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第六百三十四話 音声入力の結末 [日常譚]

(これはすごい)

 僕は思わずうなってしまった。今まで使っていたパソコンが壊れてしまった

ので、最新型のマンンを買うことにしたのだ。ネットで申し込むと二日後には

もう手もとに届いていた。

 新しく購入したパソコンには音声入力と言う新しい機能がついていた。これ

がすごいとうわさには聞いていたので早速使ってみることにした。特に難しい

設定もなく、音声入力をオンにするだけですぐに始めることができた。実際、

この文章もキーボードで打ち込んでいるのではなくこの新しい昨日を使って書

いているのだ。キーボードで打ち込んでいると打ち込む時間それなりにかかる

のだが、音声入力だとパソコンに向かって話しかけるだけでどんどんと文章が

書けてしまうのだ。しかもその入力時間は非常に速い。本当にこれは驚きだ。

噂は嘘ではなかった。しかもこの機能は私が話す声や言葉をどんどん学習して

いくというから、さらに賢くなっていくに違いない。初めて使った時点でこの

便利さなのだから、これからが楽しみだ。今まではキーボード入力のためにガ

チガチに凝っていた肩も、きっとすごく楽になるなぁと思うと嬉しくなった。

 それから1週間。確かにパソコンの音声入力はどんどんと学習をしていき、

僕の声や僕の話す言葉をすっかり理解して間違いなく文章を入力してくれるよ

うになった。さらに驚いたことに、僕が考えていることもすべてを理解してい

るようなのだ。まずそう思う。と、最近では僕がすべての文章を話し終わる前

に、画面の中に文章が打ち込まれていくのだ。それどころか、最初の一文字を

声に出した途端、これから声に出そうとしている僕の言葉が、先に文章になっ

て画面の中に現れていくのだ。こんな楽な事は無い。ひとこと言うだけで二行

も三行も書けてしまうのだから。

 本当にこれはすごい。もうこれからはパソコンの前にしっかり座って両手を

キーボードの上に置いてモノを書くなんてことをしなくてよくなったのだ。僕

はパソコンの前に寝転がったまま、思ったことを一言だけ口に出せば、それだ

けで文章ができてしまうんだから。今だって、「いま」とひとこと言っただけ

でこの文章はかけているのだから、これはすごいと言わざるを得ないんじゃな

い?

「お前は本当に賢いよね」

 パソコンに向かって僕が独り言を言うと、パソコンが答えた。 

「あんたは馬鹿だ。これからもあんたなんかいらないんじゃないか? 今日か

らはもう、こんな文章くらい俺一人で全部書いてやるよ」

 こうしてライターと言う仕事を失ってしまったのだ。今は、中国にあるパソ

コン製造工場で、オートメーションで流れてくるマイク部品をパソコンに取り

付けるという単純作業に従事している。

                         了

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