第六百三十五話 言葉の力 [日常譚]
「どう? 気持ちいい? お父さん」
「うんとてもいい。お前なかなか上手だぞ」
小学生の可愛い息子が、私の肩をたたきながら聞いてくる。
「ぼくも大人になったら肩が凝ったりするのかなぁ」
私は言った。
「アメリカでは肩こりなんかないそうだよ」
「へぇー、どうして?」
「アメリカにはな、肩こりという言葉がないからなんだって」
「へぇえ! すごい面白い」
「日本には、肩が凝ったって言葉があるから、そうなるんだって」
「ぼく、いいこと考えた」
「なんだい?」
「あのね、世界中から“争い”って言葉をなくしたらいい。そうすればきっと、世界から戦争もなくなるんじゃないかな、ぼくそう思うよ」
この国を息子を預けたい、私は真剣に思った。
了