて……。

                                   了


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